なんでこんなことに…年金月32万円・貯金5,000万円の60代元公務員夫婦、最後の贅沢〈高級老人ホーム〉入居で“最高の老後”が一転、3年後“家賃6万円の築古1R”に引っ越したワケ【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月6日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
定年退職を機に、“最後の贅沢に”と高級老人ホームへの入居を決めた元公務員の仲良し夫婦。十分な年金額に多額の貯金、入居後の生活をシミュレーションしても、なんの問題もありませんでした。しかし、夫婦を待ち受けていたのは“まさかの未来”だったのです……老人ホームなどの施設選びにおいて「見落としがちな注意点」について、事例をもとにみていきましょう。牧野FP事務所の牧野CFPが解説します。
人生最後の贅沢…〈高級老人ホーム〉に入居を決めたA夫妻
「おい、母さん! あの老人ホームが載っているよ!」
3年前のある休日の朝、Aさん(60歳)は、朝刊を読みながら、妻のBさん(59歳)に話しかけました。
長年お互い公務員として勤めたAさんは今年定年退職して、妻のBさんも来年定年退職の予定です。A夫妻はこれまで家計を節約して、真面目に働いてきたのだから、老後は老人ホームにでも入って優雅にのんびり暮らしたいね。と話し合っていました。
そんな矢先、自宅の近所にタワーマンションのような高級老人ホームができることを知りました。いくら位で入居できるんだろうと話していたタイミングで、Aさんが見つけたのです。夫婦は「物は試し」にと早速予約を取って老人ホームへ見学に行きました。
施設は、1LDK約48㎡の広々とした居室はもちろんのこと、ロビーラウンジにダイニング、大浴場や庭園など、それぞれ驚くほど奇麗で、医療、介護などにも対応する充実した設備に、夫婦は感動しました。スタッフに話を聞くと、こうした自立型の施設は早ければ50、60代から住む人も少なくないということです。
A夫妻は施設と案内してくれたスタッフのことを気に入り、「ここで暮らそう」と、他の老人ホームを見学することなく心に誓いました。
唯一、結婚して遠方に住むひとり娘の反応が心配でしたが、娘にその旨を伝えたところ「なかなかそっちに帰れないから、施設に入ってくれるのは私としても安心」と賛成してくれました。
老人ホームへの入居が現実味を帯びてきた夫婦は、入居して生活するのにどれだけの資金が必要で、また自分たちは用意できるか計算してみることに。
地元の不動産業者は「すでに住宅ローンを払い終えた戸建ての自宅を売却すれば、立地の良さもあってすぐに売れるだろう」と、太鼓判を押してくれました。また、自宅の売却代金とは別に、夫婦の退職金を含めた貯蓄は約5,000万円。65歳からの夫婦の老齢厚生年金の受給額は月約32万円と、入居する準備は整っていると夫婦は確信しました。
老人ホームにかかる費用は…
A夫妻が入居を検討していた老人ホームは、2人での入居時と入居中に必要な費用を、次のように定めていました。
介護は必要としない自立した人が入居するとき(A夫妻が該当する)
<入居時>
■入居一時金(前払い金)か毎月賃料を支払う
入居時に、平均余命などを考慮して想定居住期間分の家賃を全額一度に支払う方法。賃貸住宅と同様に毎月賃料を支払う方法と選択できる。一時で支払うと入居後に賃貸料負担はないが、入居時にまとまった資金が必要となる。
■敷金
退去時返還される担保代金。入居一時金を支払うと賃料の1ヵ月分。賃料月払いでは賃料の6ヵ月分が必要。
<毎月>
■月額利用料
食費や管理費、施設使用料など毎月支払う費用。A夫妻の入居時の年齢は61歳と60歳。老齢年金受給までに数年あるため、入居一時金を支払うことはせずに毎月賃料を払うこととして、敷金228万円を支払いました。
毎月の支払いは、賃料が月38万円と月額利用料が夫婦で40万円、合計して78万円の年間936万円です。それにレクリエーションなどの追加費用を加えると、毎年1,000万円近くの出費になりました。
夫婦は、入居してから2年近くは、居室からの眺望に、充実した食事や施設を思う存分利用して、楽しく快適に過ごしていました。遊びに来た娘夫婦からも「こんなに良いところだったの? いいなぁ、私たちもここに引っ越したい」と言われ、ご満悦でした。
入居から2年後…“最高の老後”が一変
入居から2年と少し経ったころ、施設の運営元が変わりました。すると、設備のメンテナンスや普段の料理、スタッフの数・質など、あらゆるサービスが以前と比べて明らかに劣化しはじめたのです。どうやらいまの運営元にとってこの施設は、「費用をかけすぎている施設」と判断して、露骨なコストカットが始まったようでした。
その結果、A夫妻が入居時に感じていた施設の魅力は一切なくなってしまいました。しばらくは我慢していたものの、業務過多によるスタッフのピリピリムードが、ついに入居者にも影響しはじめたのです。
「このままここにいたら自分たちもなにか意地悪されるのではないか」と悩んだ夫妻は、施設からの脱出を図ることに。とはいえ、自宅はすでに売却したので帰る家はありません。そこで、賃貸住宅に引っ越すことを考えました。
A夫妻を襲ったさらなる悲劇「お金はあるのに」
引っ越しのために動き出したのは、入居から約3年後。Aさんは64歳、Bさんは63歳になっていました。そのため、“事故物件化”のリスクを避けたいオーナーの意向か、また「娘に迷惑をかけたくないから」と保証会社に保証人を依頼したためか、金銭的には問題ないにもかかわらず、なかなか住む家が見つかりません。
とはいえ、スタッフにおびえて暮らす地獄のような現状からは一刻も早く脱出したい……そうしてA夫妻がなんとか借りられたのが、6畳一間・家賃6万円の築古アパートでした。
A夫妻「最高の余生を過ごしていたはずが、なんでこんなことに……」
築古アパートに引越したあと、娘には「老人ホームで改装工事が始まったので、しばらくほかのところで暮らす」と連絡していました。娘は「連絡先がアパートみたいだし、そもそも新築の老人ホームなのにたった3年で工事? なにかおかしい」と思い、夫に出張のついでに両親の様子を見てきてほしいと頼みました。
その結果、築古のアパートで暮らしていることを知った夫は驚愕。すぐに2人の保証人となり、築浅の賃貸マンションへと引っ越しをさせました。短期間に生活環境が激変したA夫妻を心配した娘は、両親に今後の家計の見通しを立ててもらおうと、娘夫婦の知り合いであったFPを紹介することに。
お金があっても家を借りられない…高齢者が賃貸住宅に“嫌がられる”理由
内閣府「令和5年度高齢者の住宅と生活環境に関する調査結果(全体版)」によると、65歳以上で賃貸住宅に入居を断られた理由は、「高齢のため(61.5%)」が最も高く、次に「万一のときの身元引受人がいないため(28.2%)」、「家賃の連帯保証人がいないため(20.5%)」と続いています。
この調査は65歳以上を対象としていますが、筆者のところにみえた相談者のなかには、すでに50代から賃貸住宅の入居を断られた話も聞きます。持ち家がなく老後を迎えるには、終の棲家を探しておくことが大切です。
また、東京商工リサーチの調査によると、2024年1月から6月までに倒産した負債額1,000万円以上の介護事業者は、去年の同じ時期よりも27件増えて全国で81件。上半期としてはコロナ禍の2020年の58件を大きく上回り、調査を開始した2000年以降最多です。
サービス別では、「訪問介護」が40件、デイサービスなどの「通所・短期入所」が25件、「有料老人ホーム」が9件。原因は、倒産した事業者のおよそ8割にあたる64件が、売上不振を挙げています。
また同調査では、「訪問介護やデイサービスなど、在宅の高齢者を支える事業者の倒産が顕著で、人手不足や物価高の先行きが不透明なだけに、歯止めがかからない状況が続くとみられる」と指摘されています。つまり、そのような施設で“ある日突然運営元が倒産する(運営元が変わる)”というケースは、今後も続く可能性があるのです。
「後悔しています」…A夫妻の今後は?
両親の状況を知った娘は、両親のところに飛んできました。そして両親とともに筆者のところを訪れます。
Aさんは、「リスクを考えずに老人ホームに入居してしまって後悔しています……」と意気消沈、浮かない顔です。
Bさんは、「老人ホームほど広い間取りでなく中古でもいいので、私たちがマンションを買うのは厳しいでしょうか?」と尋ねました。
筆者は、「現在のおふたりの資産は1億円近くあり、旅行などの費用は別として、年金受給額の月32万円以内を目途に生活ができれば、マンションの購入はまったく問題ありません」と答えました。
今まで資産を散財することはなかった夫婦でしたが、生涯生活する予定の老人ホームに入居を決めるときは、ほかの施設を見学して費用を比較するなど、大きな買い物をするときに必要なプロセスが不十分でした。
もっとも、夫婦だけで老人ホームの経営状況を把握してから入居することは困難です。重要な決断には、家族や専門家など第三者にも加わってもらい、冷静な判断ができる環境を整えることをおすすめします。
牧野 寿和 牧野FP事務所合同会社 代表社員
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