ワタシの加給年金は…!? 〈年金月26万円・貯金2,000万円〉で“老後不安ゼロ”の4歳差・60代仲良し夫婦、年金事務所で発覚した“まさかの事実”に唖然【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月20日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
知人や目上の人から助言を受けた際、信頼している人であればあるほど、疑わずに信用するという人は多いのではないでしょうか。しかし、大切なことをよく調べずに、他人の情報を鵜呑みにすると“痛い目”に遭う可能性も。65歳Aさんの事例をもとに「年金ルール」の注意点をみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
定年退職か嘱託社員か…判断の決め手となった「先輩の助言」
Aさん(65歳)は妻のBさん(61歳)と都内の戸建てに住んでいます。機械製造会社の技師として働いていたサラリーマンのAさんは、5年前に60歳で定年退職しています。
Aさんは定年を迎える際、退職するか65歳まで嘱託として勤めるか迷っていました。そこで、5歳年上で嘱託として働いていた仲良しの先輩であるCさんに相談すると、次のようにいいます。
「正社員から嘱託になると、環境がガラッと変わるよ。けっこう窮屈でね、私はAくんのような人がいてまだ救われたけれど、肩身は狭いし年下に見下されて腹が立つこともある。正直、思い切って辞めればよかったと少し後悔してるよ(笑)別に60歳できっぱり会社を辞めても収入はゼロじゃないし、贅沢さえしなきゃなんとかなると思うけどなあ」
そこでAさんは、インターネットや「ねんきん定期便」の情報をもとに、60歳で退職する場合、その後の収入がどうなるのか書き出してみました。
<60歳以降の主な収入>
・企業年金……月8万円(60歳からの10年間)
・特別支給の老齢厚生年金……月6万円(63歳から65歳まで)
・老齢厚生年金……月12万円(65歳以降)
翌日、AさんはCさんにこのことを伝えると「確かAくんの奥さんは年下じゃなかった? もしそうなら奥さんが65歳になるまでは加給年金※がもらえるから、もっと収入が増えるはずだよ」とのこと。
※ 令和6年度の金額。厚生年金は受給資格期間が10年あれば、原則65歳から受給できる。なお、「加給年金」とは、基本的に厚生年金の被保険者期間が20年以上あり、なおかつ65歳到達時点でその人に生計を維持されている配偶者・または子がいるときに適用となる。
それを聞いたAさんは、その日の夜に早速妻のBさんへ報告。
「今日Cさんから聞いたんだけど、お前が65歳になるまでの4年間『加給年金』とやらがもらえるそうなんだ。うちには退職金を含めて貯金が2,000万円くらいあるし、住宅ローンの返済は68歳まで残っているけれど、なんとかなりそうじゃないか?」
これを聞いてBさんも納得した様子。AさんはCさんの助言を踏まえて、60歳で退職することを決断しました。
あれっ…加給年金が振り込まれないぞ!?
定年後は、自治会でボランティア活動をしたり、60歳を機にパートを辞めたBさんと旅行に行ったりと、悠々自適な老後生活を送っていたAさん。
63歳になると「特別支給の老齢厚生年金」の受給が始まり、65歳からは老齢厚生年金の受給もスタートしました。しかし、Cさんが教えてくれた「加給年金」は、いつまで経っても振り込まれません。
不思議に思い、配偶者のいる元同僚Dに話を聞くと、「俺んとこは65歳から、老齢厚生年金といっしょに加給年金も振り込まれているよ」といいます。
「おかしいな。なぜ自分だけもらえないんだろう。もしかしたら忘れられているんじゃないか……?」疑問に思ったAさんは、真相を確かめるために、年金事務所に話を聞きに行くことに。
年金事務所で明らかになった「衝撃の事実」
対応してくれた職員によると、加給年金が受給できない原因はAさんにありました。
「加給年金の受給要件は、「厚生年金保険の被保険者期間が240月(20年)以上必要」となっています。ですが、A様の被保険者期間は236月(19年8ヵ月)と、加入期間が4ヵ月足りていませんね。そのため、残念ですがA様は加給年金の対象ではありません」
実は、Aさんは機械製造会社に「中途」で入社。入社時から厚生年金に加入したものの、それ以前は個人経営の工場を転々としており、国民年金のみに加入していたのです。
Aさん絶句…妻Bさんの「特別支給の老齢年金」も受給対象外
さらに、職員は次のように続けます。
「また、『特別支給の老齢厚生年金』についても、A様は受給できましたが、残念ながら奥様が63歳になっても受給できません」
職員の言葉に、Aさんは思わず絶句。われに帰ったAさんが「いやいや、ちょっと待ってくださいおかしいでしょう! 不公平じゃないですか!」と声を荒らげるなか、職員は冷静に理由を話しはじめます。
「女性の場合、特別支給の老齢厚生年金は、民間企業などに勤める第1号厚生年金被保険者であれば、男性より5年遅い昭和41年4月1日生まれまで、生年月日に応じた年齢から65歳まで老齢厚生年金の比例報酬部分を受給することができます。
しかし、たとえば国家公務員や地方公務員、私立学校共済などに入られている第2・3・4号厚生年金被保険者の場合、女性も男性と同様に昭和36年4月1日生まれまでが受給の対象となります。
奥様はお子さんを産むまで公務員として働かれていたそうですから、第2号厚生年金被保険者に該当しますが、昭和38年生まれだそうですね。誠に残念ながら、この場合受給対象からは外れてしまうのです」
加給年金と妻の特別支給の老齢厚生年金、あわせて約220万円を住宅ローンの返済にあてようと計画を立てていたAさんは大慌てです。
「このままでは破産してしまう……!」
その後は職員の話も上の空で、自宅に帰るなり急いでBさんに事情を話します。そして、今後の生活について改めて計画を立てようと、知り合いである筆者のもとを訪ねてきたのでした。
加給年金を受け取るために65歳からできること
Aさんから事情を聴いた筆者は、まず今後のA家の収入を確認することにしました。現在65歳のAさんと61歳のBさんの場合、今後の収入は下記のようになります。
<A家の今後の主な収入>
■65歳~
・Aさんの老齢厚生年金……月12万円
・Aさんの企業年金……8万円
合計:20万円
■69歳~
・Aさんの老齢厚生年金……月12万円
・Aさんの企業年金……8万円
+Bさんの老齢厚生年金……月8万円
合計:28万円
■70歳以降~
・Aさんの老齢厚生年金……月12万円
・Bさんの老齢厚生年金……月8万円
※企業年金が終了
合計:20万円
また、主な支出は下記のとおりです。
<A家の主な支出>
・住宅ローン返済……月9万円
※Aさんが68歳になるまで
・ローン以外の生活費等……月約22万円
合計:約31万円
総務省「家計調査年報(家計収支編)2023年(令和5年)」によると、世帯主の平均年齢67.2歳の2人以上の無職世帯の家計収入は、実収入が29万6,122円(うち年金などの社会保障給付は20万9,362円)。また支出は、消費支出の29万3,909円と健康保険料や介護保険料、税金などの非消費支出の4万2,849円とで33万6,758円。毎月4万0,630円の赤字となっています。
すぐに破産の心配はなし…あと「4ヵ月」働けば、加給年金の受給も可能
これを踏まえ、筆者はAさんとBさんに次のように説明しました。
「A家の支出額は統計値より少ないといえます。住宅ローン完済後も、このままの家計収支で生活ができれば、70歳の時点で貯金が500万円は残ります。この500万円は、高齢になってから病気になった場合や介護が必要になった場合に備え、残しておきたい金額です。
また、厚生年金加入期間が不足しているという加給年金についてですが、Aさんがあと4ヵ月、厚生年金に加入できる事業所に勤めれば(パートでも可)、厚生年金の加入期間が20年(240月)となり、Bさんが65歳になるまで加給年金を受給することができるほか、4ヵ月分の収入が確保できます」
ここまで話すと、Aさんは家計がすぐにも破産することはないとわかりひと安心。それまで不安げな表情でしたが、笑みも見えました。
知り合いの話を「鵜呑み」は危険…老後の人生を左右する判断は“慎重に”
定年後の暮らし方については、誰しも悩むものです。Cさんが言うように、嘱託社員として働くにもメリット・デメリットはあるでしょう。しかし、たとえ信頼している人であっても、ひとりの意見で老後の暮らしを判断することや、推論で試算してしまうのは危険です。
「ねんきん定期便」には、国民年金と厚生年金保険料の納付月数も記載されているほか、特別支給の老齢厚生年金が受給できるなら、その受給見込額の記載もあり、自身で確認することができます。
こうした信頼できる情報をあたったうえで、不安であれば知人だけでなく、FPをはじめとした専門家に話を聞き、客観的に判断するようにしましょう。
代表社員 牧野FP事務所合同会社 牧野 寿和
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