お前、なぜそんなことを…。58歳・大企業勤務のサラリーマン、悠々自適の老後を確信していたが「2,000万円の貯金消滅」で計画崩壊。原因は55歳〈専業主婦妻〉が知り合った「スマホの向こう側のお友達」【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月22日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
近年急速に普及しつつある「SNS」。世界中の人と交流が可能になるのは魅力的ですが、悪意を持った詐欺師たちとも簡単につながることができてしまいます。本記事では、50代の佐藤さん夫婦の事例を取り上げ、「SNS型投資詐欺」の実態と被害にあわないために押さえるべきポイントについて、ファイナンシャルプランナーの内田優帆氏が解説します。
悠々自適の老後を夢見ていた夫婦に突如訪れた危機
【登場人物】
夫:佐藤和也さん(58歳・仮名)…会社員
妻:佐藤絵里さん(55歳・仮名)…専業主婦
・年金見込み額:夫婦で月25万円
・資産額:2,000万円
・退職金予定額:2,000万円
・住宅ローン残債:1,500万円
佐藤和也さん(58歳)は、大企業に勤めるサラリーマン。これまで順調にキャリアを積み重ねてきました。2人の子どもはすでに独立しており、現在は55歳の妻、絵里さんと二人暮らしをしています。
資産状況も安定しており、資産は2,000万円。60歳で受け取る予定の退職金で、住宅ローンの残債を支払う予定です。それでも老後資金は十分あるので、65歳で退職したら夫婦でのんびりと趣味や旅行を楽しむ計画を立てていました。
しかし、妻・絵里さんの好奇心によって夫婦の計画は大きく崩れることとなります。絵里さんがインスタでたまたま見つけた「月利5%」「リスクなし」と謳う投資の広告。リンクをクリックすると、同じ年代の人たちが豪華な生活を送っている写真や成功者のストーリーが並んでいます。
「私と同じぐらいの年なのに、こんなにいい生活ができるなんて……いったいどうしたらこうなれるのかしら」
最初はちょっと見てみようというぐらいの気持ちでした。絵里さんは、その広告に載っていたLINEのリンクから投資グループに参加。しばらくはそこで交わされる会話を見ていましたが、次第に自分もコミュニティで質問や会話をするようになりました。
すでに成功している人たちの話や、これから投資を始めようとしている仲間たちとのやりとりは、専業主婦で交友関係があまり広くない絵里さんにとっては、とても楽しく刺激を受ける時間でした。
メンバーは絵里さんにとって友達のように信頼できる存在になっていきましたが、夫はSNSに疎いため、あれこれ言われても面倒だと内緒にしていました。
すっかりコミュニティに馴染んだ頃、絵里さんは投資グループのメンバーから実際に投資をしてみたらどうかと促されたのです。
「夫婦でゆったり過ごすはずの老後が…」夫、思わず絶句
とはいえ、絵里さんもいきなり大金を投じるのには躊躇しました。しかし、少額から始められると言われ、試しに30万円を投資。すると、配当金がスムーズに支払われました。
配当金が入ってきて安心した絵里さんは、続いて100万円を投資しました。これもスムーズに支払われたため、「この投資は儲かる」と確信。「たくさん投資するほどリターンも大きい」と言われ、さらに300万円を追加投資し、その後も次々と資金をつぎ込んでしまいます。
しかし、しばらくすると配当金の支払いが滞るようになりました。運営者に連絡をしても、あれこれ理由を述べて誤魔化されるばかり。最終的には投資グループは閉鎖され、運営者とまったく連絡がとれなくなってしまいました。
絵里さんが調べたところ、この投資話はSNS型投資詐欺であることが判明。そして気づいたときには、合計して2,000万円が失われていたのです。
和也さんが絵里さんの様子がおかしいことに気づいたのも、資産が失われた後のことでした。スマートフォンを見ては暗く辛そうな顔をする絵里さんから報告を受けた和也さんは、言葉を失いました。
「こんな大金を詐欺で奪われたなんて。老後計画がめちゃくちゃだ……」
50代以上がSNS型投資詐欺の標的にされる理由
50代のSNS利用率は年々増加しています。総務省のSNS利用率のデータによると、2018年から2023年の5年間で、フェイスブックは29.3%から32.6%、インスタグラムにおいてはなんと24.4%から51.7%まで増加しています。
そんななかでSNS型投資詐欺の手口も年々巧妙化しています。多くはインスタグラムやフェイスブックなどのSNSの広告からLINEグループに誘導し、参加者に投資を促します。SNSを悪用した詐欺は若者だけの問題と思われがちですが、実は50代以上の被害が大部分を占めているのです。
警察庁の調査では、SNS型投資詐欺の被害者の約70%が50代以上であることが明らかになっています。その中でも、絵里さんと同じ50代女性は女性被害者全体の29.2%を占め、最も多い割合を示しています。
この世代は「人生経験が豊富」「金銭的に余裕がある」「その一方で金融知識が十分にない」と思われ、詐欺のターゲットにされることが多いのです。
それだけではなく、以下のような心理を利用され、50代の詐欺被害が増えていると考えられます。
- 老後への不安:年金だけでは生活が心配なので資産を増やしたいという思い。
- 成功願望:現役を引退する前に一発逆転を狙いたいという気持ち。
- 周囲の影響:同世代の知人が参加していることによる安心感と出遅れたくない気持ち。
専門家が教える、詐欺を見抜く3つのポイントと対策
では、SNS詐欺から身を守るにはどうすれば良いのでしょうか? 気を付けるべきポイントを3つご紹介します。
1.高額な配当を謳う投資話には注意
「月利〇〇%」「元本保証」といった話は要注意です。通常、リスクとリターンは比例するものであり、リスクゼロかつ高利回り商品はありません。
2.金融庁に登録されていない業者は要注意
日本で金融商品や暗号資産などの取引を行う場合、業者は日本の法令に基づき登録を行う必要があります。登録されていない場合、投資家を保護するシステムが十分に整っていないと言えます。取引相手が金融庁の登録を受けているのかを確認するようにしましょう。
3.家族や専門家に相談する
SNSで知り合った人にお金を預ける前に、家族や専門家に相談することが大切です。第三者に相談することで、冷静な判断をすることができます。また、家族間でのコミュニケーションも重要です。定期的にお金の使い道や資金計画を話し合い、互いに相談できる関係を築くことが、詐欺被害を防ぐ最善策です。
SNS詐欺は他人事ではない…家族間でのコミュニケーションも重要
絵里さんの話を聞き、しばらく悲嘆に暮れていた和也さんですが、こう話しています。
「まだ退職するまで時間があります。できるだけ長く働き、お金のことも勉強しながら老後に備えたいと思います。思い描いていた悠々自適の老後生活は送れないかもしれませんが、夫婦で協力し合って前向きに生きていきたいと思います」
佐藤さん夫婦のような被害にあわないためには、先ほどの3つのポイントで対策しておくこと。そして、もしも「SNS詐欺かもしれない」と不安に思うような勧誘を受けたりしたら、振り込みをする前に以下の窓口に相談をしましょう。
- 警察相談専用窓口#9110
- 消費者ホットライン188
- 未公開株通報専用窓口0120-344-999
(SNS型投資詐欺 | 最新の詐欺 | 警察庁・SOS47特殊詐欺対策ページより)
振り込んでしまったあとでも、場合によっては「振り込め詐欺救済法」により救済される可能性もあります。詐欺だと気づいた場合、早急に問い合わせをしましょう。
佐藤さん夫婦のケースは、SNS詐欺が決して他人事ではないことを物語っています。SNSは便利なツールである一方、リスクも伴うことを理解し、慎重に利用する必要があります。また、家族間でのコミュニケーションも重要です。定期的にお金の使い道や資金計画を話し合い、互いに相談できる関係を築くことが、詐欺被害を防ぐ最善策です。
<参照>
- 総務省|報道資料|「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の公表
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000122.html
- SNS型投資詐欺 | 最新の詐欺 | 警察庁・SOS47特殊詐欺対策ページ
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/investment/
内田 優帆 ファイナンシャル・プランナー/QOLアドバイザー
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