年金月9万円、銀行嫌いの80歳母が身を削って貯めた「巨額のタンス預金」…遺品整理中の53歳息子「非常用リュックの中身」に仰天【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月27日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「タンス預金、うちの実家も……」思い当たる人も多いのではないでしょうか。現金主義の高齢親世代にとって、タンス預金は長年の習慣かもしれません。しかし、時代は変わりより安全で効率的な資産管理の方法が数多く存在します。親御さんの大切な資産を守るためにも、年末年始に一度、一緒に話し合ってみてはいかがでしょうか。本記事では、伊藤さん(仮名)の事例とともにタンス預金のリスクについて、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
故郷で一人暮らしをする母
伊藤隆さん(仮名)は、現在53歳。実家から離れた地域で妻の洋子さん(仮名)と大学生になる子ども2人の4人で暮らしていました。
8年前に父親が他界したことで、母親は故郷で一人暮らしとなりました。両親はもともと小さな商店を営んでいましたが、それまで貯めた貯蓄もあったことで、父親が年金を受け取れるようになったタイミングで店を閉めたそうです。
父親は商店を始める前に、少しのあいだ会社員として働いていたこともあり、母親が受け取っている年金は、月に基礎年金が6万円、遺族厚生年金が3万円。母親は以前から質素な生活を送っていたため、隆さんには「9万円も年金がもらえれば生活できる」といっていたそうです。隆さんは母親の言葉を信じ、「母親には父親の遺産も相続されている分があるから、不足分は取り崩しながら生活をしているのだろう」と思っていました。
母親も他界、実家の遺品整理を行っていると…
しかし今回、母親が80歳にして他界し、葬儀や49日の法要も終わり、遺品整理をしていたところ、防災リュックを見つけました。非常食の賞味期限を確認しようとファスナーを開けたところ、中身がパンパンに詰まった色付きの防水パックが出てきました。中身を確認すると大量の現金が入っていたため、隆さんは仰天しました。一緒に来た妻とともに手分けして数えてみると、なんと2,000万円以上ありました。
今度は残された通帳を確認してみると、年金が振り込まれるとすぐに引き出していたようです。長い時間をかけてコツコツと蓄えていたのでしょう。
隆さんが帰省したときのことを振り返ってみると、母親は過度な節約をしている節を感じることも多々ありました。「そんなに切り詰めて生活しなくてもいいじゃないか」とアドバイスをしたことも。しかし母親は「これくらいがちょうどいいのよ」と頑なな様子だったのです。「母親が必要以上に生活を切り詰めていたのはこのためだったのか」と隆さんは納得しました。災害のときにも忘れず持ち出せて、耐火性のリュックに防水パックとは、母親らしい用心深さだなと感心するとともに、母親の胸中を察します。
思い起こせば、母親は商店を営んでいるときから銀行に対して、あまりいい思いをしていなかったようで、貯金をするよりも現金を持っているほうが安心に感じていたのかもしれません。
どんどんと減っていくお金の価値
伊藤さんの母親は、年金を受け取るようになっても、なにかあったときのためにと、高齢になっても普段から節約しながら生活を送っていたようでした。
1970年以降、日本は高度成長期で、働いていれば収入が増えるという時代がありました。この時代を築いた人たちが、65歳を超えて年金生活を送るようになっていますが、インフレーション(インフレ)やデフレーション(デフレ)ということに関しては意識していない人も見受けられます。
総務省の消費者物価指数でみると、1970年から2000年までの30年間では、インフレ率が315%となっています。これは物価が3倍以上になっているという見方もできますが、貨幣価値が3分の1以下になったともいえます。同じものを買おうとしても、30年後ではお金を3倍以上払わなくてはいけないのです。
1991年以降はバブル崩壊ということもあり、貨幣価値が上がるデフレが起こりました。 しかし1994年から2024年の30年間では、およそ113%のインフレが起こっています。失われた30年といわれるなかで、わずかながらもインフレは起こっていることがわかります。
伊藤さんの母親も、インフレについては意識することなく、現金を貯めれば資産を守ることになると思い込んでいたようです。ただ、2020年の新型コロナウィルスの感染の広がりで、経済が疲弊したことによる経済支援や金融緩和から、世の中に出回るお金の量が増えたことで、世界的なインフレが起こっています。日本でも、インフレによるコスト高やエネルギー資源の高騰により、値上げラッシュが続いています。
タンス預金が遺されると…
また、タンス預金で考えなくてはいけないのが、相続に関する問題です。相続税は、3,000万円と相続人の人数×600万円まで課税されることがありません。
今回のケースでは父親の相続のときには、母親と隆さんの2人が相続人だったので、
3,000万円+600万円×2人=4,200万円まで非課税となりました。不動産と現預金を合わせても、課税対象にはならなかったようです。
一方、今回の母親の相続では、
3,000万円+600万円×1人=3,600万円となります。今回も相続税の課税まではならなかったようですが、そのほかの財産があった場合には、課税されることも考えておかなくてはいけません。
子「実家より、現金を相続したい」
いまだに低金利でも預金口座にお金を預けている人もいますが、現金を手元で保管しているという人も少なくないようです。前項でも説明したように、お金の価値は目減りしていくことが考えられます。額面だけみれば、マイナスになっていないと感じてしまいますが、実質の貨幣価値をみると、インフレによる目減りが考えられます。
今回のケースでは、相続が発生したときに相続税が発生していませんが、現金で持っていることで、ほかの財産と合わせると基礎控除を上回る可能性もあります。こうしたお金を保険にしておくことで、被相続人の人数×500万円がみなし相続財産とされ、非課税に加算されることになり、非課税の枠が増えることになります。
今回、伊藤さんは単独相続だったことで、争族になることはありませんでした。もし相続人が複数いる場合には、不動産と現金などを分割する際に揉めるケースも多く、特に相続税が課税されないケースで増えているようです。
令和4年度に遺産分割で裁判所に持ち込まれた件数は1万2,982件あり、容認・調停成立となったのは約半数の6,858件です。成立となった相続財産の価額を見ると、5,000万円以下が76%と4分の1以上を占めています。
もう誰も住まない実家の不動産を相続するより、現金を相続したいと思う人が多いようです。しかし、相続税が課税されないからと相続対策をしていないと「相続」が「争族」へとなってしまう可能性についても考えておく必要があります。伊藤さんは相続した財産の使い道に関して、
・子どもの教育費に一部を活用
・iDeCoを利用して老後資金の準備に充当
・万が一の際に子どもへ渡すお金として子ども2人を受取人にした生命保険に加入
などを行うことにしました。母の遺したお金を有効に使いたいと考えているようです。
〈参考〉
総務省「消費者物価指数(CPI)結果」2020年基準長期時系列データ https://www.stat.go.jp/data/cpi/1.html
裁判所「令和4年度 司法統計年報 3 家事編」遺産分割事件数 https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/659/012659.pdf
吉野 裕一
FP事務所MoneySmith
代表
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