「俺を誰だと思ってるんだ!」…年金月33万円・退職金2,000万円で平穏な老後を送るはずが、スーパーを荒らす〈カスハラ老人〉へと変貌。67歳・元経理部長の老後崩壊の発端となった「年金機構からの通知」【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月25日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
スーパーや飲食店で時々見かける、客が大声で店員を怒鳴りつける「カスハラ」の光景。大石ミツルさん(仮名・67歳)もかつては経理部長としてバリバリ働いていましたが、スーパーで悪態をつく「カスハラ老害」に変貌してしまいます。その背景にはなにがあったのでしょうか。FPの山﨑裕佳子氏が、事例をもとにミツルさんの家計改善策について解説します。
65歳の定年まで“順風満帆”な人生を歩んでいた元経理部長
大石ミツルさん(仮名・67歳)は現役時代、大手金属メーカーの経理部長として働いていました。同じ会社に42年間勤め上げ、65歳で定年退職。勤務最終日の挨拶を終え、部下から盛大に見送られたときには、その感慨深さに思わず目頭が熱くなりました。
これまでの人生は、“順風満帆”だったといっていいでしょう。難関国立大学を卒業し、同世代と比較して収入も高く、社内の出世コースに乗るのも早かったそうです。
一方で、いわゆる“外面がいい”タイプのミツルさんは、家庭では相当な亭主関白でした。家事や育児はすべて、専業主婦の妻イクコさん(仮名・65歳)が担当。夫婦には子どもが2人いますが、ミツルさんが学校行事に参加したのは数えるほどしかありませんでした。
子どもの世話よりも、接待のためのゴルフ場通いを優先してきたミツルさん。それでも、「生活費も教育費も住宅ローンも、俺が全部自分の稼ぎで賄ってきた。俺が家族に迷惑をかけたことはない」と、自身の生き方に誇りを持っていました。
イクコさんは、若いころはこうした夫の態度に反発することもありましたが、いつまでも変わらないミツルさんに、いつしか意見することもなくなっていました。
ある日、妻から突然突きつけられた「三行半」
定年後も、変わらずかつての同僚らと出かけるなど、自由な日々を過ごしていたミツルさんでしたが、数ヵ月もすると、時間を持て余すようになります。
昼下がり、リビングでイクコさんが用意したお茶を飲みながら、ミツルさんはいいました。
「なあ、退職金でどこか旅行にでも行くか? ヨーロッパなんかどうだ?」イクコさんの顔が一瞬こわばりますが、ミツルさんは気がつきません。「それとも、国内のほうがいいか?」
すると、イクコさんは質問には答えず、意を決したようにタンスの引き出しから書類を取り出すと、ミツルさんに差し出しました。
「離婚してください。お願いします」。
“勝手にしろ、困るのはお前だぞ”…妻を突き放し、自宅を出ることに
妻の思いがけないひと言に、ミツルさんは固まることしかできません。「なんだ、どうした急に」。「もう、何年も前から決めていました。機会をうかがっていたんです」。
いつもの調子が出ずオドオドした様子のミツルさんとは裏腹に、イクコさんは毅然とした態度で続けます。
「たしかに、金銭的にはなに不自由ない生活をさせてもらいました。そのことには感謝しています。でも、ただそれだけでした。気難しいあなたの顔色をうかがいながらの暮らしは、もう疲れました。あなたから解放されたいです」。
子どものことで相談したいときも、更年期症状で苦しかったときも、まるであてにならなかった夫。イクコさんは、とっくに愛想をつかしていたのです。「時が来たら絶対に離婚して自由になろう」……それが、ここ数年の生きるモチベーションになっていました。
ようやくこれから“妻孝行”しようと思っていた矢先、妻から三行半を突きつけられたミツルさん。プライドがへし折られたように感じ、離婚に応じながらもこう吐き捨てました。「勝手にしろ、困るのはお前だぞ」。
大石家はもともと高収入世帯でしたが、会食やゴルフ、車などにかける支出も多かったため、資産はそれほど多くありません。そのため、退職金2,000万円と預金1,000万円と持ち家が財産分与の対象でした。ミツルさんの老齢年金は月26万円ほどあります。イクコさんは専業主婦期間が長かったため月7万円です。ミツルさんは最後の“恩情”のつもりで、自宅はイクコさんが住み続けられるようにしました。また、退職金の半分である1,000万円をイクコさんに渡すことに合意し、離婚が成立しました。
ある日、自宅に届いていた、日本年金機構からの「一通の封書」
自宅を元妻に明け渡したミツルさんは、近隣の賃貸マンションに移ることにしました。一人暮らしにはやや広めの2LDKで、家賃は14万円です。敷金、礼金、家具や家電の購入、引っ越し費用などの新生活の準備のため、預金を150万円取り崩しました。
財産分与したとはいえ、ミツルさんにはまだ月26万円の年金に加え約2,000万円の預金があります。ミツルさんには心の余裕がありました。
しかし、だんだんとその“余裕”がなくなっていきます。離婚から半年ほど経ったころ、日本年金機構から一通の封書が届きました。早速開封してみると、「標準報酬改定通知書」と書いてあります。
実は、元妻のイクコさんが年金の「3号分割」の申立てを行っていたようです。
年金の「3号分割」とは?
3号分割とは、離婚した夫婦の一方が国民年金の「第3号被保険者」である場合に、相手の合意なしに「年金の分割」を請求できる制度です。2008年4月1日以後の婚姻期間が対象となっており、分割割合は厚生年金の報酬比例部分の1/2です。なお、基礎年金部分は分割の対象外となります。
分割を請求できる期間は、離婚した翌日から2年以内です。また、分割された年金は自身の年金記録として扱われます。仮に再婚しても年金額は変動しません。
3号分割は合意が不要ですが、このほか、双方の合意が必要な年金分割の方法として「合意分割」があります。3号分割と合意分割の要件、およびそれぞれの違いは下記のとおりです。
大石夫婦の場合、対象となる婚姻期間は15年間です。イクコさんの3号分割の請求により、ミツルさんの厚生年金記録が再計算され、月額2.5万円がミツルさんからイクコさんの年金記録へ移ることに。その結果、ミツルさんの年金は月26万円から23.5万円に減額になってしまいました。
家庭も失い、収入も減り、「特売コーナー」に通い詰める日々に
ミツルさんは金銭感覚にルーズで、予算を立てて支出を管理する習慣もありません。毎月なにをいくら使っているのか、ほとんど把握していませんでした。そうしたなか、月2.5万円とはいえ、月々の収入が減ったことに、ミツルさんは不安を感じます。
また、もともと退職したら妻や友人と旅行やゴルフを楽しもうと計画を立てていたミツルさんですが、妻はもういませんし、友人にも断られるようになりました。「こないだ行ったばかりじゃないか」「体力的にキツくて」「家族と海外旅行に行ってるから」……。
自分では人望があると思っていたものの、それは現役時代の話。かつての取引先を誘うわけにもいかず、社会的地位を失った今、話をする相手にも事欠くようになりました。
そんななか、唯一、新しくできた話し相手は、行きつけのスーパーの店員でした。
食事の準備もこれまでは妻に任せきりだったので、自炊をする習慣もありません。そのため、ミツルさんは時間を合わせて、近くのスーパーの特売コーナーに出向き、弁当や惣菜、酒を買い込むようになりました。同じ店員と毎日顔を合わせることから、その日の天気やニュースなど、次第に軽い世間話を投げかけるようになります。店員は「接客の一環」としてにこやかに対応していたのですが、なにを勘違いしたのか、ミツルさんはだんだんと自分を“特別なお客様”だと思い込んでしまったようです。
特売となる時間帯は店内も忙しく、なかなかミツルさんの話し相手になってくれる状態ではありません。すると、自分を尊重してくれないとミツルさんは思わず声を荒らげます。「オイ! 客がここにいるのになにをしている! 俺を誰だと思ってるんだ!」。
ミツルさんのせいか、やがてその店員は姿を見せなくなりました。スーパー側からは、いわゆる“カスハラ客”として要注意人物扱いとなり、最終的に店長から、「出入り禁止」を言い渡されてしまいました。
窮地に追い込まれたミツルさんは、「FP」への相談を決意
お金もなくなり、妻も友人も話し相手もいなくなり、孤立無援となったミツルさん。誰かに相談したいと考えましたが、お金の悩みを相談できる知人は周囲にいません。いろいろ調べたあげく、思い切ってFPに相談してみることにしました。
FPに相談した結果、「毎月0.5万円の赤字」であることが判明
「元妻からの申立てで、年金が減ってしまいました。腹立たしい気持ちもありますが、恥ずかしながら、毎月どれだけお金を使っているかわかっておらず……すいませんが、書き出してもらえませんでしょうか」。
勇気を出して相談すると、FPはこういいました。「わかりました。一緒に頑張りましょう。まずはなににいくら使っているのか把握するために、家計簿をつけてみましょうか。家計簿といっても、1日の終わりにその日のレシートを分けて、エクセルに転記するだけです。経理部長だったそうですから、お仕事に比べれば簡単ですよ」。それを聞いてミツルさんは俄然やる気が出てきました。
家計簿の起算日は年金支給日の15日とし、食費、日用品費、その他の3種類に分けて記載していきます。この方法を3ヵ月続けた結果、支出の内訳が見えてきました。
<ミツルさんの支出>
家賃:14万円
食費:5万円
水道光熱費・通信費:1.5万円
日用品費:0.5万円
税金・社会保険料:3万円
合計……24万円
23.5万円の年金収入に対して、支出額が24万円と、毎月0.5万円の赤字です。不足分は預金を取り崩し、自動的に補填していたようです。“自動的”というのは、預金口座と年金振り込み口座が同一であるために、支出が年金額を上回っていても、気がつきにくい環境にあったようです。
この結果を見て、FPはミツルさんに、家計改善策として次のように提案しました。
FP「今後、医療や介護にお金がかかることも考えられるため、預金はいざというときのために確保して、なるべく手をつけないことをおすすめします。そのためにも、「預金口座」と「年金振込口座」を区別して管理するといいでしょう。また、収入の範囲で生活することを心がけたいところです。
また、赤字家計からの脱出ポイントは、次の3つです」。
1.支出を減らす(主に固定費の見直し)
2.手持ち資金を働かせる(資産運用)
3.働いて収入を増やす
ミツルさんが見直すべき固定費の大部分は家賃です。FPは引っ越しを検討するよう勧めましたが、ミツルさん自身は現在の住まいを気に入っているため、できれば避けたいと考えています。
また、ミツルさんにこれまで投資の経験はなく、「よくわからないまま投資をして老後資産の目減りが加速してしまうようでは本末転倒だ」と、いったん保留することにしました。
そうなると、残る選択肢は、「働いて収入を増やす」ことです。高齢者の就業率は年々上昇しており、内閣府の「令和6年版高齢者白書」によると、令和5年時点での65歳~69歳の就業状況は、男性では6割を超えていることがわかっています。
仮に、東京都の最低賃金で試算すると、「1日5時間・週に2~3日」働けば、月5万円以上の収入を得ることができます。年金にプラスして5万円の収入があれば、これまでどおりの生活が維持できるでしょう。
「亭主関白」「カスハラ老害」から一転、第2の人生を歩み始めたミツルさん
幸いにして、ミツルさんはいまのところいたって健康です。そこで、節約生活よりも、新たな勤務先を見つけて収入を増やす選択をとることにしました。
「いやあ、正直寂しかったんで、新たな職場と聞くと気分が上がりますね。ゴルフ仲間も見つかるかもしれない」。テンションが上がるミツルさんに、FPは優しく釘を刺しました。
FP「ただ、新しい職場では過去の肩書きも栄光も通用しませんよ。そのことを肝に銘じて、地道にお仕事探しされることをおすすめします」。
「でも、人生これからですよ。頑張ってください」。FPに励まされ、ミツルさんは心機一転、第2の人生を歩み始めました。
<参考・出典>
・日本年金機構「離婚時の厚生年金の分割(3号分割)」 (https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-03.html)
・内閣府「令和6年版高齢社会白書」 (https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s2s_01.pdf)
山﨑 裕佳子 FP事務所MIRAI 代表
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