スギ・ヒノキ花粉の飛散量、実は「ほどほどの飛散量」なら「日本経済的にはありがたい」ワケ【解説:エコノミスト・宅森昭吉氏】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月25日 9時10分
まるで山火事の煙のような花粉の飛散(※写真はイメージです/PIXTA)
「個人消費」の増減は景気に大きな影響を与えます。増税で手取りが減ったり、物価高などで経済不安が高まったりすると財布のひもが固くなることは、想像に難くないでしょう。それ以外にも、国民を悩ます「スギ・ヒノキ花粉の飛散量」も消費の増減と深い関係があります。花粉症患者にとっては憎き根本原因ですが、実は「ほどほどに飛散」したほうが、消費の面ではプラスに働くのだとか。約40年にわたり国内外の景気分析をしてきたエコノミスト・宅森昭吉氏が解説します。
日本人と花粉症
寒く厳しい冬が終わり春を迎えることは、多くの人にとってうれしいことだろう。しかし、春先になると多くの国民が悩まされる憂鬱なことがある。スギ花粉などの飛散により、目のかゆみ、くしゃみ、鼻水が止まらなくなる「花粉症」だ。厚生労働省によると、2019年時点で花粉症の有病率は全体で42.5%、スギ花粉症で38.8%となっており、10年間で10%以上増加しているという。
日本で初めて正式に花粉症が認められたのは1963年で、原因物質は、戦後にアメリカ進駐軍が持ち込んだブタクサの花粉だったという。ブタクサは非常に繁殖力が強く、欧米の花粉症患者の50%はブタクサ花粉症といわれている。一方、日本の花粉症はスギ・ヒノキが大半を占める。スギ花粉症が日本で初めて報告されたのは、ブタクサ花粉症に次ぐ1964年のことだった。その後、戦後の植林政策によるスギが成長した1980年代に一斉に花粉を飛散するようになり、スギ花粉症が問題化した。
林野庁によると、戦時中や戦後の過度な伐採により荒廃した山地の復旧などのため、成長が早く日本の自然環境に広く適応できるスギ・ヒノキの造林を推進してきたという。日本の森林面積は2022年3月末時点で約2,502万ヘクタール、国土の67%が森林である。そのうち、人工林面積は森林面積全体の約4割で、人工林面積のうちスギ・ヒノキ林が約7割を占めている。
戦後の植林政策が花粉症に影響している。スギが本格的に花粉を作るのは、早い場合で25年程度、通常30年程度経ってからといわれている。花粉症が社会問題になり、東京都の花粉飛散数データが1985年分からであることと整合的であろう。
近年は保険診療で約3,600億円、市販薬は推計400億円の支出
花粉の生産量は、雄花の分化が始まる7月の気象条件に強い影響を受けるという。晴天の日が続き、気温が高いと生産量は増加するが、降水量が多いと減少する。スギの雄花は、その年に伸長した小枝の先端近くに形成され、11月頃には成長が終了し、成熟した花粉が雄花内に形成される。そして、翌年の2月上中旬から花粉の飛散が始まる。スギ花粉の直径は約30分の1ミリメートルと小さく、重さも約1億分の1グラムと非常に軽いということだ。
厚生労働省が作成した資料によると、花粉症を含むアレルギー性鼻炎の医療費は、2019年度のデータだと保険診療で約3,600億円(診察等の医療費約1,900億円、内服薬約1,700億円)、また、2022年度の市販薬で約400億円と推計されるという。
東京都の区部のデータで、1985年から継続的なデータがある大田区の2024年の花粉飛散数観測期間データ(1月4日~5月12日)でスギ、ヒノキ花粉がどの月に多いかを見ると、スギ花粉は3月が一番多く、約4分の3である。ヒノキ花粉はスギ花粉に遅れて飛散するので、3月と4月が多い。スギ・ヒノキ花粉の合計では、約3分の2が3月に飛散する(図表1)。
大田区のスギ・ヒノキ花粉飛散数のデータを見ると、1シーズンで過去最大は2005年の12,481個/平方cm、最少は1989年の148個/平方cm。2024年は5,270個/平方cmだった。
「ほどほどの飛散量」は個人消費にプラス寄与
大田区の1シーズンの飛散数データを、過去40年(1985年~2024年)の平均を「100」として大きい順に並べ、実質個人消費支出の3月の前年同月比の増減を比べてみると、興味深い関係がわかる(図表2)。
スギ・ヒノキ花粉が過去40年間の平均に比べおよそ0.70倍~1.20倍程度と「ほどほどに多く飛散した年」は、花粉対策関連グッズの購入や医療費の増加などで3月分の個人消費にプラスに働く。85年以降の40年間で該当するのは88年、93年、97年、01年、13年、14年、17年、21年だ。なお、15年と22年の飛散数もこの範囲に入ったが、14年3月に消費税率引き上げ前の駆け込み需要が出た反動で、前年同月比ではマイナスになった。また、22年3月はコロナ禍で、まん延防止等重点措置発令の影響により前年同月比ではマイナスと出た。
とはいえ「大量飛散」は逆効果
しかし、過去40年間の平均に対し「1.20倍以上」と多く飛ぶと、買い物やレジャーを控えがちなため、消費支出にとってマイナスになることが多い。13シーズン中11シーズンにおいて消費支出は前年同月比減少になった。2024年は平均の1.37倍花粉が飛散し、消費支出は前年同月比減少になっている。
なかでも平均の「1.78倍以上」とかなり飛散した年は、消費支出が減少している。該当する95年、00年、02年、05年、09年、18年、23年は、3月消費支出にマイナスに働いた。最も多かったのは05年で、平均の3.20倍だった。なお、平均に比べおよそ0.7倍以下の飛散数になった年の3月の消費支出・前年同月比はプラス・マイナスがまちまちで、明確な関係はない。
宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか
この記事に関連するニュース
-
実質賃金…4ヵ月ぶりプラスも、物価上昇で12月は不透明【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月27日 19時15分
-
【花粉】今年は過去10年で最多か...近畿では『前年の4倍超』?飛散開始は2月中旬 花粉症で経済損失『1日に約2340億円』の試算も...
MBSニュース / 2025年1月22日 12時57分
-
去年よりも13日早く山口県内のスギ花粉が飛散開始 県医師会が観測を開始してから最も早い 昨シーズンのおよそ2.6倍の飛散量となる見通し
KRY山口放送 / 2025年1月20日 14時30分
-
「景気の行方」を気象で読む…“台風の上陸数”が個人消費にもたらす差【解説:エコノミスト・宅森昭吉氏】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月18日 8時0分
-
花粉飛散予想 飛散量は平年比1.5倍以上 すでに少量のスギ花粉が飛散
ウェザーニュース / 2025年1月15日 12時30分
ランキング
-
1「入浴時間が10分超」の人は血糖値を爆上げしている…糖尿病専門医が勧める「お湯の温度」と「浸かる時間」の正解
プレジデントオンライン / 2025年1月28日 18時15分
-
2だからフジは日枝久氏を会見に出さなかった…歴史評論家が見た「白河上皇による院政」とフジテレビの共通点
プレジデントオンライン / 2025年1月28日 18時15分
-
3軽の「黄色いナンバー」が恥ずかしくて嫌です。普通の「白いナンバー」のほうがカッコイイので! どうやったら可能ですか? 「普通車っぽいナンバー」に変える方法は
くるまのニュース / 2025年1月28日 16時10分
-
4Q.「お風呂やプールでの感染リスクは?」 医師が教える性感染症がうつる場所
オールアバウト / 2025年1月28日 20時45分
-
5お腹・お尻の冷え対策に「ユニクロより安い名品」があった! ヒートテックと徹底比較して“勝ってるポイント”は
女子SPA! / 2025年1月28日 15時47分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください