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年金、もう少しなんとかならないものか…〈繰下げ〉で月“16万円”から“22万円”に増額した70歳・元メーカー勤務男性「後の祭りですが」と悔しがる理由【FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月20日 10時45分

年金、もう少しなんとかならないものか…〈繰下げ〉で月“16万円”から“22万円”に増額した70歳・元メーカー勤務男性「後の祭りですが」と悔しがる理由【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

年金の受給開始年齢を後ろ倒しにすることで受給額を増やすことができる「年金の繰下げ受給」。長生きリスクの対策として有効な手段の一つとして、検討している人もいるでしょう。一点確認です。受給前に年金の「手取り額」の確認は行っていますか? 本記事では、山本さん(仮名)の実体験をもとに、繰下げ受給の真の効果と注意点について、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナーである波多勇気氏が具体的に解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

増額に喜ぶも、後から気づいた落とし穴

山本和夫さん(仮名/70歳)は、東京都内で妻と2人暮らしをしています。65歳で中堅メーカー企業の定年を迎えた彼は、年金の受給額が月16万円と決まったとき、「もう少しなんとかならないものか」と感じていました。そのときに耳にしたのが「年金繰下げ受給で最大42%増額」という制度の話です。

「家計に余裕ができるなら、70歳まで待ってもいいかと思ったんです。そのときは、税金とか社会保険料なんてほとんど考えてなかったですね」

70歳での受給額は月22万円。年間で約72万円増える計算です。「これだけ増えるなら」と、彼は即座に繰下げを選択しました。そして迎えた70歳、いざ受給が始まると、彼を待ち受けていたのは意外な結果でした。

「税金が増えて、手取りが思ったより少なかったんですよ。これじゃあ、なんのために5年待ったのか……。いまさら後の祭りですが、そのとき初めて、税金のことをちゃんと考えなかった自分を責めましたね」

具体的には、所得税と住民税が増加し、手取り額を計算すると、受給額22万円の恩恵はかなり削がれてしまいました。

「5年間待つあいだも、生活費は貯金を崩してたから、貯蓄が減ったことも後悔の一因です。繰下げなければ、もっと安定した老後を過ごせていたんじゃないかと思うと、正直複雑です」

年金繰下げ受給の「魅力」と「見えにくいリスク」

山本さんの経験は、年金繰下げ受給のメリットとデメリットを如実に表しています。制度自体は決して悪いものではありませんが、その影響を正しく理解していないと、思わぬトラブルに見舞われることもあります。

メリット

1. 増額効果

1ヵ月ごとに0.7%、1年で8.4%、最大42%増える仕組みは、多くの人にとって非常に魅力的に映ります。長生きすれば、総受給額が大きくなる可能性もあります。

2. 安定収入

増額された年金が毎月定額で受け取れるため、老後の生活設計が立てやすくなります。資産運用が苦手な人にとっては、大きな安心材料です。

デメリット、リスク

1. 税金や社会保険料の増加

増えた年金額が課税所得として計算されるため、税率が上がる可能性があります。また、住民税や後期高齢者医療保険料が増えることも一般的です。結果として、手取り額が思ったほど増えないケースがあります。

2. 健康リスクと寿命の不確実性

繰下げ受給は「長生きするほど得をする」仕組みですが、健康状態や寿命は誰にも予測できません。仮に70歳からの受給を選んでも、早く亡くなってしまった場合には、せっかくの増額分を享受する機会を失うことになります。

3. 生活資金の不安定化

繰下げ期間中の生活費をどう賄うかも大きな課題です。貯蓄を取り崩す場合、予期せぬ出費が発生すれば、想定していた以上に資産が減るリスクがあります。

後悔しないために考えるべきこと

山本さんが振り返るように、繰下げ受給は安易に決めるべきではありません。自分にとって最適な選択をするために、以下のポイントを事前に確認しておくことが重要です。

税金と保険料のシミュレーション

年金が増えることで、税金や保険料がどの程度変化するかを事前にシミュレーションしましょう。専門家のアドバイスを受けることで、手取り額の正確な見積もりが可能になります。

部分繰下げの検討

全額ではなく一部を繰下げる「部分繰下げ」を活用することで、リスクを分散することができます。65歳からの生活費を確保しながら、増額の恩恵を一部受け取る選択肢です。

自身の健康状態を考慮

繰下げ期間中に健康を損ねるリスクや、医療費の増加を視野に入れておくべきです。受給時期を柔軟に調整することが、安心できる選択につながります。

「もう少し慎重に考えていれば、違った結果になったかもしれません」そう後悔する山本さんを教訓に、読者の皆さんもぜひ自身の状況に合わせた選択を検討してみてください。繰下げ受給の制度はあくまで一つの選択肢であり、絶対的な正解ではないのです。

波多 勇気

波多FP事務所

代表ファイナンシャルプランナー

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