毒親から逃げるため自衛隊入隊も、体育会社会にめげて早々除隊…正社員なのに「手取り月14万円」家賃滞納でアパート退去。21歳・東京路上生活【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月30日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
東京は経済の中心地でありながら、若者の貧困問題が深刻化しています。非正規雇用や低賃金、物価高などが原因で、多くの若者が生活に困窮しています。本記事では、Aさんの事例から、東京で暮らす若者の貧困の実態について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
親から逃げたい
Aさんの幼少期は、いつもピリピリとしていた母親に怒られながら育ち、あまり楽しい思い出がありません。離婚した父親が養育費を払わない、仕事量の割に勤め先の給料が低すぎる、と母子家庭で生活が苦しいということもあり、母親はいつも愚痴を言っていました。祖父母とも疎遠な母親には、Aさんのほかに吐きだす相手がいなかったからかもしれません。小学校のころ、同級生の家に遊びに行ったところ、笑顔で子どもの話を聞く友達の母親の姿に驚いたことがありました。
母親は常に自分中心で、とくに機嫌が悪いときの八つ当たりにはAさんも参っていました。「お前はなんにもできない」「ダメでダメで仕方ない」と怒鳴り散らされました。Aさんが最も嫌だったのは「出来の悪いお前は、多額の借金を作って離婚した父親とそっくり、あんたも将来ああなる」などと繰り返し言われてきたことです。なにも言い返せないAさんは、早く家を出たい、母親から離れたいと、逃げることばかりを考えていました。
勉強が不得意だったうえ、うちには高校に入るお金もないと思っていたAさんは、中学卒業後の進路は就職を希望します。しかし、「親を捨てるのか」などと母親に泣き叫ばれ、なだめながらお金はどうするのかとAさんが母親に尋ねると、「お前も働けばなんとかなる」との返答が。結局、高校へは進学することに。隣町の公立工業高校に決めました。
高校入学後
高校進学後はすぐにアルバイトを始めます。バイト代は母親へすべて渡すことになっていました。Aさんもそれが当然と思っていたのです。
あるとき、同級生に母親のことを自虐的に話したところ、「それ、毒親じゃん」といわれます。Aさんはこのときはじめて、自分の親は毒親なのかと思ったそうです。そして高校卒業後は、今度こそ親から離れようと決意します。住みこみ全寮制の企業を希望したところ、進路指導の教師からは自衛隊を勧められ、戸惑いながらも毒親から離れられるならと入隊を決意します。
やっとの思いで離れられ、自由だと思いきや、自衛隊の訓練はAさんにとって過酷なものでした。学生時代に部活動などで運動をしたことのないAさんは体育会社会についていくことができず、早々に除隊します。
恐怖の転職先
Aさんは除隊したものの母親のもとには帰りたくないと、家と仕事探しをはじめます。高校の同級生で上京したという友人がいたため、ネットで都内の求人を探したところ、建設会社に就職することができました。心配だった住まいも、友人の助けもあって都内にしては家賃の安いアパートに辿りつくことができました。
正社員として働くことができホッとするものの、給与は一般より少なめで月17万円(手取り月14万円)です。それでもAさんは、蓄えがないこと、すぐに仕事に就きたかったという理由から即決。早速、翌日から勤務させてもらうことに。
Aさんは、1日7時間を週5日働いていました。あとでわかったことですが、2024年9月までの東京都の最低賃金は1,113円、10月からは1,163円です。9月まではぎりぎり最低賃金を上回っていましたが、10月以降も給与は変わらず、手当もありません。1週間のうちに40時間を超えて働いていても残業手当はついていません。さらに1日7時間勤務ですが、毎日のように10時間は仕事をしています。しかし、給与はほとんど変わりません。
2023年度総務省統計局の家計調査では、単身世帯の1世帯あたり1ヵ月の収入と支出では、消費支出が16万7,620 円、収入は月35万7,000円(勤労世帯「単身世帯」より)です。それに比べAさんは、手取り14万円から家賃、水道光熱費、食費などであっという間になくなってしまいます。
会社の同僚から、この会社は残業代も払ってくれないブラック企業らしいと聞き、ネットで調べてみると、自分は非常に安い賃金で働いていたことがわかります。ですが、上司にそんなことを話すと辞めさせられるのではと言い出せずにいました。
そんなある日、Aさんは、現場で足を滑らせケガをします。骨折でした。本来なら、業務災害で労災保険から給付がでるはずですが、会社から「働けないやつには辞めてもらう」と即解雇に。会社を退職する(解雇になる)と、要件を満たせば雇用保険からの生活保障として、次の仕事が見つかるまで失業手当が受給できますが、ケガをしているAさんは、仕事ができない状態だったため、国の制度を使えずに過ごしました。しばらくは少しの貯蓄とでなんとか賄っていましたが、次第に底をつき、家賃や水道光熱費など、口座振替にしていたものが、引き落とし日に残額がなく滞納していく月が出てきます。
Aさんは、スマートフォンで動画をみたり、ゲームをしたりするのが唯一の楽しみでしたが、残額がなく、携帯電話もとめられてしまいます。家賃を滞納していたため、とうとう強制退去の通知がきました。
セーフティネット
地方から出てきたAさんにとって、都内に友人は多くいません。アパート退去後は、高校の同級生の家に何日かのあいだは泊めてもらっていましたが、同級生も生活にゆとりがあるというわけではなく、長居はできません。途方に暮れました。とりあえずは日雇いで食いつなぎ、携帯代金だけは払わなければと東京の真ん中で野宿も致し方ない日々を送っています。
ただ、Aさんはまだ21歳と若いですから、一時的に働けない場合や次の仕事が決まるまでのあいだの生活保障が受けられる可能性がありますので、まずはハローワークや、行政に相談されることをお勧めします。
<参考>
家計調査報告 家計収支編 2023年(令和5年)平均結果の概要
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2023.pdf
厚生労働省:地域別最低賃金の全国一覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表
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