「遺言書はどれが最適?」自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言を徹底比較…弁護士が推奨するのは?
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月24日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
遺言書は、相続を円滑に進めるための重要なツールです。遺言書があることで、法定相続分よりも被相続人の意思が優先され、財産分割におけるトラブルを未然に防ぐことができます。特に、法定相続人以外に財産を渡したい場合や具体的な希望を明確に伝えたい場合には、その重要性が一層際立ちます。本記事では、弁護士の中澤泉氏が、相続の不安を解消し、家族が安心して相続を迎えるために知っておきたい遺言書の役割や種類、作成時の注意点等について解説します。
遺言書の重要性と“役割”
遺言書があると、記載内容が法定相続分より優先され、被相続人の意志に基づいて遺産分割が進むため、相続トラブルの回避に役立ちます。特に、法定相続人以外の人へ財産を譲りたい場合や、具体的な希望を反映させたい場合には、遺言書の作成が重要です。
遺言書の種類は3つ
遺言書には大きく分けて「普通方式遺言」と「特別方式遺言」という2つの形式があります。日常的に利用されるのは「普通方式遺言」で、これには「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、遺言者がすべて手書きで作成する遺言書で、特別な準備が不要な手軽さが特徴です。財産目録部分はパソコンで作成することも可能で、添付資料として登記事項証明書や銀行通帳のコピーを利用できます。
自筆証書遺言のメリット
・手軽に作成できる
自筆証書遺言は、専門家に依頼する必要がなく、自宅で気軽に作成できます。
・費用がかからない
公正証書遺言などとは異なり、自筆証書遺言は費用がかからない点が大きなメリットです。
自筆証書遺言のデメリット
・無効になる可能性がある
手書きで作成する際、形式や内容に不備があるなど法律の要件を満たしていないと遺言書が無効になることがあります。
・相続争いの原因になりやすい
自筆証書遺言は、書き方や内容の曖昧さが原因で、相続人同士のトラブルや争いの火種になりやすいといわれています。具体的で明確な内容を記載しなければ、解釈をめぐって相続人の間で対立が生まれる可能性があります。
・紛失するリスクがある
遺言書を自分で保管する場合、誤って紛失してしまう危険性があります。
・発見されない可能性がある
自筆証書遺言は家族や関係者がすぐに見つけられないこともあります。
・隠蔽・破棄・改ざんされるリスクがある
自筆証書遺言は、特定の人によって隠されたり、破棄されたり、内容を変造されるリスクもあります。特に、相続に関わる利害関係者が遺言書を発見した場合には危険が高まります。
・法務局に預けない場合、検認が必要
自筆証書遺言を法務局に預けなかった場合、遺言者が亡くなった後、家庭裁判所で「検認」手続きを行う必要があります。この手続きには時間と手間がかかるため、後述する「法務局保管制度」の利用をお勧めします。
自筆証書遺言が無効になりやすい理由
自筆証書遺言は、特定の形式に厳密に従う必要があり、その要件を満たさないと無効になることがあります。法律では、遺言書は全文を遺言者自身が手書きで記し、さらに日付と名前を書いた上で印鑑を押す必要があります(民法第968条)。たとえば、パソコンで作成した遺言書や、捺印がないものは法律上無効とされる可能性があります。
また、この形式の遺言書は、作成時に第三者の関与がないため、遺言者の判断力に問題がある場合でも、そのまま作成されてしまうことがあります。特に認知症などで適切な判断ができない状態で書かれた遺言書は、後に相続人の間でトラブルや争いの原因になることもあります。
法務局の「遺言書保管制度」とは
法務局の「遺言書保管制度」は、自筆証書遺言を安全に保管するための制度で、2020年7月にスタートしました。法務局が遺言書の原本を預かることで、紛失や改ざん、隠蔽のリスクを防ぎ、遺言書が確実に発見される環境を整えることができます。この制度を利用する際には3,900円の手数料がかかりますが、安心して遺言書を保管できる点が大きなメリットです。
この「遺言書保管制度」を活用すれば、遺言書が見つからずに放置されたり、誰かに隠されたり破棄されるリスクを回避できるため、自筆証書遺言のデメリットを大きく改善できます。
自筆証書遺言の書き方と注意点
自筆証書遺言を作成する際には、法律で定められた厳格なルールに従う必要があります。これらのルールを守らないと遺言書が無効になる可能性があるため、以下の点に注意しましょう。
・全文を手書きで書くこと
自筆証書遺言では、遺言書の本文、日付、氏名をすべて自分で手書きする必要があります。パソコンやワープロを使用した場合は無効となるので注意が必要です。また、録音やビデオメッセージも遺言としては無効です。
・日付を正確に記載する
日付は「令和○年○月○日」と具体的に書く必要があります。「○○年○月吉日」など曖昧な日付表記は無効とされます。日付が特定できる表記であれば、誕生日や退職日なども認められることがあります。
・氏名と捺印
遺言者本人の名前を手書きで記入し、捺印も必要です。認印でも有効ですが、実印の使用を推奨します。
・内容の正確さに注意
遺言書には、相続する財産や遺贈する対象を正確に記載することが求められます。不動産については登記簿謄本と一致した表記を、預金については口座番号など具体的に書くことが推奨されます。相続人が誰であるかを明確にするため、続柄や生年月日を併記するのも有用です。
・遺言執行者の指定
遺言の内容を確実に実行するためには、遺言執行者を指定することが重要です。遺言執行者は銀行口座の解約手続きや不動産の名義変更などを行う責任者です。
・封印と保管場所の注意
遺言書を作成したら、信頼できる人にその存在を伝えておくか、法務局の「遺言書保管制度」を利用するのが安心です。また、遺言書を封筒に入れ、開封禁止の旨を明記しておくと安全です。
・予備的遺言の記載
万が一、遺言者より先に相続人が亡くなった場合に備えて、別の人に相続させる旨の「予備的遺言事項」を記載しておくと、相続手続きがスムーズに進みます。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する遺言書です。作成には、遺言者の意思を証明するために2名以上の証人が必要で、遺言者、公証人、証人全員の署名・捺印も求められます。
公正証書遺言の特徴
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する公文書であり、信頼性の高い遺言書として認められます。一般的な契約書と比べて、法的な効力が強く、遺言内容の確実な執行が期待できます。
公正証書が作成される際には、遺言者本人であることを公証人が確認するため、後から「自分はこんなこと書いていない!」といったトラブルが起きる心配がありません。また、裁判などで争いが生じた場合、公正証書は強力な証拠として扱われます。
さらに、公正証書遺言の原本は公証役場に保管されており、万が一遺言書を紛失しても再発行が可能です。
公正証書遺言のメリット
・法的に確実な証明力
公正証書は、法律の専門家である公証人が作成するため、遺言内容が法的に明確で、非常に高い証明力を持ちます。
・強制執行が可能
公正証書遺言には「強制執行認諾条項」を追加することで、一定の条件を満たせば、裁判を経ずに強制執行ができる力(執行力)が与えられます。これにより、支払いが滞った場合などでも迅速に対応が可能です。
・安全な保管
公正証書の原本は公証役場に保管されるため、遺言書が偽造されたり、紛失したりする心配がありません。万が一、正本を紛失しても、原本が保管されているため安心です。
公正証書遺言のデメリット
証拠力が高く、安心な公正証書遺言ですが、以下のようなデメリットもあります。
・費用がかかる
公正証書遺言を作成する際には、公証人の手数料がかかります。費用は遺言内容や財産額によって異なり、遺言者にとって経済的な負担となる場合もあります。
・作成に手間がかかる
公正証書遺言は、作成にあたって公証役場を訪れる必要があり、事前準備も必要です。また、遺言者と証人、そして公証人がそろって手続きを進めるため、自筆証書遺言より手間がかかります。
・証人2人が必要
公正証書遺言の作成には、遺言内容を確認するための証人が2人必要です。証人には親族や相続に関与する人物はなれないため、注意が必要です。
公正証書遺言の作成にかかる費用
公正証書遺言を作成する際の手数料は、遺言で相続させる財産や遺贈する財産の価額に基づいて計算されます。遺言は、相続人や受遺者ごとに別々の法律行為として扱われるため、それぞれの財産価額に応じて手数料が算定され、その合計額が公正証書作成の手数料となります。
例えば、複数の相続人や受遺者に遺産を分配する場合、それぞれの対象者に渡す財産の価額に基づき個別に手数料が計算され、その合計額が最終的な手数料になります。
具体的な手数料の計算は以下の通りです。
このように、遺言に含まれる財産の総額に応じて手数料が段階的に増加します。
証人の依頼方法
公正証書遺言を作成する際には、立会人として2人の証人が必要です。証人になるための特別な資格はありませんが、以下の人々は証人になれないため注意が必要です。
・未成年者
・相続人となる可能性のある人(推定相続人)
・遺贈を受ける予定の人(受遺者)
・推定相続人や受遺者の配偶者、直系血族
秘密証書遺言とは
秘密証書遺言は、遺言書の内容を他人に知られたくない場合に利用できる形式の遺言です。この遺言書は、公証役場で遺言書が存在することだけを認証してもらい、内容は一切公開されません。そのため、遺言の内容を秘密に保ちながら、遺言書が確かに存在するという証明だけを行う仕組みです。
ただし、現実的にはこの形式はほとんど使われていません。理由として、遺言書が無効になるリスクや、作成後に家庭裁判所での検認手続きが必要になるなどの手間が挙げられます。
秘密証書遺言の特徴
秘密証書遺言の最大の特徴は、遺言者以外に内容を知られずに遺言を残せる点です。遺言書の存在を公証役場で認証してもらい、内容は遺言執行まで第三者に知られません。また、自筆証書遺言と異なり、パソコンで作成したり、代筆を依頼したりできるため、作成の負担が軽減されます。ただし、遺言書の保管は遺言者自身が行うため、紛失や破損のリスクに注意が必要です。
秘密証書遺言のメリット
・内容を秘密に保てる
遺言書の内容が外部に漏れず、プライバシーが守られます。
・偽造や改ざんの防止
公証人による認証で遺言の存在が証明され、偽造リスクが軽減されます。
・自筆が不要
手書きが難しい場合でも作成可能で、柔軟性があります。
・コストが比較的安い
公正証書遺言より費用を抑えられます。
秘密証書遺言のデメリット
・証人2名が必要
公証人だけでなく、2名の証人を手配しなければなりません。
・紛失のリスク
原本は遺言者が保管するため、管理に注意が必要です。
・家庭裁判所の検認が必要
遺言執行前に検認手続きが必要で、時間がかかる場合があります。
特別方式遺言とは
予期せぬ事態に備えて、急いで遺言書を作成しなければならない状況が訪れることもあります。命の危険が差し迫ったときなど、通常の手続きが困難な状況で作成する遺言書は「特別方式遺言」と呼ばれます。緊急時に対応できるよう、特別な形式で遺言を残すことが認められているのです。
特別方式遺言の種類
では、どのような状況が「特殊な状態」とされ、それに応じた遺言の種類にはどのようなものがあるのでしょうか?
一般臨終遺言とは
一般臨終遺言は、生命の危機が迫る状態、例えば病気や怪我で余命がわずかとなった場合に作成される特別な遺言です。遺言者が自ら書けない場合、証人の一人が口述された内容を代筆し、他の証人が署名を行うことで遺言が成立します。
この遺言を作成するためには、3名以上の証人が立ち会う必要があります。証人は、相続に関係のない第三者でなければならず、推定相続人など利害関係者は証人になれません。また、遺言が成立した後は、20日以内に遺言書を作成した証人が家庭裁判所で確認手続きを行うことが求められます。
この形式の遺言は「死亡危急者遺言」、「一般危急時遺言」とも呼ばれることがあります。
難船臨終遺言とは
難船臨終遺言は、船や飛行機などに乗っている際、突如として命に危険が迫った状況で作成される特別な遺言です。遺言者が自ら書けない場合、口頭で証人に遺言内容を伝え、代筆してもらうことも可能です。
遺言の作成においては、証人2名による署名と捺印が必要です。証人の選定に関しては、相続人などの利害関係者は含まれないよう注意が必要です。また、この遺言が有効になるためには、作成後に家庭裁判所で検認手続きを受ける必要があります。
難船臨終遺言は、一般の危急時遺言と同様に、遺言の内容が裁判所で確認されて初めて効力が発生しますが、特に日数の制限は設けられていません。
この形式の遺言は、「難船危急時遺言」とも呼ばれます。
一般隔絶地遺言とは
一般隔絶地遺言は、隔離された状況にある人や、特殊な環境で生活を送っている人が作成する特別な遺言です。例えば、伝染病で隔離されている人や、刑務所に服役中の人、災害で避難生活を送っている人などが該当します。
この遺言を作成する際には、警察官1名と証人1名の立会が必要です。遺言書には、遺言者自身と立会人全員が署名し、捺印することで正式に成立します。
船舶隔絶地遺言とは
船舶隔絶地遺言は、航海中や長期間船上で仕事をしているなど、陸地から離れた環境にいる人が作成する遺言です。飛行機のように短時間の移動ではこの形式に該当しません。
この遺言を作成するためには、船長または船の事務員1名と、2名以上の証人の立会いが必要です。遺言書には、遺言者と全ての立会人が署名し、捺印することで正式に成立します。
自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
自筆証書遺言と公正証書遺言は、形式が異なるものの、法的効力に違いはありません。いずれも法律の要件を満たせば有効であり、両方が存在して内容が矛盾する場合は、新しい方が優先されます。
どの遺言書が最適か? 公正証書遺言を推奨する理由
遺言書は、家族間の争いや混乱を防ぐために作成されます。自筆証書遺言や秘密証書遺言は形式不備や解釈の問題が生じやすく、家族に負担をかけるリスクがあります。一方、公正証書遺言は公証人が関与するため、無効となる可能性が低く、信頼性が高いです。そのため、確実性を重視する場合には、公正証書遺言が最適といえます。
遺言執行者の役割
遺言執行者は、遺言内容を実行するための手続きを担う人物です。不動産の名義変更や銀行口座の解約など、遺産分割に必要な具体的な作業を行い、遺言者の意思を確実に反映させます。特別な資格は不要ですが、未成年者や破産者は法律上なることができません。手続きの円滑化のために、専門家を選任することも有効です。
公正証書遺言作成時の注意点
公正証書遺言を作成する際、遺言者が意思能力を持つことが前提です。認知症などで判断能力が著しく低下している場合、遺言が無効になる可能性があります。
また、専門家を遺言執行者に指名することで、遺産分割や相続手続きがスムーズに進み、相続人間の争いを防ぐことができます。
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