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【M&A】表明保証で「売り手の知りうる限り…」はNG 事業売却を不利にする「最終契約書の要注意ワード」

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月14日 12時15分

【M&A】表明保証で「売り手の知りうる限り…」はNG 事業売却を不利にする「最終契約書の要注意ワード」

(※写真はイメージです/PIXTA)

交渉戦略上、株式譲渡契約書等の最終契約書の草案は、売り手の要望を反映したうえで売り手側から提示することが望まれます。本稿では、「最終契約書における具体的な論点」についてみていきましょう。M&A支援を行う作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)が解説します。

表明保証条項の設定

株式譲渡契約書においては、当事者が取引相手に対して一定の事実が真実あるいは正確であることを表明し、保証する「表明保証条項」が定められます。そして、表明保証違反が見つかった場合の責任を補償条項として定めます。簡単にいうと、当事者としての責任範囲を明確にするものです。

中立の支援を提供する仲介サービスを中心とした中小M&A業界においては、売り手の利益を守る観点から表明保証のあるべき範囲が議論されることはほとんどありません。以下では、売り手の利益を守る売り手FAの立場から、売り手が目指すべき表明保証の条件設定について解説します。

補償金額および補償期間

まず、責任金額の上限については、個別の特殊な事情がある場合を除き、売り手の立場からすると譲渡対価の30%以下の水準を交渉で目指すことが望ましいと考えます。特に、譲渡対価の手取り額の大半を失うような責任範囲の設定は受け入れるべきではありません。

また、補償期間についても、売り手の立場からすれば半年から1年、あるいは「買収後の1決算期の定時株主総会まで」といったなるべく短い期間を目指して交渉することが望ましいと考えます。数年という長期にわたり、売り手にとって不確実な状況が継続される状況は避けるべきでしょう。

なお、対象会社の存続、株式の所有権、売り主の契約締結権限に関する表明保証など、まさに取引の根幹をなす基本的事項に関する表明保証を基礎的表明保証といいます。基礎的表明保証については、その違反に対しては、他の表明保証と比べて上限金額はより高く、保証期間もより長く設定される場合がありますが、この点に関しては一定、売り手としても許容せざるを得ないでしょう。

また、補償金額の設計に際して、各補償事案の最低金額(=免責基準)を定めることがありますが、一般的にこの免責基準は補償上限額や期間などと合わせて交渉が行われるべき性質のものです。補償実務に関する双方の負担を軽減する目的も勘案して、合理的に許容可能な水準で免責基準の合意を目指すことになります。

その他の条件設定

その他の条件設定においても、売り手の責任範囲を限定するためにいくつかの工夫が求められます。その1つが「アンチ・サンドバッギング条項」といわれるものです。

アンチ・サンドバッギング条項とは、「デュー・デリジェンス等を通じて、株式譲渡の実行までに買主が認識していた事項については補償の対象にしない」ことを定める、株式譲渡契約書上の条文を指します。極端な話、アンチ・サンドバッギング条項の定めがなければ、売り手が適切な情報開示を行なっていたとしても、買い手は提出された資料を十分に確認していなかったことを理由に、あとで売り手に損害賠償を請求することができてしまいます。売り手が適切な情報開示を行うことと合わせてアンチ・サンドバッギング条項を定めることで、売り手の責任範囲を限定することが可能となります。

このほかにも、細かい文言に関する論点ではありますが、売り手の責任範囲に重大な影響を及ぼす記載が存在します。例えば、「売り手の知りうる限り」という表明保証条項の記載です。

「売り手の知りうる限り」という場合、売り手が合理的に調べれば知ることができた場合には、売り手は免責されないこととなります。合理的に調べれば知ることができたかどうかについては、解釈がはっきりしづらいところであり、売り手の責任範囲にも曖昧さが残ります。したがって、売り手の立場からは、「売り手の知りうる限り」ではなく「売り手の知る限り」において表明保証を行うことを主張することが望ましいといえます。

類似例として、「買い手の意思決定に重要な影響を及ぼす情報はすべて開示している」といった表明保証の記載がなされる場合があります。このケースにおいても「買い手の意思決定に重要かどうか」は非常に解釈が曖昧なところで、不特定の情報開示に関する責任を売り手に対して負わせ(=キャッチ・オール)、極端にいえばあとから「この情報は意思決定に際して重要だった」と買い手が主観に基づいて主張しうるものであるため、売り手としては受け入れるべきではない表現です。

クロージング前提条件(CP)

もう1つ、最終契約で論点になりやすい「クロージング前提条件(CP)」の記載について解説したいと思います。クロージング前提条件(CP)とは、「Conditions Precedent」を略したもので、その名のとおり最終契約の締結後、M&A取引の実行(=クロージング)のために必要とされる一定の条件を指します。CPの代表的な内容には、重要な取引先からの取引継続の同意取得、業務上必要な許認可の取得、重要な役職員の同意、独占禁止法に関する届出などが含まれます。

CPは、売り手と買い手の双方について取引実行までに充足すべき事項を定めるものですが、買い手の立場からすると、できるだけ不確実性の少ない環境において取引を実行したい思惑が働くため、詳細なCPの設定を行おうとする動機が働きます。一方、売り手の立場からは取引実行の安定性を確保するために、取引実行の障害となりうる内容のCPの設定はなるべく避けることが重要です。CPの内容次第では、買い手に対し容易に取引実行から離脱することを認めることとなってしまいますので、注意しなければなりません。

なお、買い手がCPとして、過度に従業員や主要取引先などに対する事前承諾の取得を求めるなど、売り手にとっては好ましくない、円滑な取引実行を阻害するような事項を要望してくる場合があります。こうした取引実行前提に関する買い手の要望については、あらかじめ意向表明書において明記を求めておくことで、最終契約交渉の段階になって過度に振り回される事態を避けられる場合があります。こうした売り手FAの対応は、買い手の競争環境が存在する意向表明の段階においては詳細な取引実行条件などを挙げづらいという買い手の心理をうまく活用した、売り手FAの交渉術ともいえるでしょう。

CPの文言について

一般的に、最終契約書で定めた表明保証がクロージング日においても所定の正確性を満たしていることがCPとして求められます。取引実行の安定性を確保すべき売り手の立場からは、表明保証の内容を「重要な点に限り」あるいは「重要な悪影響に限り」、クロージング日においてもその正確性を満たしているといった形で、表明保証の範囲を限定する対応が推奨されます。重要性による限定がないと、買い手が軽微な瑕疵を理由にCPが充足されていないと主張できる環境を与えてしまうため、注意しなければなりません。

なお、基礎的表明保証に関しては、「あらゆる点において」や「軽微な点を除き」といった充足のハードルが高まる文言を含めて保証内容が定められているケースがありますが、売り手がクロージングの安定性を確保するうえでは、重要な点や重要な悪影響に限る内容で合意することが推奨されます。

作田 隆吉

オーナーズ株式会社 代表取締役社長

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