「遺産4600万円」を遺すも〈72歳夫〉には先妻との子供が…「代償金250万円」を払わないとダメですか?要介護5の夫をずっと介護してきた〈62歳女性〉が無力感を覚えたワケ【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月17日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
仕事もやめ、長らく自宅で一人で夫の介護に専念してきた好子さん(60代女性)。夫が亡くなり、司法書士に相談してみると、遺産は息子と、40年間一度も会っていない前妻との娘とで3分割するのが法律上の基本だと言って、背景を聞いてもらえず……。本記事では相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、好子さんの取れる相続対策について詳しく解説します。
介護してきた夫が突然亡くなって…
しばらく自宅で介護をしてきた夫が突然亡くなってしまい、息子さんと二人で相談に来られた好子さん(62歳女性)。
好子さんの夫は、65歳のとき、仕事中に倒れて救急搬送。命はとりとめたものの半身不随となってしまい、要介護5に。以降、好子さんが仕事も辞めて、自宅で介護をしてきたといいます。
夫は自宅療養になってからも、病院で定期健診を受けていました。今年の定期検査の結果は良好で、心配はないと太鼓判を押してもらったばかりでしたが、なんと検査の翌朝、突然亡くなってしまったのです。
その後、司法書士に依頼はしたものの、不安が生じ、今回、好子さんと息子さんのお2人で相談に来られました。
10歳年上の夫とは再婚で、先妻との間に娘がいる
好子さんと夫は、今からおよそ40年前に結婚しています。好子さんは初婚で一人息子に恵まれ、10歳年上の夫は再婚で、先妻との間にもう一人娘がいるとのことです。
当時上場企業に勤務していた夫は、転勤先の同僚と結婚し娘が生まれたものの、2年で協議離婚したそうです。
先妻との間の娘は現在40代になりますが、夫は離婚してからの40年間、全く会っていないといいます。当然ながら、好子さんや息子も先妻の子とは会ったこともなく、どこに住んでいるかもわからない状態です。
司法書士に相談していた内容
好子さんは昨年知人の紹介で、夫のことを司法書士に相談していました。介護が長くなり、70代になった夫に認知症の症状も出てきたため、これからのことが不安になり、何をすればいいのかアドバイスをもらいたかったそうです。先妻の子がいることは司法書士にも説明済です。
息子さんは、家から通えない距離にある大学に入ったことをきっかけに実家から離れて暮らしており、社会人になって結婚した現在では、職場の近くにマンションを買っていますので、父親の介護に協力できる余裕はなかったようです。よって、日々の介護は好子さんがひとりで引き受けており、夫自身も、好子さんに負担をかけていることは承知の上で「自分の財産はすべて好子さんに渡す」と言ってくれていたそうです。
そのような好子さんの貢献度が明らかな状況で、司法書士も、自宅のおしどり贈与や遺言書などの方法をサポートしてくれるのかと期待していたものの、話がなかなか進まらず、今回弊社に相談に来られたようです。
司法書士の提案はあくまで「法律」優先で…
夫が亡くなったあとも、引き続き同じ司法書士に依頼して、財産の目録を作ってもらっていました。夫の相続人は妻と子ども2人の3人で、基礎控除は4,800万円。夫の財産を確認してみると、自宅の土地建物が2,800万円、預金と株で1,800万円、合計4,600万円。相続税の申告は不要だとわかりました。
司法書士の遺産分割案の方針は、法定相続分が基本になるため「妻は自宅を、子供たちは預貯金・株などを現金化し均等に相続することを提案する」ということです。そうなると好子さんは、自宅は相続できるが、子ども2人に250万円ずつ、計500万円を代償金として払わないといけなくなります。
好子さんは、これからの老後生活を考えると、500万円を払うことには不安があります。なにより、長らく夫の介護は好子さんがひとりで担当し、仕事が忙しい息子には手伝ってもらえず、ましてや先妻の子は、40年以上も行き来すらしていないのです。
違和感の残る方針に納得できない好子さん
好子さんは、司法書士の分割案に違和感がありましたので、「夫からは全財産を相続していいと聞いているし、介護した寄与分があるので、財産全部を自分が相続したい」と主張しました。
けれども司法書士には、「妻の寄与分は認められないのがほとんど。法定相続分による分割でいきましょう」と言われてしまったのです。
「全部を妻に」となると、法定相続での配分にならないので、司法書士にはできないといいます。けれども、好子さんはまだ60代。これから20年、30年先の老後まで、安定した生活ができるのか、とても不安であると言います。また、先妻の子にはまだなにも知らせていないため、入り口はそこからになります。
先妻の子への通知
司法書士が、先妻の子の戸籍や住民票を取得していましたので、連絡をすることができる状況でした。
今回のように、先妻の子がいるも交流がなく、亡くなったことも知らせていない、また、遺言書がないので、遺産分割協議に協力をしてもらう必要があるといったご家庭は多数あり、私たちも何度もお手伝いをしてきました。
好子さんにも委託をいただき、まずは先妻の子に通知するところから始めました。相手があることなので、反応は切り出してみないとなんともわかりません。本当にケースバイですが、長年会ってもいない戸籍上の親の相続とは関わりたくないという方もいて、自ら相続放棄をされるケースもあります。
具体的には、次のような通知文を送って、理解や協力を得るようにします。
通知文例1
前略
この度、令和6年○○月○○日にお亡くなりました○○○○様(被相続人・亡くなった人)の相続手続きの依頼を受け、○○○○様(先妻の子)も相続人となられますため、連絡をさせていただいた次第です。
○○○○様(被相続人・亡くなった人)は脳梗塞で倒れて以降、10年以上もご家族で介護をされていた状況にありました。口頭での意思は明確でしたが、遺言書の作成は間に合わなかったため、○○○○様(先妻の子)にもご協力をお願いする必要がございました。
大変恐縮ではありますが、ご説明を差し上げ、ご意向を伺いたく存じますので、ご都合のよい時に下記まで、電話、メールを頂ければ幸いです。
後略
通知文例2
前略
令和6年○○月○○日にお亡くなりました○○○○様(被相続人・亡くなった人)の相続手続きの依頼をご家族より受け、相続人となられる○○○○様(先妻の子)に○○月○○日付のお手紙で連絡をさせていただきました。ご連絡をお待ちしておりましたが、現時点でまだご連絡を頂けておりません。
つきましては、お忙しいところ大変恐縮ではありますが、○○月○○日までに、下記まで電話、メール、手紙などでお返事を頂きたく、再度ご連絡を差し上げました。
先般もお伝えしたように、○○○○様は脳梗塞で倒れて以降、10年以上もご自宅で奥様が介護をされていた状況にありました。口頭での意思は明確でしたが、遺言書の作成は間に合わず、遺産分割協議が必要なためご協力をお願いする次第です。
本年、登記法が変わり、相続発生後3年以内に不動産の名義替えをすることが義務化となりました。それらを踏まえて、早々の相続手続きの必要があります。もし、このままご連絡を頂けない場合は、家庭裁判所の調停に申立てをせざるを得なくなり、○○○○様(先妻の子・相続人)にも時間や費用等のマイナス面が生じかねません。何卒、ご理解ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。
後略。
まとめ
ほどなく先妻の子の代理人の弁護士から、「相続放棄の手続きを進める」という連絡がありました。相続放棄が成立すると、好子さんと息子の2人で遺産分割協議ができますので、大きな問題はなくなります。
法定割合という基準はありますが、現実的な遺産分割を考えると介護に貢献した妻が自宅と預金など全財産を相続するのが妥当なところです。
相続は法律だけでは解決しない現実があります。権利はあるものの、状況に応じて現実的な遺産分割をしていくのが望ましいといえます。
しかしながら、生前にチャンスがあったにも関わらず、何もできなかった司法書士には残念に思います。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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