老後の安心がお金で買えるなら…持病がある妻のため、年金月20万円の70代元共働き夫婦「高級老人ホーム」入居を計画も…40代息子夫婦と大揉め。家族崩壊の理由【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月21日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
最期をどこで迎えたいか。「慣れ親しんだ自宅で」という考えの人もいれば、「設備の整った施設で」と考える人もいます。しかし、「親の家」は家族間でトラブルの原因となることも少なくありません。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに親の終の棲家について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
老人ホーム入居を検討した背景
都内に住む70代のAさん夫婦の年金は手取りで月額20万円程度。退職金は2人で3,000万円、これとは別に貯蓄もそれなりにあります。共働きで築き上げた安定した老後を楽しむことができていました。しかし最近、体力の低下や家事の負担が増えたことを実感するようになり、老後の生活について真剣に考え始めました。きっかけは、妻のBさんが膝を痛め、家の階段の上り下りが困難になったことです。近ごろはAさんの支えがなければ、Bさんは2階の部屋へ行くことも部屋から出ることもできません。
「このままではお互いの体に負担がかかりすぎる」と夫のAさんは心配し、2人で生活を見直す話し合いをしました。 その結果、自宅での生活を続けるよりも、高齢者向けの施設に入居して、健康管理や家事のサポートを受けながら穏やかに過ごしたいという結論に至りました。
高級老人ホームを選択した理由
2人が選んだのは、いわゆる「高級老人ホーム」と呼ばれる施設でした。選択の理由は、主に以下の3点です。
1.充実した医療体制 持病があるBさんにとって、医療スタッフが常駐している施設は大きな安心材料でした。
2.快適な居住環境 夫婦が見学した施設は、広々とした個室や共用スペースが整備され、まるでホテルのような暮らしが叶う設備が備えられています。豊富なレクリエーション活動や、食にうるさいAさんも唸る美味しい食事も魅力でした。
3.安心のサービス 日常生活のサポートだけでなく、緊急時にも迅速に対応してくれる体制が整っていることに惹かれました。
Aさん夫婦は「老後の安心を買う」と考え、2人のためにはこの施設が最適だと判断しました。
息子夫婦が猛反発したワケ
老人ホームの入居にはまとまった資金が必要です。そこでAさん夫婦は、長年住んできた自宅を売却し、その資金を老人ホームの入居費用に充てる計画を立てました。「家を売ってこれからは安心して暮らそう」と意気込んだ2人でしたが、この計画が息子Cさん(40代)の耳に入ったとき、思わぬ反応が返ってきました。
「ちょっと待ってくれ! その家は俺が継ぐつもりだったんだ!」 息子のCさんは驚きを隠せません。Cさんはすでに結婚し独立した生活を送っていますが、家を売却する話は、彼にとって青天の霹靂だったのです。さらに、彼の妻であるDさんは「この家を私たちの子供たちのためにも残してほしい」と主張し、夫婦で反対意見を強めました。
Aさん夫婦は「これまで私たちが築いてきた財産をどう使うかは私たちの自由」と考えていました。また、介護の負担を息子夫婦にかけずに済むため、今回の計画はむしろ息子も喜んでくれると思っていたのです。一方で、息子夫婦は「親の家は子供が受け継ぐものだ」という意識が強く、家族間の意見は真っ向から対立。
息子の反対を受けて、Aさんは「自分たちの老後のためにベストな選択をしたはずなのに……」と複雑な心境になり、Bさんも「息子夫婦とこんな形で争いたくなかった」と肩を落としました。 今回の対立は、単なる家族間の意見の違いに留まらず、老後資金や財産管理といった現実的な問題を浮き彫りにする結果となったのです。
老人ホーム入居に必要な費用と準備
老人ホームへの入居を検討する際、主に以下の費用が発生します。
入居一時金:入居時に一括で支払う費用で、施設によっては数十万円から数百万円と幅広い金額設定があります。入居一時金が0円の施設も存在し、その場合は月額利用料が高めに設定される傾向があります。
月額利用料:毎月支払う費用で、家賃、食費、管理費、介護サービス費などが含まれます。地域や施設の種類によって異なります。
これらの費用を賄うために、事前の資金計画が重要です。自身の年金収入や貯蓄、退職金などを考慮し、無理のない支払い計画を立てることが求められます。
親の財産は誰のもの?…親子で考えるためのヒント
「親の家」をめぐるトラブルのきっかけ
親が築き上げた財産、とりわけ「家」は、しばしば家族間でのトラブルの原因となります。その背景には、親と子供たちのあいだで「家に対する価値観の違い」が一つとして挙げられます。
親にとっての家
親にとって、家は人生をともに歩んできた大切な場所であり、思い出が詰まった財産です。また、老後の生活を支える資金として活用する選択肢も考えています。
子供にとっての家
一方、子供にとっては、人生を共に歩んできた場所でありながら、「親から受け継ぐもの」という考えがある場合があります。特に長男や長女が「家は自分が継ぐものだ」と考えているケースでは、親が家を売却しようとすると反発が生じやすいです。
実際、親が家を売却して老後資金に充てようとしたことで、子供たちが「私たちになにも相談せずに決めた」と不満を持ち、家族間のトラブルに発展するケースは少なくありません。
老後の資金計画に家族との話し合いは必須
こうしたトラブルを防ぐためには、老後の資金計画について家族全員で事前に話し合うことが重要です。親がどのような生活を望んでいるのか、子供たちがどのような期待を持っているのかを共有することで、お互いの認識をすり合わせることができます。
以下は、話し合いを円滑に進めるためのポイントです。
1.親の意思を明確にする 親が老後にどのような生活を送りたいのかを具体的に話してもらいます。たとえば、「高齢者施設に入りたい」「家に住み続けながらヘルパーの支援を受けたい」など、希望を明確にすることが大切です。
2.資金計画を可視化する 年金収入、貯蓄、退職金など、どのくらいの資金があり、どのくらい必要になるのかを家族全員で共有します。不足分をどのように補うか(たとえば家の売却など)についても話し合いが必要です。
3.家族全員の意見を尊重する 親の希望を優先することは大切ですが、子供たちの意見や感情にも配慮する必要があります。全員が納得できる妥協点を見つけることが、円満な解決につながります。
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス
代表
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