死ぬまで安泰のはずが…「年金37万円」「退職金4,000万円」の元国家公務員・71歳夫婦が決行した〈人生最大の英断〉→5年後、待ち受けていた「ジリ貧生活」の末路【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月26日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
夫婦揃って国家公務員として働いてきた70代の水口夫婦(仮名)。退職金は4,000万円、年金は夫婦合わせて月37万円と一般家庭より余裕があるはずが、毎月の家計は赤字続き。そんな水口夫婦の元に忍び寄ってきた「誘惑」とは……? 本記事では、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、退職金や老後資金を活用した投資の危険性を、事例を交えて解説します。
潤沢な老後資金がある70代夫婦の家計が「赤字」なワケ
水口洋一さん(仮名・71歳)と妻の真理子さん(仮名・71歳)はともに国家公務員として定年まで勤務していました。
夫婦で持ち家に住み、年金は月37万円。これは平均的な年金生活者と比べても十分な額です。退職金は2人あわせて4,000万円を受け取り、加えて老後生活に備えて2,000万円の資産を築き上げていました。そのため、退職時の金融資産も6,000万円と余裕のある金額でした。
一見、大きな家に住み、悠々自適な老後生活を送っているように見えた水口夫婦。しかし、実際のところそうではありませんでした。きっかけは、夫婦の定年後、1人娘の京子さん(仮名・38歳)が離婚したことでした。離婚した京子さんは、小学3年生の孫娘を連れて実家に戻ってきました。
それ以降、二世帯での生活が始まります。元は専業主婦だった京子さん。円満離婚ではなかったようで、養育費をはじめとした金銭的援助を一切受けられておらず、実家に戻り次第、職探しからのスタートです。孫娘は私立小学校に通っており、学費の問題もありましたが、本人の「辞めたくない」という気持ちを汲んで、水口さん夫婦が学費を援助することにしました。同様に3歳から習っているバレエも続けさせることに。京子さん親子の食費や光熱費などもすべて水口さんが負担しているため、毎月の出費は2人の年金を合わせても赤字で、預貯金を取り崩している状況でした。
働く気はある京子さんでしたが、ブランクがあったことと、子どもが小学生のうちはなるべく長時間働きたくないということで週3勤務を希望し、職探しは難航。希望通りの事務職の仕事を見つけるまでに、1年近くを要しました。実家が裕福なのでなんとかなる、という気持ちもあったのかもしれません。
最初は、愛する娘と孫のためならできる援助はなんでもしてやろう、という気持ちでいた水口さん夫婦でしたが、いくら潤沢な資金があれど、このペースでお金が出ていくのは危険かもしれない、と徐々に考えるようになってきました。加えて洋一さんの母親が生前に所有していた、遠方にある農地を相続しており、この農地にかかる固定資産税などのコストも問題となっていました。
不動産会社からアパート経営を勧められる
水口夫婦は、母親が残した土地について熟考を重ねた結果、相続した大切な土地を売却することを決意。不動産会社に売却の相談に行くと、担当の営業マンから意外な提案を持ちかけられました。
「売却することも有効ですが、せっかくお母さまから相続した土地ですので、売却せずにアパート経営などに利用し、有効活用してみてはいかがでしょうか? アパート経営の場合は家賃収入が見込めて相続税対策としても有効ですし、団体信用生命保険に加入すれば、生命保険の代わりにもなります」
水口さんはその提案を聞き、初めて「アパート経営」という選択肢に興味を持ちました。
不動産営業マンはさらに詳しく説明を加えます。
「現在の農地をアパート用地に転用すれば、毎月安定した家賃収入を得られる可能性があります。初期投資として建設費用はかかりますが、金融機関の融資を利用すれば手元資金の負担を抑えられます。また、団体信用生命保険に加入することで、万が一のことがあってもローンが完済され、ご家族に負担をかけません」
水口さんは、自分たちの状況を改めて振り返りました。現在の家計は赤字続きで、孫の将来を考えれば少しでも収入を増やす必要があります。また、相続した農地をただ手放すのではなく、母親の思いを受け継ぎながら有効活用できるという点に心が動きました。
「確かに、家賃収入があれば家計も楽になるし、固定資産税の負担が軽くなるのも助かる。それに、孫の教育資金や京子の支援も続けられるだろう」
水口さんは妻とも相談し、アパート経営に踏み切る決意を固めます。営業マンはさらに、建設会社や具体的なプランの提案を約束し、水口さんの背中を押しました。
数ヵ月後、水口さんは農地を活用したアパートの建設を開始しました。建築コストは総額8,000万円、水口さんの財産から3,000万円を頭金に入れることにして5,000万円のローンを組みます。
不動産営業マンの提案書では、利回り8%で年間想定収入額が640万円と試算。一方の年間想定支出額はローン返済や固定資産税などを合わせると440万円と試算されています。
水口さんは「この試算内容であれば、年間200万円の利益が見込めるし、生活もかなり楽になるな」と期待に胸を膨らませていました。
「想定外」続きのアパート経営
それから5年ほどが過ぎた水口さんのアパート経営状態ですが、ふたを開けてみると赤字続きです。
想定よりも部屋が埋まらず、半分以上の部屋が空き室状態になっていました。また、入居が決まっても、すぐに退去する人も多く、その都度ハウスクリーニングやリフォーム費用が発生する状態です。
具体的な数字をみていくと、当初の家賃収入は640万円と試算していましたが、空室が多く、実際には400万円程度にしかなりませんでした。水口さんのアパート経営は毎月のローン返済や保険料、修繕費、固定資産税などを考慮すると年間120万円、月換算すると毎月10万円の赤字に陥っています。
水口さんはアパートの収支報告を見ながら、思わずため息をつきました。
「なんてことだ、こんなはずではなかった……」
当初は年間200万円の利益が見込めると考え、家計の赤字を補填しながら孫の教育資金や生活費を支えるつもりで始めたアパート経営。しかし現実は厳しく、空室が多いため家賃収入は試算の640万円には程遠い400万円程度。
それでもローン返済や修繕費、固定資産税などの支出は容赦なく襲いかかり、毎月の赤字は10万円にも及ぶ状況になっていました。
「これじゃ、家計が楽になるどころか、かえって負担が増えているじゃないか。孫のためと思って始めたのに、こんな結果になるなんて……」
さらに、退去後のハウスクリーニングやリフォーム費用がかさむたびに、懸命に築き上げた老後の資産が徐々に目減りしていくのを実感せざるを得ませんでした。
「営業マンの話を信じて、安易に決断してしまったのが間違いだったのか……」
アパート経営は「ビジネス」であり、安易に取り組むのは危険
アパート経営には、以下のような多くのメリットがあるのは事実です。
・不労所得が手に入る
・節税対策になる
・生命保険の代わりになる
・インフレヘッジになる
しかし、一方で、空室リスクやローンに対する金利上昇リスク、多額の負債を抱えるリスクなどをきちんと把握しておくことが大事です。不動産営業マンが甘く見積もった収支計画書だけを鵜呑みにするのではなく、自身でも収支シミュレーションを実施し、本当に実現可能な計画書なのかをきちんと調査する必要があるでしょう。
後日、このままでは老後破産してしまう、と困り果て、セカンドオピニオンとしてFPに相談した水口さん。そこで受けたのは、まさかの指摘でした。
「お母さまの土地は、最寄り駅から徒歩25分のところにあり、周りに商業施設や病院などはほとんどありません。過疎化も進んでおり、アパート経営には向いていない土地です。不動産営業マンの試算では利回り8%とされていますが、この前提は『満室稼働』が続くことを条件としています。実際には空室率が高まる可能性が高く、家賃収入が試算を大幅に下回る可能性は高いです」
思わず言葉を失う水口さんでしたが、落ち込んでいてもしょうがありません。手遅れにならないうちに策を練らねば、と気を取り直し、その後、FPと話を進めていき、結局不動産を売却することに。売却した金額は当初の期待を大きく下回り、手元に残る現金はわずかでした。水口さんは肩の荷が下りた一方で、悔しさと後悔の念を抱えることになりました。
辻本 剛士 ファイナンシャルプランナー
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