住宅ローン残債1,000万円の59歳・定年直前サラリーマン、退職金1,800万円で〈繰上返済〉を検討中だが…FPが「絶対にやめたほうがいい」というワケ【お悩み相談】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月4日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
定年退職時は“まとまったお金”が手に入るタイミングです。住宅ローンを組んでいる場合、退職金を使って「繰上返済」を検討している人も多いでしょう。しかし、YouTubeチャンネル登録者数10万人以上、元俳優という異色の経歴を持つ井上ヨウスケFPは「退職金を使った繰上げ返済はおすすめできない」といいます。いったいなぜなのでしょうか、詳しくみていきます。※相談者の情報はプライバシー保護のため一部変更しています。
住宅ローンの残債約1,000万円…「退職金」で繰上返済してもいい?
【本日の相談者】
Aさん59歳(男性)
収入:月収45万円、ボーナス90万円(年2回)
貯蓄:預金700万円、投資信託120万円(NISA)
支出:35万円
家族:妻(専業主婦)、長男(30歳)長女(25歳)
備考:神奈県の持ち家で、妻と長女と3人で暮らしている。長男は都内でひとり暮らし。隣県に両親(80代)が住んでおり、父親が足を悪くしているため現在母親が介護中。
4人家族の大黒柱、59歳Aさんの悩み
Aさん「来年受け取る予定の退職金(1,800万円)の使い道に悩んでいます。我が家は住宅ローンがあと1,000万円ほど残っており、退職金での繰上返済を検討しています。
ただ、両親の介護や長女の結婚資金、また自分たちの老後資金としてある程度キャッシュを手元に残しておきたいという思いもあり、ほんとうに繰上返済をしたほうがいいのか、それともまとまった現金を持っていたほうがいいのか悩んでいます。
退職金の使い道と、60歳で定年を迎えたあとの生活についてアドバイスが欲しいです」
FPの回答…退職金は上手に使わなければ「老後破綻」の可能性
今回紹介するのは、住宅ローンを退職金で繰上返済しようか悩んでいる、という相談です。
日本経済団体連合会の『2021年9月度退職金・年金に関する実態調査』によれば、大卒で勤続年数38年の人の場合、退職金額は平均2,243.3万円となっています。相談者の退職金額は1,800万円と、平均値よりはやや低いとはいえ、決して少ない金額ではありません。
しかし、その少なくない退職金も上手に使わなければ「老後破綻」につながりかねません。上手な活用方法という点から考えると、Aさんが検討している「退職金を使った繰上返済」はおすすめできません。
残債1,000万円を繰上返済…具体的な効果は?
なぜおすすめしないのか? というと、借入れの後半での繰上返済はあまりメリットが大きくないからです。
繰上返済を検討する際は、住宅ローンの仕組みを理解しておくことが重要です。
基本的に、住宅ローンの繰上返済は「ローンを組んだ時期に近いほど有利」であり、遠くなればなるほど(完済間近になればなるほど)メリットが減っていきます。
住宅ローンは、一般的に「元利均等返済」という返済方法になっています。金利が変わらない限り「毎月の返済額が一定」で「返済開始から完済まで、月々の支払額が変わらない」ことが特徴です。
元利均等返済の場合、返済期間の経過にともなって返済額の利息分と元金分の割合が変化します。返済当初は利息分の割合が大きく、しだいに元金分の割合が増加します。
たとえば、35年ローンで月々の返済額が10万円だったとしましょう。先述のように、ひと月目と完済月で返済額は変わらず、10万円のままです。ただし、ひと月目は「元本:8万4,000円、利息:1万6,000円」の割合だったものが、完済月はそのほとんどが元本の返済となり、利息分はわずか数百円に変化します。
そのため、ローンの後半で繰上返済をしても、支払う利息を軽減する効果は大きくないのです。
仮に、3,850万円の物件について、0.5%の金利で35年ローンを組んでいる人がいたとします。金利が変動しないと仮定した場合、この人が支払う利息の総額は約347万円です。
そして、今回のAさんと同じように、残債が1,000万円ほどとなったタイミングで繰上返済をしたとしましょう。この場合、いったい、いくらの利息軽減効果があると思いますか?
……答えは、約22万円です。
約1,000万円の資金を使って返済しても、22万円ほどしか利息軽減効果を生み出すことができません。1,000万円に対して22万円というと、約2%です。
たとえば、同じ「1,000万円」の資金があった場合、繰上返済で1度に手放してしまう(2%の恩恵を1度だけ享受する)よりも、資産運用などの方法で時間をかけてお金を育てたほうが有利といえます。
もし、1,000万円を2%で10年間運用できれば、単純計算ですが、1,219万円となり、22万円よりも大きな効果を得ることができます。
つまり、当然投資にはリスクがありますが、1,800万円という大きな資金を活用する方法として、「繰上返済」は少しもったいない選択だということです。
2%の運用利回りであれば、株式の比率を抑えて、債券中心のバランスファンドなどでも達成できます。Aさんはすでに新NISAを活用されているようですので、「繰上返済」よりはこうした「資産運用」を選択肢に入れるのもひとつの手です。
インフレ時代、ローンは急いで返済しないほうがいい
また、コロナ禍以降の日本は物価が上がり、インフレの時代に突入しています。このような場合、ローンは急いで返済しないほうが有利です。
仮に、2%の物価上昇が続き、Aさんの月々の支出35万円のうち10万円がローン返済だとしましょう。
住宅ローンが固定金利の場合、返済額は変わらないわけですから、物価上昇で増えていくのは、残りの25万円となります。
2%の物価上昇が10年続くと、生活費は35万円から約40.5万円となりますが、内訳はローン以外の生活費が約30.5万円(+5.5万円増)と住宅ローン10万円(変化なし)となり、生活費全体に占めるローン返済の割合は年々低下します。
では、変動金利だった場合はどうでしょうか? これも同様に考えることができます。
支出35万円のうち10万円がローン返済で、住宅ローンが毎年0.5%ずつ増えるとしましょう。
2%の物価上昇が10年続くと、生活費は35万円から約41万円となります。内訳は、ローン以外の生活費約30.5万円(5.5万円増)と、住宅ローン約10.5万円(5,000円増)です。
このように、固定金利であっても変動金利であっても、インフレ下において物価上昇率より低い借り入れは有利に働くため、なおのこと「繰上返済」はおすすめしません。
気持ちはわかるが…「長期目線」で冷静な判断を
「住宅ローンを早く返してしまいたい」という気持ちはわかりますが、繰上返済はタイミングによって損してしまう可能性があるため注意が必要です。今回紹介した資産運用など、そのほかの活用方法もあわせて検討することをおすすめします。
退職金はまとまった資金が手に入るタイミングですが、金融機関に勧められるがまま金融商品を購入したら損をした……など、退職金にまつわるトラブルは絶えません。
老後の生活を支える大切な資金ですから、上手に活用することが大切です。
井上ヨウスケ ファイナンシャルプランナー
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