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最近増えている「売り手が損するM&A」…その根本原因とは【M&A支援のプロが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月15日 12時15分

最近増えている「売り手が損するM&A」…その根本原因とは【M&A支援のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

事業売却を検討する中小企業オーナー経営者は、M&A業者に対して、売り手(自社)のメリットや利益を考えた支援を望むはずです。しかし、M&A仲介は「買い手」「売り手」の双方を顧客とするため、売り手の利益を守り、追求する機能はありません。時には「売り手にとって好ましくない条件」が提示されるリスクも…。M&A支援を行う作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)が解説します。

仲介会社が関与する案件で気を付けるべき落とし穴

仲介会社における最終契約書のひな形は、極めて買い手有利となっており、売り手の責任範囲が過度に広く設定されているケースが散見されます。具体的には、仲介会社が間に入る案件において売り手の補償金額の範囲が「受領金額(譲渡対価や退職金等)の合計50%」となっていることが多く、場合によっては100%を上限とされている場合もあります。ひどいケースでは、売り手の責任範囲の上限が定められていないこともありますので注意が必要です。また、売り手の補償対象期間についても、仲介会社の株式譲渡契約書のひな形のなかには、数年単位あるいは期間の定めがない場合が散見されます。

表明保証の範囲に関しても、アンチ・サンドバッギング条項が反映されていないケースや、買い手が売り手の責任を追及しやすくなる文言が含まれていることが多く存在します。クロージング前提条件(CP)についても、買い手が軽微な瑕疵を理由に案件実行から離脱することが可能な記載となっているケースが散見されますので、注意しなければなりません(⇒関連記事:『【M&A】表明保証で「売り手の知りうる限り…」はNG 事業売却を不利にする「最終契約書の要注意ワード」』で解説)。

このような売り手にとって好ましくない条件が提示されるリスクは、買い手が草案を作成する場合にはなおさらでしょう。中小M&Aにおいては、弁護士が最終契約の内容をレビューしていないケースも散見され、売り手を守る機能がないM&A仲介サービスと相まって、売り手のリスクを高める結果となっています。売り手側で弁護士が関与していた案件でさえ、こうした売り手にとって不利な最終契約書が締結されている事例もあり、弁護士にすべて任せれば問題ないと考えるのも危険です。特に、仲介会社が間に入っているM&A案件を取り扱うことの多い弁護士は、仲介会社の株式譲渡契約書のひな形に慣れ、その内容が一般的なものであると認識しているケースが散見されます。M&Aに精通した弁護士でなければ、こうした最終契約書上の売り手のリスク所在を十分に把握できておらず、売り手を守るための対策が不十分となってしまうリスクは相対的に高まります。

売り手の利益を守るためには、やはり売り手FAの関与が望まれます。

役割を果たせない「自称FA」が売り手をトラブルに巻き込む

ほとんどの売り手は事業売却の経験に乏しく、自分にとっての最善を目指した契約交渉ができません。分厚い株式譲渡契約書のなかで、大きなリスクの所在を把握することすらできないでしょう。事業売却後に買い手とのトラブルに巻き込まれるケースが社会問題となっているなか、自らの身を守るには、やはり買い手との契約交渉においてプロの支援を求めたいところです。

売り手が自らの身を守るうえでの大きな懸念の1つは、売り手・買い手双方を顧客として支援する仲介サービスの利益相反問題です。自らのメリットや利益を考えた支援を希望しているにもかかわらず、買い手の利益を優先されてしまう、あるいは仲介業者が両者を差配できる立場を利用して業者の利益を優先してしまうといったケースが懸念されます。

こうした利益相反問題を解消するには担当者の倫理観が求められますが、たとえ高い倫理観を持った担当者が仲介サービスを提供したとしても、M&A仲介サービスは売り手と買い手を中立の立場から支援するサービスに過ぎません。特定の当事者、すなわち売り手の利益を守り、追求する機能はないのです。

最近、仲介サービスの範疇で片手を支援する、いわゆる「片手仲介」が増えています。その背景は、買い手探索を十分に自社のネットワークで行うことができないために、買い手側の支援を他社に委ねるという目的が大半です。公認会計士事務所や税理士事務所が片側支援を行うケースも増えていますが、買い手探索のネットワークを有しないため、とりあえず売り手の契約だけ確保しておいて買い手探索は仲介サービスにほぼ丸投げするといったケースが多くみられます。要は、「できれば両手で手数料を取りたいのだけれど、マッチングは得意でないので他社に任せてしまおう」という仲介業者の発想です。利益相反を解消し、当事者により良いサービスを提供しようというFAの発想ではありません。

問題は、こうした片手仲介を行う業者が、片手支援であることを理由に「FA」を名乗るケースが増えていることです。FAのメリットを理解した売り手オーナーがFAを任用する場合においても、実態として「片手仲介」サービスしか提供されず、売り手のメリットや利益を追求する本来のFAの支援が十分に提供されないリスクがあります。

仲介サービスの経験では、特定の当事者にとってのメリットや利益を追求する支援を行うノウハウが得られません。片手のみを支援することで利益相反を解消したとしても、FAに本来求められる当事者の利益を守り、追求する機能はとうてい果たすことができないのです。

残念ながら今の中小M&A業界においては、FAと名乗るサービスであっても実態として「片手仲介」であることが多く、売り手オーナーとしては、自らの利益を守り、追求する機能を果たしてくれる業者なのかの慎重な見極めが必要です。

そうはいっても業者の見極めは難しいと感じる読者もいると思いますが、その業者がFA専業の会社なのか、仲介サービスも提供している業者なのかによって、本来FAに求められる機能を提供してくれるサービスなのか、おおよその見極めが可能です。売り手オーナーがこれからFAを起用しようと考えている場合には、まずはその業者がFA専業なのか、仲介サービスも提供する業者なのかを確認するとよいでしょう。

昨今報道されている、売り手オーナーが不利益を被りトラブルに巻き込まれる事例の原因は、前述のM&A仲介サービスの利益相反問題だけではありません。本来の中立の立場を徹底する仲介サービスであっても、あるいは利益相反のない片手支援の業者であっても、売り手の利益を守り追求する機能を十分に果たせなければ、売り手をトラブルに巻き込んでいくのです。

取引を支援するプロが当事者の利益を追求する機能を提供して初めて、当事者がM&Aを安心して活用できる環境が整備されます。「できれば両手で手数料を取りたい、取れなければ片手で支援します」という業者都合優先の姿勢では、業界の健全化は遠いでしょう。片手支援にこだわり、利益相反問題を解消するとともに、顧客の利益を守り追求するより良いサービスを提供したいという本来あるべき想いでFAサービスを提供する業者が増えてほしいと願うばかりです。

作田 隆吉

オーナーズ株式会社 代表取締役社長

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