トイレはちょっと待って!…介護施設で起きた「壮絶な職場いじめ」背景にある“深い闇”【専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月20日 11時15分
(※画像はイメージです/PIXTA)
職場いじめにおいてもっとも相談件数の多い「医療・福祉」業界。大手フランチャイズの介護施設でパート勤務にあたる30代女性Iさんも、先輩職員からの陰湿ないじめにあっていました。しかし、その背景には個人間の問題を超えた“深い闇”があったのです……。『大人のいじめ』(講談社)より、ハラスメント対策専門家の坂倉昇平氏が著書『大人のいじめ』(講談社)より「職場いじめ」の実例をみていきましょう。
“女の妬み”だと思っていたが…30代女性が受けた「陰湿ないじめ」
パートながら週5日フルタイム、夜勤もありの業務をこなす30代Iさん
30代女性のIさんが勤務していたのは、介護施設の大手フランチャイズの看板を掲げた、小さな株式会社だった。
業態は、利用者が通所して介護を受けるデイサービスだ。Iさんは、准看護師と介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の国家資格を持っており、リハビリと介護の業務を担当していた。契約上はパートタイムで時給制だったが、実際には週5日・1日8時間のフルタイムで、夜勤もありの仕事を真面目にこなしていた。
執拗な侮辱、休日希望は拒否、昼休憩もなし
社長である施設長が施設に来ることはほとんどなく、役職のない4人の職員に現場のすべてが任されていた。その1人である女性の先輩職員から、Iさんは陰湿ないじめに遭っていた。
この先輩は、Iさんの容姿や服装をいかがわしいとでも言いたげにあげつらい、「男を誘ってるんでしょ」などと執拗に侮辱してきた。Iさんは、先輩より若い自分に対する「女の妬み」だと感じていた。
嫌がらせは業務にも及んだ。勤務日のシフトを決める際、Iさんが休日の希望を出すと、「甘えてる」「独身なんだから会社を一番に考えて」などと吐き捨てるように言われ、拒否された。
夜勤についても、もともとIさんは精神疾患を抱えており、面接時に社長にできないと伝えていた。ところが、これを断ろうとすると、「なんでやらないの」と無理やり入れられてしまった。昼ご飯の時間すら、「いま、そんな場合じゃないでしょ」「なに休憩してるんだよ」と休ませてもらえなかった。
Iさんの父が事故で亡くなったときでさえ、「仕事か親か、どっちかをとれ」と出勤を迫られるほどだった。
こうした先輩によるIさんへのいじめの背景には、「女だから」「妬み」などでは説明できない、職場の崩壊があった。
社長はビジネスにしか興味なし…過酷すぎる労働環境
この施設の利用者の定員は10名。1日2〜3人の職員がシフト制で出勤して、高齢者を介護していた。夜の「お泊まりデイサービス」も連日5〜6人が利用していた。ただし「お泊まりデイ」は、たった1人の職員による「ワンオペ」で行われていた。
社長は繁華街でバーを経営しており、本業の片手間にひと儲けしようとして、数年前に介護業界に参入したばかり。未経験なので、施設の仕事は現場の職員に丸投げし、介護に関心がないのは明白だった。
できるだけ多くの利用者をかき集め、そこに最小限の職員をあてがい、手軽に利益を上げるビジネスとしか考えていなかったのだろう。そのため職員は少なく、労働環境は過酷だった。
休憩なし、休日なし…面接で断ったはずの「24時間勤務」も強要
定時は9時から18時までだったが、タイムカードを切ってから1時間〜1時間半程度、残業するのが常態化していた。
朝9時から翌朝9時まで日勤と夜勤を通しで行う24時間勤務のシフトも、月2回ほど回ってきた。Iさんは社長に、夜勤や24時間勤務はできないと面接時に約束してもらったはずだと確認すると、「そんなこと言ったっけ」ととぼけられてしまった。24時間勤務のときですら、休憩らしい休憩を取る余裕はなく、食事も立ちながら食べた。
急に、シフト変更や休日出勤をさせられることもあった。また、IさんとIさんへの嫌がらせをやめない先輩職員だけが看護の資格を持っていて、利用者にインシュリン注射を打てるため、この業務を2人で押し付け合うかたちになっていた。
先輩が休んだため、Iさんは1週間以上休めないときもあった。急な出勤命令があり、自宅のアパートまで同僚が車で迎えに来て、施設まで強制的に連れていかれたこともあった。給料の遅配や、給与明細と振り込み額が違うことまであった。
もとから精神科に通っていたIさんは、当然、症状が悪化。しかし、先輩職員からは「リフレッシュ方法が悪いんじゃないの」と突き放され、自己責任として扱われた。
転倒、骨折、失神…夜の「ワンオペ」で介護事故も続出
さらにストレスとなったのが、人手不足のため手が回らず、頻発する介護事故だった。転倒は日常茶飯事で、玄関の縁石でつまずいたり、風呂で転んだり、柵を付け忘れたベッドから転げ落ちたりといった事故が、2〜3日に1回は起きていた。
骨折しても救急車すら呼べない「お泊まりデイサービス」
特に1人で5〜6人を見る「お泊まりデイサービス」は危険だった。
歩行が困難な80代の女性が、トイレに行こうとナースコールを押すも、職員が来なかったため、歩行器を使って自力で行こうとして転倒し、大腿骨にひびが入る事故があった。ワンオペ中の同僚が、他の利用者の介助でトイレにおり、気付かなかったのだ。
その後も、同じ利用者が同じ状況で再度転倒し、今度は大腿骨を骨折した。しかし、怪我をしても、夜勤中はワンオペで付き添いができないため、救急車を呼ばないしきたりになっていた。
以前に1度事故を起こした同僚が、24時間勤務後に急にシフトが追加されてワンオペ夜勤となった結果、途中で寝てしまい、ナースコールに気付かず、やはりトイレに行こうとした高齢者が転倒したケースもあった。同僚は疲労困憊していたが、先輩からは「2回もやりやがって」と怒りをぶつけられていた。
脳梗塞や心筋梗塞を患い、脈拍や呼吸が安定していない利用者を入浴させていたとき、利用者の血圧が低下して意識を失い、その間に尿失禁・便失禁させてしまったこともあった。
通常の介護じたいも手が回らないため、利用者には1日中ずっとテレビを見させているだけ。「トイレはちょっと待って!」と利用者に怒鳴ってしまうこともあった。徘徊がひどい人が多く、認知症の人が勝手に外に出てしまったこともある。
退職後、団体交渉の末に解決金が支払われるも…
人手不足による長時間労働、多すぎる業務、過酷なシフト、介護事故の危険。先輩のいじめの背景には、こうした事情があったのだ。Iさんは、社長に先輩の発言や職場の実態を話したが、当然のように何の対応もされなかった。
Iさんは退職し、なんとか会社に責任を取らせたいと介護・保育ユニオンに相談した。当時、憔悴していたIさんは、「誰も信じられなくなった」と繰り返しつぶやいていた。
その後、ユニオンに加入したIさんは会社と団体交渉を行い、社長に一連のことを謝罪させ、最終的に解決金が支払われた。ただし、そのときには、先輩もすでに退職していた。
坂倉 昇平 ハラスメント対策専門家
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