甘やかしすぎたな…30歳“出戻り息子”の寝顔を見ながらため息。年金月27万円・貯金2,000万円の60代夫婦、日本年金機構から届いた「赤い封筒」に悲鳴【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月26日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
年々上がっていく国民年金保険料。2025年度は2024年度よりも530円高い1万7,510円となる予定です。こうしたなか、年金保険料の支払いを負担に感じる人も増えています。しかし、日本年金機構からの催告状を放置していると“悲惨な末路”を迎えるかもしれません。具体的な事例をもとに、未納を続けた場合の“悲劇”と“救済策”をみていきましょう。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPが解説します。
趣味は貯金。「金銭的不安とは無縁」なはずの老夫婦だったが…
現在69歳のAさんには、3歳年下の妻Bさんがいます。Aさんは現役時代、上場企業で部長を務めた真面目な男性で、妻のBさんとはお見合いで知り合い結婚。Bさんは専業主婦となりました。
Aさんは60歳で定年を迎え、2人の年金受給額は月額およそ27万円です。この他、収入源としてAさんの企業年金などがあります。
また、Aさんは趣味が貯金だったこともあり、定年までに住宅ローンは完済。また、65歳まで再雇用されていたことから、年金生活になった現在も貯金は2,000万円ほど残っています。
金銭的な不安はないはずのA夫妻ですが、2人には悩みの種がありました。それは、最近東京から帰ってきた30歳のひとり息子Cさんのことです。
念願の「古着屋」開業も、3年で廃業…A夫妻の悩みの種
Cさんは高校卒業後、都内の有名私大に進学。在学中にアルバイトを始めたことをきっかけに古着にハマり、大学卒業と同時に、バイト先の古着屋に就職しました。
「いつか自分の店を持つ」という夢を抱きながら社員として働くこと3年強、Cさんは26歳にして念願の古着屋を開業しました。
「夢を追うのはいいことだけど、お金もないはずなのにそんなに早く店を開いて大丈夫なのかしら」と不安に思っていたA夫妻。その“イヤな予感”は的中し、Cさんは約3年で廃業することに。借金を抱えたCさんは、やがて実家に出戻ってきました。
「別にずっといるわけじゃないから。働きながら借金を返して、また都内で挑戦するからすぐに出ていくよ」
Cさんはこう言っていたものの、いざ実家で暮らしはじめると家事はしないどころか、なかなか仕事にも就かない様子です。
結局、「就職が決まったら給料から返すから」と、生活費はしばらくA夫妻が立て替えることに。しかし、その後も仕事に就く気配はなく、実家で思う存分ダラダラするCさん。ソファで爆睡する息子の寝顔を見ながら、「甘やかしすぎたかもしれないな……」とため息をつくA夫妻です。
A家のポストに突然届いた「赤い封筒」…差出人は
口では「働け」と息子に説教をしながらも、なんだかんだ3人で過ごせる日々も悪くないと考えていたA夫妻。しかし、そんなA夫妻の“甘い考え”が吹き飛ぶ大事件が。
ある日、母のBさんが家に帰ると、ポストに見慣れない赤い封筒が入っているのを見つけました。見るとCさん宛で、差出人は「日本年金機構」と書いてあります。「大切なお知らせです。必ず開封してください」とのこと。
「こんなのが届いてたんだけど」と夫とCさんに声をかけ開封すると、中身は国民年金保険料の納付を促す「特別催告状」と呼ばれるものでした。Cさんに聞くと、「国民年金保険料を払っていなかった」と言うではありませんか。
「理由を聞かせて」「おい! どういうことだ!」2人は思わずCさんに詰め寄ります。
Cさんはしどろもどろになりながら、未払いの理由について次のように話しました。
「実は古着屋時代、生活が苦しくて……年金機構から何度もハガキ(催告状)が届いていたけど、払えないし、無視していたんだ」
「なんてこと……甘やかした自覚はあったけれど、こんな当たり前のことすら怠るなんて」
あきれたA夫妻は、すぐに対応しなければと、早速Cさんを最寄りの年金事務所に行かせることにしました。
20歳以上60歳未満は「国民年金」に加入する義務がある
20歳以上60歳未満の人は、国民年金の加入義務があります。自分の店を開いて個人事業主となってから、仕事をしていない現在にいたるまで、Cさんはその第1号被保険者にあたります。第1号被保険者になると、毎月1万6,980円の国民年金保険料(2024年度)を払う義務があります。
国民年金の仕組みについて改めて年金事務所で説明を受けたCさんでしたが、困ったように肩をすくめます。
「払えと言われても、働いていないんだからお金がないし、払えないよ……」
収入がないため、当然といえば当然のことかもしれませんが、Cさんのように収入がない人の場合、救済策はないのでしょうか。
年金事務所の担当者が「納付猶予」の申請を急かしたワケ
すると窓口の担当者は、次のようにCさんに声をかけます。
「Cさまは『保険料納付猶予制度』の対象になりますよ」
「保険料納付猶予制度」とは、20歳以上50歳未満で、本人が(配偶者がいる場合は配偶者も)、一定の所得要件を満たせば、義務となっている国民年金保険料の納付を猶予できるというものです。Cさんは無収入ですから、猶予制度の所得要件は満たしています。
担当者「これは保険料の免除制度と異なり、65歳になった際の老齢基礎年金の額に反映されません。つまり、猶予期間にあたる分の年金は『0円』で計算されます。
とはいえ、Cさまはすぐに納付猶予の申請をする必要があります。なぜなら、猶予申請をしないと、未納扱いのままとなるからです。未納期間が多いと、10年以上必要な受給資格期間を満たせないことから、将来老齢年金の受給そのものができなくなります。
つまり、お母さまやお父さまが現在受けられている年金が将来Cさんにはまったくない恐れがあるのです。また、万が一、病気やケガで障害が残った際の障害年金も受けられなくなる可能性もあります。よって、すぐに納付猶予の申請を行ってください。
納付猶予の申請をしておけば、10年以内に猶予を受けた保険料を後から納めること(追納)ができます。追納すれば老齢基礎年金額は納付した扱いで計算されて、将来年金を受け取ることが可能です」
このまま放置すると、Aさんも含めて「財産差押え」に
担当者「また、納付猶予の申請は過去2年分に遡ることも可能です。しかしながら、Cさまには赤い封筒で特別催告状が届いています。年金機構からのお知らせを引き続き無視すると、財産差押えが行われる恐れもあります。しかも、差押えは世帯主であるお父さまにもおよぶことになります」
ここまで聞いたCさんは、「えっ、財産差押え!? 親にも迷惑をかけちゃうじゃん……僕が年金もらえなくなるだけじゃないんですね」と手続きの意味を理解。その後、すぐに納付猶予の申請を行いました。
この申請の結果、どうやら差押さえは免れそうです。Cさんは、「まじで相談しに行ってよかった……親には感謝してもしきれない。このまま親に依存した生活をしているのはまずいな」と、ようやく本腰を入れて職探しを始めたのでした。
先述したように、国民年金保険料は納付義務があります。しかし、Cさんのように、さまざまな事情から収入がなく払えない場合もときにはあることでしょう。その場合も決して放置せず、年金事務所などに相談のうえで、必要な手続きを進めることが大切です。
五十嵐 義典 CFP 株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役
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