〈父は死去、母は認知症〉40代・子供部屋で無職の長男「俺はどうなるんだ?」…妹2人が怒りの制裁
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月13日 12時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
いつの時代もなくならない相続トラブル。親/子ども/きょうだいと、死後のことを話すのは気まずい……。といった声は多いものですが、生前対策を怠ってとんでもないトラブルに巻き込まれる例が相次いでいます。本記事では実際の事例を紹介し、相続対策の基本をみていきます。
「実家暮らしの長男」が悩みの種だった姉妹
相続のシーンでは、故人の遺産をめぐりドロ沼の争いになることが少なくありません。特に「実家暮らしのきょうだい」に関しては、家族間で不平不満が噴出してしまうことも……。
たとえば下記のような例。自分事ではなくとも、親戚や友人に起こった出来事として覚えのある方はいないでしょうか。
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《高村さん一家の事例》
1ヵ月前、父が亡くなった高村さん一家。長女のサキコ(44歳/仮名)さんと次女のヨシコ(40歳/仮名)さんは、認知症傾向にある母・セツコさん(75歳/仮名)を老人ホームに入居させようと考えていました。
しかし2人には、不安の種がひとつ。長男の存在です。
長男のカズオさん(45歳/仮名)。大学卒業と同時に上京し、大手自動車メーカーに就職しました。しかし、3年も経たないうちに退職し、帰郷してしまいます。何があったのかと家族が問い詰めても「うるさい」の一点張り。自室に引きこもりがちになりました。
業を煮やした父に激怒され地元の企業に就職したものの、こちらも長くは続かず2年で退社。その後は、アルバイトを始めたり辞めたりを繰り返し、現在は無職です。
貯金もないカズオさんは、帰省以来ずっと実家暮らしです。身の回りは母であるセツコさんがすべて世話していました。母が急にいなくなることに、長男が耐えられるとは思えません。そして母に対しても、はたして老人ホームに入ってくれるかどうか、不安がありました。
どうやって切り出そうか……と悩む日々が続きましたが、「兄さんの説得を」と2人の間で結論がまとまります。次女が母を病院に連れて行ったある日、長女が話し始めました。
「兄さん、お母さん、老人ホームに入ってもらおうと思うんだけど、いいよね」
「え? 何? なんのこと?」
「いい加減にして」長女を絶句させた、長男の一言
もちろんカズオさんは寝耳に水。疑問符だらけの返事が返ってきます。サキコさんは慎重に話を続けます。
「お母さん、もう足腰弱いでしょ。家の階段でこけたりしたら大変じゃない。お父さんの貯金も結構あるし、老人ホームに入ってもらうタイミングかなって思って。兄さんは家を継いでよ。私たちは何も要らないから。お金もあげるよ」
これが、姉妹で出し合った結論でした。父の遺した預貯金はお母さんの老人ホーム代、そしてカズオさんの生活費に充てる。加えてカズオさんには家を継いでもらう。私たちは相続放棄をする。お母さんの面倒は姉妹で見る。……家族のためを想った、最大限の計画です。
そんな思いを知ってか知らずか、カズオさん、数分沈黙を続けます。見守るサキコさん。「何か考えがあるなら言って」と言葉を続けようとしたそのとき、静かに口を開きました。
「まあ別にいいけど……俺の服とか、どうなるんだ? お前がやるの?」
沈黙。そして「…………は?」と一言、いや一文字だけ零れ落ちたサキコさん。自身の兄が何を言っているのか、理解をするのに時間がかかりました。
「いやだから、洗濯とか料理とか、俺の分はお前がやるのか? それならいいよ」
真っすぐな目で言い放ったカズオさん。母の心配など一切しておらず、自分の日常をどうしようか、考えあぐねていただけのようでした。兄の素朴すぎる質問に、「やるわけないでしょ」とうんざりした声をあげます。
「私もヨシコも生活があるの。子どももいるし。兄さん、一人暮らししたことあるし大丈夫でしょ? お金もあげるんだから、いい加減自立してよ」
優しく諭すつもりでしたが、ダメでした。積年の恨みつらみが怒涛のように押し寄せます。罵声を浴びせるのはなんとかこらえたものの、顔は怒りで真っ赤です。
「え、いや、無理だよ。金あるとかそういう話じゃないだろ。俺わかんねえよなんも。どうすんだよ」
カズオさんも譲りませんが、話が要領を得ません。とにかく無理だ、ダメだから、を繰り返すばかりで、「駄々をこねている」だけのようでした。
「今まで甘やかせすぎたんですよ。40歳にもなって…」
結局、この日は何も解決できないまま終了。事の顛末を聞いた次女のヨシコさんは「兄さんの言うことなんて聞いてられない。本当に困ったら自分でなんとかするでしょ」と強硬姿勢です。でもお母さんの意見も聞いてあげないと……と、頭が冷えて慎重姿勢を取り戻したサキコさんでしたが、「待ってる間に骨折したら? 火事でも起こしたら? 誰が責任とるの?」と妹がピシャリ。我に返りました。
2人は現在、着々と老人ホーム入居の準備を進めています。問題のカズオさんに関しては、「やっぱりお母さん、老人ホームに入ってもらうことにしたから」と一言メールを送っただけだそう。
「私たちは遺産を全部諦めて、家もお金もあげるんです。これ以上かまっていられません。電話も来るけど無視しています。まだ40代なんだし、この先どうとでもなるでしょ。今まで甘やかせすぎたんですよ」
淡々と話すのは次女のヨシコさん。もともと兄妹の仲はよくありませんでしたが、今回の出来事をきっかけに、ほぼ絶縁状態になってしまいました。
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……この事例は相続トラブルの典型例といえましょう。ただえさえお金が絡むと揉めるものですが、「遺産分割」は争いの火種になります。特にきょうだい間で生活の格差が著しいと、価値観の違いが大きな亀裂を生んでしまうのです。
なお相続放棄については、下記を参照ください。
“言わずもがな、相続人は相続の効果を確定的に消滅させる、つまり「すべて相続しない」という意思表示ができます。これが相続放棄です。
相続放棄について、次のようなことが知られています。
●相続放棄をしたら、その相続に関しては最初から相続人にならなかったものとみなす(民法939条)
●相続放棄をした人に子(直系卑属)がいても、代襲相続はできない
●相続放棄の意思表示は、相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申述しなくてはいけない
●相続放棄は相続人が単独で行うことができる
●一度申述した放棄は撤回できない”(江幡吉昭『親族「みんなが相続放棄」をすると、何が起きる?…意外な答え』)
姉妹の決断は正しかったのか?
今回のケースでは姉妹が兄のために相続放棄することを決断しましたが、結局、きょうだいの仲は最悪になってしまいました。円満相続とは言い難い状況です。家族を想った決断とはいえ、はたして姉妹の決断は正しかったのでしょうか。
残酷な現実ですが、相続のプロのなかには「結局、ゴネたもん勝ち」と断言する人も少なくありません。遺産分割協議がこじれにこじれ、はては裁判に……となるのを避けたい心優しい相続人が折れるケースが相次いでいます。
遅かれ早かれ起こる「相続」。自分の遺産をめぐって家族がバラバラになってしまう結末は避けたいものです。いつ何があっても問題ないように、事前の情報収集、家族との密なコミュニケーションが求められます。
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