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「知らん!俺はそんなの知らんぞ!」の一点張り…43歳長女、自宅に届いた〈高級リゾートホテルの請求書〉で悟った「年商100億円」「78歳会社社長の父」の異変【弁護士の助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月15日 10時15分

「知らん!俺はそんなの知らんぞ!」の一点張り…43歳長女、自宅に届いた〈高級リゾートホテルの請求書〉で悟った「年商100億円」「78歳会社社長の父」の異変【弁護士の助言】

会社社長の父(78歳)、専業主婦の母(76歳)と兄(50歳・既婚)がいる相談者のマミさん(43)。「父はまだまだ元気ですが、そろそろ引退を考える時期でもあり、相続の心配も出てきました。特に最近は、朝食べたものやさっき言ったことも忘れることがあり、そのうち認知症になるのでは? と心配が絶えません」と相談にいらっしゃいました。本連載では弁護士・板橋晃平氏が、認知症になる前に家族で準備しておきたいことや利用すべき制度等について具体的に解説します。

「父の物忘れがひどくて…」43歳女性からの相談

年商100億円の通販企業社長の父(78歳)、専業主婦の母(76歳)と兄(50歳・既婚)がいる相談者のマミさん(43)。父はまだまだ元気ですが、そろそろ引退を考える時期でもあり、相続の心配も出てきました。特に最近は朝食べたものやさっき言ったことも忘れることがあり「そのうち認知症(※)になるのでは?」と密かに疑っています。

この前も高額リゾートホテルの年会費の請求書が自宅に届き、父は「知らない!」の一点張りで大騒ぎしたところでした。父の物忘れがこのまま進んだらどうするのだろう? と考えると夜も眠れません。

今から準備しておいたほうがいいことなどあれば教えてください。

※認知症は、記憶力や判断力の低下を引き起こす病状であり、法的意思能力にも影響を及ぼす可能性があります。

お父様の状況と法律的なリスクへの対応の必要性

相談内容から察するに、現在のお父様はまだ意思能力(法的行為を行う判断力)を保持しているものの、物忘れが頻繁になり、今後認知機能が低下する可能性を懸念されています。この状況では、意思能力の低下に備えた法律的な対策を早急に講じることが重要です。

特に、意思能力の低下が進行すると、会社運営や財産管理、さらには将来の相続に支障が出る可能性があります。

本記事では、弁護士の視点から、法律用語を交えつつ具体的な対応策を解説します。

1. 意思能力と相続・財産管理の関係

民法上、「意思能力」とは、自分の行為の法的な意味や結果を理解し、それに基づいて判断できる能力を指します。意思能力が失われると、本人の法律行為(株主総会での議決権の行使、契約締結や遺言書作成など)が無効となる可能性があるため、会社経営、財産管理や生前相続対策において深刻な影響を及ぼします。

(1)会社経営の問題

中小企業の会社経営者の場合、代表取締役である社長が会社の株式のほとんどを保有しているため、意思能力が低下した場合、株主総会や取締役会にて重要な意思決定を行うことができず、社長が取引行為をできなくなるおそれがあることから、会社運営が停滞し、重大な損害が生じる可能性があります。

また、後継者に事業を承継させるためには株式を譲渡する必要があるところ、意思能力が低下した場合、株式を譲渡することができず、生前に事業承継を行うことができなくなるというリスクがあります。

マミさんの場合も、お父様が認知症になり意思能力が著しく低下した場合には、お父様が意思決定をすることができない以上、会社を運営することができず、会社に損失が生じてしまう可能性があります。また、マミさんやお兄様が会社の後継者として、お父様の生前に事業承継をすることもできません。

(2)財産管理の問題

意思能力の低下により、契約締結や資産運用の判断を適切に行えなくなります。

マミさんの場合、お父様が、高額な商品の売買やゴルフ会員権の購入等の不要な契約を締結させられるリスクや、詐欺被害に遭う可能性が高まります。

(3)遺言書の効力

遺言書は、作成時に意思能力が必要です(民法963条)。この意思能力とは、遺言書に記載された内容の法的効果を理解し、自らの意思で判断する能力を指します。仮に意思能力が欠如した状態で作成された場合、遺言書は無効となり、遺産分割をせざるを得なくなります。

マミさんのお父様に限らず、意思能力が欠如している場合、遺言書は無効となり、円滑な相続を実現できなくなります。

2. 今から準備すべき具体的な法律的対応

(1)家族信託の活用

家族信託(民事信託)は、財産を家族に託し、将来にわたる財産管理の方針を定める制度です。この制度を活用することで、認知症の進行に備えた財産管理を行うことが可能になります(信託法3条)。

マミさんの場合ですと、マミさんとお父様との間で、以下のアからエの内容を盛り込んだ信託契約の締結をすることでお悩みを解消することができます。

ア:信託財産

会社の株式、自宅不動産や預貯金を信託財産とする。

イ:信託の目的

経営する会社における重要な意思決定を確保し、円滑な会社経営を実現させるとともに、家族が生活費や医療費を適切に確保し、余剰資金を資産運用する、

ウ:受託者(信託財産を管理運営する人)

マミさんを受託者とする。

エ:受益者(信託財産の運用により利益を受け取る人)

お父様を第一受益者(信託財産の運用により利益を受け取る人)、マミさんを第二受益者(お父様の死亡後に利益を受け取る人)とする。

注意点としては、信託契約は柔軟性が高い一方で、信託財産に不動産がある場合には登記手続が必要になるため、司法書士と連携が必要になるのみならず、税務面での影響があるため、税理士と連携することが不可欠です。

(2)公正証書遺言の作成

お父様が意思能力を保持している今のうちに、公正証書遺言を作成することが相続対策の第一歩です。公正証書遺言は、公証人が関与することで、作成時点での意思能力が確認されるため、後日争われる可能性が低い形式です(民法969条)ので、より手軽に遺言書が作成できる自筆証書遺言よりもおすすめいたします。

手続きの流れとしては、以下のアからエのとおりです。

ア:財産目録の作成

お父様が現在、所有する財産(不動産、預貯金、自社の株式、有価証券など)をリスト化し、相続対象となる財産を把握します。

イ:遺言内容の整理

どの財産を誰に相続又は遺贈するか、また特定の相続人への遺留分に配慮する内容を検討します(民法1028条)。気を付ける点としては、現時点と相続時点では、財産状況が変化している可能性があるため、遺言書に明記されていない一切の財産を誰かに相続又は遺贈することを記載しましょう。漏れがある場合、遺言書の対象とならない財産は遺産分割協議の対象となってしまいます。また、相続発生後に遺言内容を迅速かつ確実に実行できるように、遺言執行者を指名しておく必要があります(民法1006条)。

ウ:公証役場での遺言書の作成

公証人立会いのもと、遺言書を作成します。証人2名が必要です(民法969条1項1号)。

(3)後見制度の検討

ア:任意後見制度の活用

本人が十分な意思能力を保持しているうちに、あらかじめ、自ら信頼できる後見人を選定して、委託する事務(本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度(任意後見契約に関する法律)として、任意後見制度を利用することも考えられます。

マミさんのお父様が十分な意思能力を保持しているのであれば、お父様とマミさんとの間で、将来お父様の認知能力が低下した際に、お父様の生活、今後の療養看護及び財産管理について、マミさんに代理権を与える内容の契約を締結することができます。

任意後見制度は、個人の生活や財産管理を支援する制度であり、会社の経営に関する代理権は含まれません。この点に注意が必要です。マミさんの懸念しているお父様の会社経営に関してまで代理権を付与するものではないので、注意が必要です。また、本人の意思能力が低下した場合、家庭裁判所に対して任意後見監督人(任意後見人が適正に職務をこなしているか監督する人)の選任申立てをしなければなりません。

イ:法定後見制度の活用

本人の意思能力が低下している場合には家庭裁判所によって選任された後見人によって本人を法律的に支援する制度として、法定後見制度を利用することも考えられます。マミさんの場合は、お父様の意思能力の低下具合によって、成年後見、保佐、補助のどれかの制度を利用することになります。

3.トラブルを防ぐために意識すべき点

以上では、マミさんの場合どのような法律上の対策を取れるかご説明させていただきました。しかし、ここで得た知識を頭ごなしにお父様や家族に伝えたところで、うまくいくとは限りません。相続問題において重要なのは「勘定」のみならず、「感情」にもしっかり配慮する必要があります。そのためにも、以下の点を意識してみるのがよいでしょう。

(1)本人の意思を尊重する

財産管理や相続の話を切り出す際には、お父様の自尊心やプライドに配慮し、「支援する」立場を強調することが重要です。今後どのように生きていきたいのか、時間を掛けてライフプランニングを一緒に考えていきましょう。

(2)家族間の事前合意

お父様の了解を得られましたら、今度は、関係者である家族にも話を進めなければなりません。遺言書や信託契約を作成する際、専門家を交えた家族会議を開き、お父様のみならず、お母様やお兄様を含む家族全員に意見を求めるとともに、作成した内容を共有し、合意を得ることが重要です。これにより、相続開始後のトラブルを未然に防ぐことができます。

(3)専門家への早期相談

上記の点は、言うは易く行うは難しというように、知識がないとなかなか進めることは難しいものです。弁護士等の相続に特化したトラブル予防の専門家と連携することで、法的手続の漏れを防ぎ、最適な解決策を講じることができます。

4. 実行すべきアクションプラン

いろいろとお話しいたしましたが、マミさんの場合、今後は以下の流れに沿って行動してみるのはいかがでしょうか。

(1)お父様の財産目録を作成

お父様とご家族の協力を得て、不動産、預貯金、有価証券、生命保険などの資産と債務をリストアップし、現状を把握します。

(2)専門家に相談

弁護士や税理士を交えた家族会議を開催し、全体のスケジュールを確定します。

(3)公正証書遺言の作成

相続税対策と円満相続のため公証役場で遺言書を作成し、遺言執行者を指定します。

(4)家族信託の導入

信託契約を作成し、不動産や金融資産(経営する会社の株式等)を信託財産として家族で管理する準備をします。

(5)任意後見契約の締結

財産管理契約と任意後見契約の公正証書を作成し、お父様の身上監護に備えます。

5. 最後に:家族全員が安心する未来を実現するために

相続や財産管理は複雑な問題ですが、早期に専門家と連携することで、家族全員が安心できる未来を築くことが可能です。特にマミさんの場合は、お父様が意思能力を保持している間に、家族会議や財産目録の作成などを進めることが重要です。心の平穏を確保するためにも、今すぐ専門家への相談を始めてみてはいかがでしょうか?

■参考サイト 「知っておきたい認知症の基本」 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html

板橋 晃平

弁護士

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