「母の様子がおかしいんです…」急死した〈80歳父〉の遺産9,000万円を相続することになった家族。骨肉の相続争いを寸前で回避できた〈45歳長女〉のファインプレーとは?【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月28日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
3ヶ月前に父親が急死した45歳の景子さん。母と兄の3人で相続の手続きをすることになったのですが、相続の話になると母親が何やら感情的になることが増えてきました。「このままでは家族がバラバラになってしまう」と危機感を感じた景子さんが相談に訪れました。本記事では、相続の代償金について、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。
父親が亡くなって相続手続きが必要
景子さん(45歳)が母親(75歳)と兄(48歳)の3人で相談に来られました。3ヶ月前に父親が亡くなり、これから相続の手続きをするとのこと。いままでに税務署や行政の法律相談などに出向いていろいろとアドバイスをしてもらったといいます。3人で税理士にも相談に行ったのですが、高圧的な態度で具体的なアドバイスがなく、依頼しなかったといいます。
結果、どこに頼むか決めていないこと、それぞれの理解の仕方が違うのか、3人で話をしていてもまとまらないとのことがあり、3人そろって相談に来られたという状況でした。
父親は遺言書を残さなかった
父親は80歳で亡くなったそうです。病気で入院していたということではなく、元気で普通に生活していたのに、ゴルフ場にでかけたときに心不全で急逝したということです。
中堅企業の役員をしていて65歳でリタイアしたときは退職金も出たと聞いています。兄と景子さんは大学まで出してもらいましたが、母親も子育てがひと段落したてからは仕事に復帰して60歳まで働いていましたので、生活には比較的、余裕があったと言えます。
夫婦でゴルフや旅行にでかける生活を楽しんでいましたので、相続まではまだ間があると何も対策はせず、遺言書もありませんでした。
遺言書がない場合は、相続人3人で遺産分割協議をして財産の分け方を決める必要があります。法定割合は母親が2分の1、兄と景子さんが4分の1ずつとなります。
父親の財産はマンションと預貯金、株式
父親の財産は自宅マンションと預金、株式です。マンションに両親が2人で暮らしていましたが、現在は母親が一人暮らしになりました。景子さんと兄は結婚して自宅を離れており、すでに自宅を保有しています。マンションの相続評価は3,000万円と確認できました。流通している時価では8,000万円程度です。
金融資産は預金が2,000万円、配当がある上場株が4,000万円、母親が受取人となっている生命保険が1,000万円ありました。
財産の合計はちょうど1億円になります。ただし、生命保険は母親が受取人となっていますので、遺産分割からは除外されます。また相続税でも生命保険の非課税枠1,500万円の範囲内です。よって遺産分割の対象の財産は9,000万円となりますので、母親が4,500万円、兄と景子さんが2,250万円です。相続税の税率は15%で480万円と計算できました。
自宅マンションを相続する母親が代償金を払わなくてはいけない?
現状で考えると70代の母親は当分の間は、自宅マンションで一人暮らしをするといいます。景子さんも兄も自分の家は購入していますので、自宅マンションで母親と同居する見込みはありません。
現実的な分け方とすれば自宅マンションは母親が相続し、さらに預金と株式は母親と兄、景子さんが分け合うとなります。兄も景子さんもそれでよいと思っているので、遺産分割はスムーズに決まるはずでした。
ところが、税理士から「自宅を相続する人が他の相続人に対し、代償金を払わなければならない」とアドバイスをされていた母親が感情的になることが出てきたといいます。景子さんが「母の様子がおかしいんです」とポロッとこぼしたのが印象的でした。
代償金は相続財産の中からでも払える
母親は、自分が自宅マンションを相続すると、2人の子どもたちに代償金を払い続けなければならないと理解しているといいます。しかし「そんなに払えるお金はない」というのが母親の本音なのです。
亡くなった父親の財産は次の通りです。相続評価3,000万円の自宅マンション、金融資産(預金2,000万円)、配当がある上場株4,000万円。不動産よりも金融資産のほうが多いのです。いずれにしても母親が自分のお金で代償金を払う必要がないのは明白です。それでも母親が「代償金」を払うことになるのは、「全財産を配偶者が相続する」として、いったん、すべての財産を相続する場合では、母親が子どもたちに「代償金を払う」という形を取るからです。
しかし、相続した財産の中に預金や株式などの金融資産があるので、自分のお金を出すことはなく、代償金が払える状況が見えています。
このような「代償金」についての説明をすると、ようやく母親も理解ができたようです。税理士の説明不足だったのか、母親の解釈が違ったのか、わかりませんが、「代償金」の決め方がネックになっていた遺産分割は進められることになり、母親の顔もパッと明るくなりました。私としては「よくぞ3人で相談に来てくれた」と景子さんに拍手を送りたくなりました。
遺産分割の注意点とアドバイス
あらためて遺産分割について、整理しておきましょう。
相続人が複数いるときは、「だれがどの財産を、いくらくらいの割合で相続するか」といった話し合いをして、財産の分け方を決めなければなりません。財産の分配を「遺産分割」といいます。最初に、相続人を確定し、財産を確定して、財産目録を作成します。遺言がある場合は優先しますが、ない場合は、相続人全員が納得すれば、どういうふうに分けてもかまいません。必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありません。
財産は、被相続人の死と同時に自動的に相続人に移転します。しかし、そのままでは、相続人達は、相続財産全体を共有財産として所有しているにすぎません。個々の財産を各相続人の所有とするためには「遺産分割」をして、名義を隔相続人のものに変える手続きが必要になります。遺産の分割には決まった期限はありませんが、相続税の申告までに遺産分割が決まらないと配偶者の税額軽減の特例が受けられないことがあり、そのころまでに分割しておいたほうがいいでしょう。
遺産分割の方法はおもに3つ 現物分割・代償分割・換価分割
遺産を分割する方法としては次の3つがあります。
【1】現物分割…だれがどの財産をとるか決める方法で最も一般的な方法です。 【2】代償分割…ある相続人が法定相続分以上の財産を取得するかわりに他の相続人たちに自分の金銭を支払う方法。 【3】換価分割…相続財産を全て売却して、その代金を分割する方法です。
これらの他に、相続人全員で財産を共有する方法もあります。以上の方法を組み合わせることも可能です。また、遺産の共有、すなわち遺産を相続人全員で共有するという選択肢もあります。
遺産分割協議書の作り方
相続人同士で遺産の分割が確定した場合は、遺産分割協議書を作ります。遺産分割協議書の作り方には決まったルールはありません。
【1】相続人全員が名を連ねること
【2】印鑑証明を受けた実印を押すこと
この2点に注意が必要です。そして、実印の証明とするため、印鑑証明書の添付も必要になります。
法定割合で分けたい
配偶者は財産の半分、あるいは1億6,000万円まで相続税がかからない特例があり、父親の財産を母親がすべて相続しても相続税はかかりません。
しかし、景子さんの家族の場合、兄には子どもが3人いてこれから教育費がかかります。景子さんにも子どもが2人いて、やはりお金がかかることは明白です。母親も自分が遺産を独り占めしようという気持ちはなく、ただ、「代償金」の解釈の仕方が違っていただけです。自分のお金を払い続けなければならないと解釈していたようで、抵抗感があったといいます。
このようにそれぞれの意向が確認でき、分割案の方向性が見えてきました。自宅マンションは母親が相続、他の預金と上場株を合わせて、法定割合で分けることで合意ができそうです。「代償金」の手法は使わずに、兄と景子さんも預金と株式を相続、母親は自宅マンションと預金、株式で財産の半分を相続するとします。
家族間で感情的になっていたのを間に入り、説明したり、意見を聞いてもらったりしながら円満に進められそうでよかったと景子さんから連絡がきました。遺産分割案も全員の合意が得られそうで、ほどなく遺産分割協議書の作成ができそうです。
相続実務士のアドバイス
できる対策
全員の意思を確認、反映した分割案を作る
財産の中に金融資産があれば、代償金の支払いは必要にならない
注意ポイント
相続人のひとりが全財産を相続し、金融資産を払う場合は「代償金」として遺産分割協議書の中に記載をする分割の方法があります。この記載なく、あとから現金の受け渡しをすると「贈与」となりますので、「代償金」の記載は必要です。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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