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〈保育業界の闇〉東京23区・7年目の保育士なら「年収560万円」のはずだが…実際には「フルタイムでも年収200万円台」が珍しくない“残酷な理由”【専門家が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月6日 11時15分

〈保育業界の闇〉東京23区・7年目の保育士なら「年収560万円」のはずだが…実際には「フルタイムでも年収200万円台」が珍しくない“残酷な理由”【専門家が解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

職場いじめにおいてもっとも相談件数の多い「医療・福祉」業界。ハラスメント対策が十分に行き届いておらず、その数は年々増加傾向にあります。いじめが起きる現場の共通点をみていきましょう。ハラスメント対策専門家である坂倉昇平氏の著書『大人のいじめ』(講談社)より、実例とともに紹介します。

定時退社を理由に「雑用係」に

20代のDさんは、社会福祉法人が経営し、数十人の子どもを預かる認定こども園に、正社員の保育士として就職した。採用面接では「残業はない」と聞かされており、働きやすい保育園だと思っていた。

ところが入社して、実際に定時で帰宅すると、翌日に先輩保育士たちから「いいご身分ね」と嫌味を言われ、いじめが始まった。「新人の役割だから」という理由で、毎日、休憩時間になると職員全員に緑茶や紅茶、コーヒーなど希望の飲み物を聞いてまわり、コップや湯吞みについで運ぶという「雑用係」をさせられるようになった。当然、Dさんの休憩時間は削られる。

しかも、残業なしと言われたのは真っ赤な噓で、正社員の保育士たちは書類を書くために毎日3〜4時間の残業をするのが普通で、Dさんも先輩の「指導」を受けて、それに従わざるを得なかった。

約束と違う長時間残業と、それを発端とする先輩からのいじめ。納得できなかったが、自分で声を上げるのは怖かったため、夫に相談した。夫が園に何回か電話をかけてくれたが、そこにいるはずの園長も主任も「不在」を続けて逃げ回り、いじめを放置した。3ヵ月ほど働いたが、Dさんは退職を決意した。

「可愛いからって許されると思うなよ」

社会福祉法人が経営する園児100人ほどの大規模な認可保育園に、新卒未経験で就職した20代のFさん。採用面接のとき、入社1年目は、先輩の保育士について勉強すると言われて安心していた。

ところが、園内には、配置基準ギリギリの人数の職員しかおらず、そんな余裕はなかった。前の年の離職者も多かったようで、Fさんは4月から、いきなり幼児十数人の主担任を任されることになった。園長に相談して、新人で経験もなく無理だから辞めたいと相談したところ、「もう少し頑張ろう」と励まされるだけだった。

一方で、先輩や同僚からは「可愛いからって許されると思うなよ」と、担任を拒否しようとしたことでいじめの対象となった。指導でも他の人より厳しくあたられ、無視されるなどのいじめが始まった。

過大な業務といじめに耐えかね、Fさんは精神疾患を発症して約3ヵ月で退職。もう保育園では働きたくないと考えている。

“人格否定”も“無視”も「指導のうち」という理不尽

20代のGさんは、150人の園児を抱える大規模な保育園で働き始めた1年目の正社員保育士である。

入社前の面接の雰囲気は良かったのだが、いざ働き始めてみると、自分だけ目をつけられ、主任から「指導」と称して「バカ」などと人格を否定する発言をされた。Gさんは、「指導」を受けるたび、ひたすら謝り続けなければならず、食欲がなくなり、眠れないなどの症状に悩まされるようになった。

また、この主任はその日の気分で態度が変わり、無視されるなどの嫌がらせが半年以上続いた。

園長に相談したところ、特に問題視する様子はなく、「新人は怒られて成長するもの」と説明され、全く対応してくれなかった。

そもそも残業はほとんどないと聞いていたのに、毎朝7時40分に出勤してから、19時頃まで働かされ、しかも残業代は払われたことがない。心身の調子を狂わせたGさんは、保育業界は自分には合わないとあきらめ、1年で退職するつもりだ。

背景には、深刻な人手不足

一見、人間関係のもつれにも見える保育職場のいじめ。しかし、そこに共通するのは、人手不足による過酷な労働である。

では、なぜ人手不足が生じるのか。もともと保育園には、国の定める保育士の配置基準の人数が少なすぎるという問題がある。年齢ごとの園児の人数に応じて、最低限必要な保育士数を定めているのが配置基準で、行政が保育園に払う運営費には、その配置基準分の人件費が含まれている。

しかし、この配置基準は園児数に対して必要な保育士数を非常に少なく定めており、運営費の中の人件費はその配置基準分しか支給されない。つまり、配置基準より多い保育士を雇っても、追加の人件費は払われないのだ。そのため、保育園は保育士の数をギリギリまで抑え込むことになる。

そして、2021年からは、この配置基準がさらに緩和され、従来は正社員の保育士がいなければ認められなかったクラスの担任を、非正規保育士(多くが主婦パートだ)だけでも可能にした。人手不足を、保育士の数を増やすのではなく、非正規保育士の負担を増やすことで対応しようとしているのだ。

こうした結果、一人の保育士で多くの子どもたちの対応をしなければならず、休憩時間を取るどころか、終業時間までトイレにも行けないほどの、ひどい働き方が求められるようになった。いつ事故が起きるかもしれない恐怖と隣り合わせの中、心身ともに疲弊する保育士が続出している。

職員数や給与を減らし、利益優先に…運営企業の闇

ここ数年、保育園不足を解消するため、保育園経営に外部の業界から参入しやすくする仕組みが作られたことも追い討ちをかけている。

先に述べたように、厚労省は保育園に、在籍する園児数に応じた配置基準分の人件費を、運営費に含めて支給しており、その額は運営費の約8割を占める(小林美希『ルポ保育崩壊』〔岩波新書〕に詳しい)。2000年以前は、運営費の使い道は厳格に決まっており、その約8割が、そのまま人件費にあてられていた。

これに、国が保育士の賃金に上乗せするよう支給している処遇改善等加算や、東京都独自の人件費への補助金を足すと、東京23区の保育園に勤務する経験7年目の保育士であれば、年収は560万円ほどになる。

ところが、2000年以降、新規事業者の参入を促すため、保育園が利益を確保しやすいよう、この運営費の使い道についての制限が緩和されたのだ。決定的だったのは、待機児童対策が過熱する中、2015年の規制緩和によって、株式会社が運営する場合は、保育士の人件費や保育園の運営に使うはずの運営費を、株主への配当にまで使えるようにしたことだ。

これでは、運営費に人件費として計上している意味がないのではないか。筆者は内閣府を訪れ、担当者に面談して尋ねたが、運営費の約8割が人件費というのは、あくまで「目安」に過ぎないから問題ないという答えだった。

かくして、保育士の数は配置基準ギリギリに抑え、配置基準の人数に応じて支給される金額を大幅にピンハネして利益を得る方法に歯止めがかからなくなった。8割支給からかけ離れた事業所が、非常に多くなっているのだ。特に株式会社が運営する保育園には、運営費のうちわずか2〜3割しか保育士の人件費に回っていないというケースまである。

フルタイム勤務なのに月給は20万円台前半、年収200万円台という保育士の相談者も珍しくない。非正規雇用の場合、時給が都道府県の定める最低賃金まで抑えられていたり、正社員でも、基本給が最低賃金レベルだったりする。

最近になればなるほど、保育に何の関心もなく、利益だけを目的とした経営者が増えてきた。経営者は園長に経営を「丸投げ」し、現場を取り仕切る園長は、会社の求めに応じて利益を上げるため、ひたすら「コストカット」に励む。株式会社だけでなく、社会福祉法人が経営する保育園でも、この規制緩和の恩恵を受けようと、職員数や給与を減らすなど、利益優先の傾向が強まっている。

坂倉昇平 ハラスメント対策専門家

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