税制改正大綱でも議論された富裕層への課税強化策、「貯蓄から投資へ」の政策課題を阻害しないか
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月25日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
令和7年(2025年)度税制改正大綱でも議論に上っていたように富裕層への課税強化の機運は年々増しています。法人税、所得税、消費税という税収の大きな税目を増税するとなると、経済社会に与える影響が大きなことから、無難な富裕層とタバコの増税がよく話題になります。今回は、富裕層の課税強化策を検討します。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。
どうやって富裕層へ課税強化するか
富裕層へ課税強化する場合、その対象を財産にするのか、あるいは所得にするのかで分かれます。
さらに区分しますと、財産そのものを対象とする財産税、財産から生じる所得を対象とする富裕税、所得であれば北欧で導入されている「二元的所得税」が検討されてきました。
この「二元的所得税」とは、所得を勤労所得と資本所得を二元的に区分し、前者には累進税率、後者には比例税率を課すものです。要するに、富裕層が優遇されているといわれる「金融・証券税制」の課税のあり方です。
過去に最高税率90%の財産税を実施
財産に対する課税には、固定資産税のようなものもありますが、財産税は第二次世界大戦後の昭和21年に、軍需補償額(軍需会社の損失補償)支払いのため、あるいは国家財政の再建等の目的から、1度だけ実施されました。
財産税は大戦後のインフレーションを終息させるため、預金封鎖、新円切替等の措置が整い、最高税率90%で実施されました。
富裕層の課税に係る報道等では、「財産税の導入」という意見がありますが、財産を対象にする難しさがこの税にはあります。したがって、預金封鎖、新円切替による保有現金の制限等が必要になります。結論として、軽々に財産税というのは問題発言ということになります。
富裕税はたいした税収にならない
富裕税は財産税が1度限りの課税であったのに対して、毎年、財産の増加分に課税するものです。日本ではシャウプ勧告により3年実施しましたが廃止されています。
また財産税は個人に対する課税ですが、富裕税は個人と法人の双方に適用が可能です。富裕税は所得がなくても、財産の価値が増加している者に課税することから、所得税の補完税という意味があります。シャウプ勧告は、所得税率の引き下げと同時に富裕税を導入することでその税収減を補うことを目的としました。
将来的に消費税率を引き上げる場合、同時に富裕税を課することで、国民が感じる不公平感を払拭するという政策的意味もあります。
しかし、実際に富裕税の税収は税率が低いこともあり、それほどの金額にはなりません。また課税技術上も評価の問題が伴い、難しい面があります。
所得課税の強化
平成15(2003)年6月、政府税制調査会は小泉純一郎首相からの指示により「少子・高齢社会における税制のあり方」の中期答申をまとめました。この答申にある「その他の課題」の項に「金融・証券税制」が記述されています。
この「金融・証券税制」の特徴として、金融資産性所得に対する課税に関しての政策要請として「貯蓄から投資へ」の具体策として、貯蓄優遇税制や株式等譲渡益課税の見直しが進められてきました。
政府税制調査会金融小委員会は、上述した「中期答申」をさらに具体化すべく、「金融所得課税の一体化についての基本的考え方」を平成16(2004)年6月に作成しました。
この小委員会答申以降、北欧で導入されている「二元的所得税」が検討されました。
以上の変遷がありましたが、金融所得課税一体化のための、「二元的所得税」の導入に関する検討は、成果を上げるに至りませんでした。確かに日本は、金融所得に源泉徴収課税を適用していることから、二元的と評価するむきもありますが、「二元的所得税」に完全に切り替えたわけではありません。
富裕層に対する課税強化として、「金融・証券税制」を改正する場合、25年にわたる政府の政策課題である「貯蓄から投資へ」が阻害されることになります。この辺りの政策のバランスは、税制というよりも、政治の問題ではないでしょうか。
矢内一好
国際課税研究所首席研究員
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