老後資金「2,000万円貯蓄」はツラすぎるが…もし「3%のリターン」で運用できたなら?→試算結果に衝撃【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月27日 11時15分
(画像はイメージです/PIXTA)
多くの人の関心ごとである老後資金の問題。近年では「2,000万円」という数字がひとつの目標となっていますが、貯蓄するのは決して楽ではありません。では、もし手持ちの資金を3%の利回りで運用できるとしたら、いくら準備しておけばいいのでしょうか。具体的な金額を見ていきましょう。元銀行員で大学教授のキャリアを持ち、いまも教壇に立つFPが解説します。
シニアに根強い人気だが…「毎月分配型投信」の注意点
頻繁に分配金を出すために複利効果を得にくい毎月分配型投信は、長期投資に向かない商品とされていますが、根強い需要があるとされています。
かつては、海外の高金利債券に投資をする海外債券ファンドを中心として、毎月、分配金を出す投資信託は販売額が多く、2014年1月に旧NISAが導入されたあとも人気の投資信託商品でした。
確かに「老後2,000万円問題」で指摘されたように、毎月約5万円の預金の引き出しが必要なシニア世代にとって、毎月の分配金はニーズに合っています。企業年金のあるシニア世代の方々は、平均月額が約5万円の年金給付があります(企業年金連合会「企業年金に関する基本統計」)。そのため、毎月の預金の引き出しは必要なさそうですが、健康的でアクティブなシニアライフのためのゆとりはほしいものです。
しかし、毎月分配型投資信託の分配金には元本割れ部分が含まれることもあることは知っておくべきでしょう。元本割れの部分は、元本の取り崩しに相当することになります。
最近では内外の債券、株式に投資を行うバランスファンドでも毎月分配型のものが多くあり、人気となっています。こうしたバランスファンドの長期的な収益性は6%程度であり、一方、海外債券ファンドの収益性は2%程度と考えられます(日本経済新聞電子版[投信]バランス型と海外債券〈過去10年〉を参考に筆者推計)。近年の円安でも海外債券ファンドのリターンが低い理由は、金利の上昇で過去に発行された利率の低い海外債券の価格が下落したからです。
この毎月分配型という分配金の受け取り方法については、行動経済学で解き明かされた錯覚も投資家にあるようです。これは「メンタル・アカウンティング(心の会計)」と呼ばれ、配当収益と元本とを区別するなどお金に区分を作る心の仕組みのことです。これが無意識に行われ、投資家は配当を重視して元本を温存しようとする判断が働くことがわかっています。毎月分配型ファンドはその効果で魅力的な商品に見えるのでしょう。
「堅実な資産運用&取り崩し」ができれば、多額の資金は不要に
シニア世代の生活費を考える場合、公的年金の資産運用で用いている予想リターンの平均値である年率4%で運用を行い、30年で毎年60万円を取り崩す場合、その投資元本は約1,000万円必要となります。これは「年金原価係数」という計算式で簡単に計算でき、FP技能検定試験ではほぼ毎回出題される知識です。
年間60万円を30年で取り崩していくことは、「老後2,000万円問題」の計算の前提となった値ですが、この数値は預金金利がゼロの前提で計算しているため、こうして堅実な資産運用を行いながら取り崩してゆくと、2,000万円という金額は小さくできます。
実際、この問題について、「預貯金だけですと、『2,000万円問題』ですが、仮に3%のリターンで運用できれば『1,300万円問題』に過ぎなくなり、退職までに2,000万円用意しなくてはいけないということではないといえます」とする指摘があります(野村アセットマネジメント お金を育てる研究所『老後2000万円問題の解き方』)。
毎月の不足額についてはインフレ目標の2%程度で増加することを考慮する必要がありますが、日本銀行の追加利上げについて、来年または再来年のどこかのタイミングで1%を超えていく、あるいは2%に近づけることを日本銀行は考えているとする指摘もあります(渡辺努「賃金・物価・金利の正常化:現状と展望」東京大学、2024年)。
そうすると米国との金利差は縮小して円安は終わり、預貯金の金利や投資期間3年や5年の個人向け国債の利率も上昇することになります。
今後の金利の上昇を考えると、インフレを考慮してもシニア世代にとって大きな問題である「老後2,000万円問題」の金額は小さくなる可能性があり、堅実な資産運用はその金額をより小さくするために貢献するのではないでしょうか。
藤波 大三郎 中央大学商学部 兼任講師
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