社員の高齢化が進むなか…企業のガバナンス機能を高める「内部監査」に期待が高まるワケ【経営コンサルタントが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月19日 10時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
グループ経営の利点は、単独の事業では達成できない成果を生み出せるという点にあります。シナジー効果を最大化させるには、どのようなアプローチが重要なのでしょうか。事業承継を見据え、グループ経営におけるルールを明確にして持続的な成長を目指すA社グループの事例を紹介します。株式会社タナベコンサルティングの阿部和也氏が解説します。
グループ企業の価値を高める経営手法
A社グループは、建設用資材の卸売や小売業、サービス業など多角的な事業を展開しており、ここ数年間でM&Aによって会社数も増加している。しかし、それぞれの会社では従来の業務運営が続けられており、非効率な仕事や重複する業務が発生するなど、さまざまな問題が顕在化していた。
そこで、当社とともに「グループで持続的に成長していくためのルールを決め、それを『A社グループ経営ブック』として明文化し、全社員で共有化する」プロジェクトをスタートした。
A社グループでは、M&Aによって事業会社が増えていたが、当初想定していた「シナジー効果」が発揮されないという課題に直面していた。各事業会社が従来の事業運営を優先することで、グループ全体最適ではなく、部分最適になっていたことが最大の要因だった。
そのため、グループ経営に求められる5つのテーマを設定し、全体最適の戦略、迅速な意思決定、マネジメントの高度化を目的として、A社グループの幹部社員と当社がプロジェクトとして進めていくことになった。
〈5つのテーマ〉
(1)グループ理念
(2)シェアードサービス機能
(3)経営企画機能
(4)ガバナンス機能
(5)マネジメント機能
ゴール設定と認識の共有
プロジェクトのゴールは「グループ経営ブック」の策定と設定した。この「グループ経営ブック」は、A社グループが世代を超えて発展し続けるために、組織の基本的な運営や意思決定ルールを定めたものであり、多事業に携わるグループ全社員が遵守すべきガバナンスやマネジメント、シェアードシステムのルールを明文化したものである。
情報の「共有化・デジタル化」でグループシナジーを強化
まず、ホールディング会社で共有すべき情報を整理し、これらの情報を各事業会社から集約して共有する仕組みを確立することで、各社間のシナジーを強化した。
具体的には、業績管理情報、仕入・在庫情報、顧客情報、会計情報をホールディング会社の管理部が集約し、経営会議・営業会議で業績対策の情報として活用する。将来的には、事業会社連携によるワンストップソリューションの提案や、グループ一括仕入の実現を目指す。
労務管理情報や人事情報は、ホールディング会社の人事部が集約する。特に超過労働時間の把握は徹底し、改善策の立案のために活用することが決まった。
また、人事情報や労務管理情報は、グループ人材会議で人材育成の企画立案や人材配置に関する情報として活用されることとなった。管理のための人事情報というよりも「人が成長する」ための人事情報に重きを置くことが重要なポイントである。
重要な経営企画機能とガバナンス機能
A社グループではグループ理念がすでに作成されていたため、プロジェクトでの実質的な議論は経営企画機能とガバナンス機能が中心となった。
特に、経営企画機能のなかの「決裁権限」についてのテーマで議論が白熱した。
決裁権限は、当社から①時間軸(計画や方針などにおける期間)、②影響範囲(施策や規程が及ぼす組織範囲)、③事業領域(新規参入や投資をする業種・エリア)、④成長方向(施策が組織をどのように成長させるのか)、⑤金額規模(借入金や支出の金額の大きさ)で整理することをアドバイスし、それをプロジェクトメンバーで掘り下げ、結果、新たな決裁権限が策定された。
次に、ガバナンス機能においては、特に内部監査の仕組み化に重点を置いて検討が進められた。内部監査で重視する内容として、以下の3つが挙げられた。
〈内部監査で重視する内容〉
(1)適合性のチェック:経営状態の健全化に向けたリスクマネジメントと、公正かつ独立した立場での業務上の不正防止を目的とした内部監査
(2)有効性のチェック:業務プロセスの効率化と経営目標の効果的な達成に対する内部監査
(3)ノウハウの伝承:持続的に成長していくための体質の醸成と、社内での成功体験の積み上げを目的とした内部監査
特に3つ目の内部監査は、社員の高齢化が進むなかで「ベテラン人材のノウハウ」を社内で伝承させる取り組みとして大いに期待されている。内部監査というと、指摘型のイメージがあるが、A社グループでは「誰もが教え、誰もが教わる組織風土」を大切にしたいとの思いから、この仕組みが取り入れられた。
要となるマネジメント機能
マネジメント機能では、まずコミュニケーション・パイプの再設計を行った。決裁権限のあり方を踏まえ、計画方針・ヒト・モノ・カネの切り口から、組織として意思決定が必要な事項を選定し、意思決定に必要な会議体および会議体間の連携を再設計した。
そのうえで、業績マネジメントは経営会議と営業会議で効果的に実施されることが決まった。また、グループのシナジー効果を高める狙いで、若手社員を中心に「グループ営業プロジェクト」も同時に立ち上がった。
次に、資金マネジメントでは、キャッシュ状態が適正水準から外れている際には、ホールディング会社の管理部門で対策を検討することになった。グループ全体最適を価値判断基準として重視し、余剰資金と資金不足の調整機能が整理された。
人材マネジメントでは、早期の人材育成と人事交流を目的に「グループ横断型の人事異動」がルールとして整理された。グループ戦略における配置変更、モチベーションの維持、不正の未然防止が期待され、シナジー効果を最大化させるための取り組みの一つとなっている。
これらの取り組みによって作り上げられた「A社グループ経営ブック」は、A社グループの持続的な成長に向けての重要な社内ルールブックとなった。将来的にM&Aなどでグループインする会社にもスムーズに展開できる。今回の取り組みにより、A社グループのさらなる成長を支える組織基盤が整ったといえるだろう。
阿部 和也 株式会社タナベコンサルティング 執行役員 金融機関にて融資審査や経営改善支援等の担当を経て、株式会社タナベコンサルティングに入社。「企業は人なり」を信条に、現場力を高める取組みと収益構造を重視したコンサルティングを展開。特に、成長戦略の構築から展開までの実践的なサポートが強み。企業体質を革新する独自のノウハウを活かし幅広く活躍している。
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