死んでも死にきれない…「年金月14万円」「夫の遺産1億円」でお迎えを待つ79歳女性、自分亡き後、是が非でも相続させたくない「にっくきあの女」【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月2日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
嫁姑問題はいつの時代も起きてしまうものです。そして、それは一生引きずってしまい相続の問題になることも……。本記事では、田村さん(仮名)の事例とともに、相続トラブルについてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
嫁姑問題から考えた相続
田村直子さん(仮名/79歳)は地方で次男夫婦と暮らしています。年金は夫の遺族年金と合計し月額14万円を受け取り、資産も1億円以上ありますので、悠々自適な生活を営んでいます。
同居している次男の祐希さん(仮名/52歳)の妻の早苗さん(仮名/52歳)とは同居を開始した当初から不仲が続いています。田村さんは、家事は嫁が行うのが当たり前という考えでした。しかし、早苗さんは共働きで勤務をしており、家事を田村さんに甘えていた部分があります。田村さんの感覚ではそれがまったく理解できず、そんな早苗さんを見て、小言や嫌味を言い続けてきたのでした。
ギスギスとした関係が15年ほど続き、5年前に夫が亡くなってからは田村さんも身体が急激に弱り始めてしまい、そのことで立場が逆転していました。歩くスピードや階段の上り下りも遅くなり、それを見た早苗さんからはキツい言葉を掛けられるように。2人の関係にはますます溝が深まります。
車椅子生活から地獄が始まる
そして1年前、大きな転機が。近所を歩いていたときに転んでしまい、骨折したことで車椅子生活になったのです。次男が仕事等で家を不在にしているときは早苗さんが自宅にいますが、介助が必要な場面でも露骨に嫌な顔をして嫌味を言いながら介助をしています。介助がなければ生活が難しい田村さんにとっては言い返すこともできず、悔しい想いが積み重なっていきました。
「自分の命もそう長くはない……」そう感じた田村さん。「あの女に私のお金が渡るなんて、想像しただけでも死んでも死にきれない」と、憎き次男の嫁に自分の財産を渡ることのないよう相続について考え始めます。
早苗さんに財産を渡したくない田村さんは弁護士に相談することになりました。田村さんが持つ財産は、自宅建物と土地が3,000万円ほど、金融資産は1億円超。これらの財産の処遇は……?
嫁に財産は渡るのか?
田村さんがいま亡くなった場合、法定相続人は長男と次男のみです。もしこのままなにもしなければ、自分の財産は長男と次男へ均等に受け継がれることになり、早苗さんには渡ることはないということでした。
ひとまず安心はしましたが、是が非でも早苗さんに財産を渡したくなかった田村さんは、次男に財産が渡ったあとで次男が他界するような場合にはどうなるのか。先の先まで心配になります。
弁護士からは長男や孫に遺言書で全財産を渡すように遺言書を書くなど、祐希さんに財産が渡らなくなれば、早苗さんには渡らないようにすることはできるとのことでした。一方で、自宅には次男が住んでいる状況で、次男には財産を渡してあげたい田村さんにとっては不本意なことです。
そこで、次男に早苗さんに財産が渡らないように内容の遺言書を書かせれば大丈夫と考え、祐希さんに打診をしました。しかし、祐希さんからは当然断られてしまいます。
「なんとか憎き嫁に財産を渡さないようにできないだろうか……」そんなことを考えながら特段の対策もないまま、風邪をこじらせ肺炎になってしまったことから入院し寝たきりとなり、それをきっかけに身体が衰弱してしまいこの世を去ったのでした。
結果、田村さんの財産は兄弟でわけられることになり、田村さんは嫁に資産が渡ってしまう不安を抱えたままこの世を去ることになってしまったのでした。
「誰に渡したくない」ではなく「誰にどう渡したい」か
今回の田村さんの希望を叶えようとすると、条件としては次男に納得してもらい遺言書を書いてもらうことや、長男や孫にすべての財産を渡す旨の遺言書を書くなど、結果的に次男に財産が渡らないような対策等が選択肢としてはあります。しかし、いずれもベストな対策とはいえないものでしょう。できるだけ早苗さんに渡る財産を減らす方法として、現預金は孫に遺言を残したり生命保険で残したり、次男に渡る金融資産を減らすことが挙げられます。
早苗さんへの憎しみのあまり遺産を渡さないように執着してしまっていましたが、それに執着するのではなく、一度自分の感情の整理をし、家族で話をしてみることが必要でした。
そもそも、今回の嫁姑間の確執の原因は田村さんにも責任があるものです。早苗さんの態度の根本は同居を開始した当初に早苗さんに対しての態度が原因となっているものです。ここまでこじれてしまったのはもとの関係性が問題です。まずは自分の非をしっかり謝罪して、嫌々ながらも介護をしてくれてる点については感謝すべきでしょう。
家族間だけで話をすると感情的になりむしろ関係性をこじらせてしまうこともあるため、相続についての知識を持つ第三者を挟むなどで話をすることで、わだかまりを少しずつ解くことができます。「嫁に渡したくない」ではなく「誰にどう渡したいか?」という観点で遺産分割について考え、それに対して法的な対策を取ることが必要です。
家族間のトラブル
今回は次男の嫁に財産を渡したくないと考えながら、特段の対策がないままこの世を去ってしまった女性の事例をお伝えしました。
2021年の司法統計年報家事編によりますと、婚姻関係事件のうち「家族親族と折り合いが悪い」と回答した件数は4,871件になり、全体の8%が相手の家族とのなにかしらのトラブルになっていることがわかります。
異なる育ち方、異なる価値基準の家で育ってきた者同士が家族になるのですから、違和感を感じることは当然です。さらに、同居ともなれば一時的なものではなくずっと同じ家で生活していくことになるのですから、お互いにストレスが溜まってしまうことは仕方がないことともいえるでしょう。
しかし、相手を変えようとしてもそうそう変えることなどできませんし、それはお互い様です。相手にばかり責任転嫁し、相手憎しで執着してしまうと本当に大事なものを見失ってしまい、今回のように憎しみを抱えながら結局なに一つ対策できないままこの世を去ってしまう結果にもなりかねません。
遺産分割はこういった感情面が大きく影響する問題です。いきなり対策を考える前に、まずは自分と向き合い、自分の気持ちを整理し、誰にどんな財産を渡したいのかを考えてそれを実現するために対策をしていきましょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP
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