モバイル決済アプリの新機能で「個人投資家の市場参入」の促進を狙う「フィリピン政府の目論見」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月25日 7時15分
写真:PIXTA
一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は重要インフラである通信と電力の最新のトピックを解説していきます。
個人投資家の市場参入促進策…懸念は過去の不祥事
フィリピン政府は、モバイル決済アプリ「GCash」を通じて、一般の人が簡単に政府証券に投資できる新機能「GBonds」を導入する計画を進めています。財務省はこれにより個人投資家の市場参入を促進し、政府の資金調達能力を向上させることを目指しています。
「GBonds」を利用することで、GCashのユーザーはアプリ内で簡単に政府証券を購入・売却できるようになります。財務省は現在、最低購入金額などの詳細を調整中ですが、低額から投資可能にすることで、幅広い層の国民が国債市場への参加を可能にすることを目標としています。たとえば、過去のリテール・トレジャリー・ボンド(RTB)販売時のように最低購入額が5,000ペソ程度に設定されれば、多くの国民にとって手の届く選択肢となると期待されています。一方で、最低購入額が10万ペソ以上のように高額になると、既存の富裕層向けサービスとの差別化が難しくなると懸念されています。
低額投資の普及により、政府証券がより多くの国民にとって現実的な選択肢となり、特にトレジャリービル(短期国債)への関心が高まる可能性があるとの指摘があります。また、GCashのユーザー基盤を活用すれば、個人投資家からの参加が広がり、借入れコストが10~20ベーシスポイント低下する可能性があるとの予測も。さらに、GCashが持つ9,400万人以上のユーザー基盤を通じて、短期的には200億~300億ペソの追加資金を調達できる可能性も指摘されています。
一方で、小口投資家市場の規模がまだ未知数であり、この新機能が政府の資金調達にどれだけ寄与するかは時間を要する可能性があるとの指摘も。また、現時点では大口の機関投資家が政府証券市場の主な参加者であるため、GBondsの貢献は当面は限定的であるとの見方もあります。
そして、GCashでは過去に不正取引やシステムエラーが発生しており、これが投資家に不安を与える可能性があります。しかしGCashがこれまでも迅速に問題を解決してきた実績があり、適切なセキュリティ対策が施されれば、投資家の信頼は回復するとされています。
比・最大電力会社、FC契約25年間延長へ
フィリピン最大の電力配電会社であるマニラ電力会社(Meralco)のフランチャイズ契約をさらに25年間延長するための法案が、上院に提出されました。この法案は、同社がメトロマニラ、ブラカン、カビテ、ラグナ、バタンガス、リサールといった地域での電力配電事業を継続できるようにするものです。下院でも同様の法案がすでに可決されており、契約期限の前倒し延長が可能となる内容が含まれています。
この法案により、Meralcoが低コストかつ公正な料金で電力サービスを提供する義務を負うことになります。また、不公正な取引や独占的な活動など、市場の競争を妨げる行為を禁止する条項も含まれています。そして、Meralcoの電力配電に関する料金はエネルギー規制委員会(ERC)の承認を必要とします。このような規定を通じて、消費者が合理的で公正な電力料金を享受できることが目指されています。
Meralcoは39都市と72の自治体で電力を供給しており、約775万人の住民や事業所を支えています。同社は2022年に104.3億ペソの税金を政府に納付し、約2.75億ペソを地域社会への投資に費やしました。このような背景を踏まえ、法案では同社の持続的な運営と地域社会への貢献が期待されています。
また、ERCは最近、配電料金設定規則の改定案を公表しました。この改定案は、Meralcoの第5次規制期間(2025~2028年)の料金設定を対象としており、過去の未設定期間(2022~2024年)も含む内容です。Meralco側はこの改定案についての検討時間が不足していると述べ、コメント提出期限の延長を求めています。ERCは、配電会社が料金を設定する際に予測される経費やプロジェクトを審査し、料金を調整する義務を負っています。
今回の法案提出により、Meralcoのフランチャイズ契約は長期的な電力供給の安定性を維持すると同時に、規制当局からの監視も強化される見通しです。この取り組みは、フィリピンにおけるエネルギー政策の透明性と消費者利益を確保することを目的としており、Meralcoの市場支配力が公正な競争を妨げることがないよう注意が払われています。
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