今年、日本株の上昇が「ほぼ確実」といえるこれだけの理由【経済の専門家が考察】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月1日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
株式会社武者リサーチの武者陵司氏によると、世界中の投資家は現在「日本株の動向」に熱い視線を注いでいるそうです。それは「日本の株価が今後さらに上昇していくことはほぼ確実である」からだそう。では、いったいなぜそこまで日本株の上昇期待が高まっているのか、詳しくみていきましょう。
超割安に好需給…日本株の魅力は?
日本株式も米国株に劣らない、魅力を備えている。それは魅力的なバリュエーションと好需給である。
国際分散投資における長期資産配分に際しては、資産価格サイクル(スーパー・バブルサイクル)が重要である。資産価格の上昇下落の循環は、各国毎に10~数10年の固有の周期が観測でき、投資家にとって幸運なことに、この資産価格サイクルは国によってまったく位相が異なっている。よってサイクルの高値にある国の資産を売って底値にある国の資産を買えば、長期的運用成果を大きく高めることができる。
主要国の資産価格サイクルを図示すると、中国赤信号、米国青から黄色への境目、日本青信号となる。中国は史上空前のバブルをサイクルのピークを過ぎたところにあり、不動産価格の底入れははるか先であろう。資産投資は抑制し、cash is Kingに徹するべきだ。
中国政府はバブル対策として10兆元の地方融資平台などの隠れ債務の肩代わりを発表したが、バブルの規模からすれば焼け石に水に過ぎない。
中国で求められる不良債権最終処理額は膨大なものである。①地方融資平台の債務残高66兆元(=1,300兆円)、②家計債務の累積額(2009~2022年)10兆ドル=70兆元、③中国国内の売れ残り新築物件の在庫は9,000万戸(単価2,000万円と見積もっても1,800兆円=90兆元)などから、ざっと見積もっただけでも60兆元、GDP比約6割の処理が必要である(ちなみに日本の場合地価はピークから8割下落して底入れした。この間発生した不良債権は100兆円、対GDP比20%の不良債権が処理された)。
米国では資産価格は概ねフェフバリューにあり、金利急騰が起きれば、直ちにバブル化する、黄色信号寸前の状態にある。リスクテイクには警戒心が望まれる場面である。
それらに対して日本は、バブル崩壊後の底入れからしばらく経った局面であるが、資産価格は割安水準にある。日本における投資リスクは日本株持たざるリスクであり、ほぼすべての投資主体は日本株を執拗に買い続けざるを得なくなる。
日本株の一段高が「ほぼ確実」といえるワケ
日本の株価は著しく割安なので、今後さらに上昇していくことはほぼ確実である。
株価の最もピュアで正確な物差しは国債利回りとの比較であるが、日本株式は現在株式益回り6%、国債利回り1%と国債に比して著しく大きなリターンを提供している。1990年の日本のバブル時の両者が株式益回り2%、長期金利8%であったことと比較すると、天と地の逆転が起こっていることが分かる。
1990年は株価が著しく割高(=正のバブル)であったのに対して、現状は著しく割安(=負のバブル)状態にある。
しかしながら、日本家計の資産配分は著しく非合理的で、年金・保険を除く金融資産の71%が利息ほぼゼロの預貯金に眠っている。他方、配当だけで2%、内部留保を含めれば6%のリターンがある株式と投資信託は27%のウェイトに過ぎない。
ちなみに米国は株・投信が77%、現預金は17%とまったく逆の構成になっており、米国家計は株高により大きな資産形成を続けている。
米国家計の純資産は、リーマンショック(GFC)直後の2009年の59兆ドルから2023年末には156兆ドルと、14年間で97兆ドル(対GDP比3.5倍)という巨額の資産形成を実現し、それが堅調な消費をもたらしている。
日本でも、岸田政権による個人株式投資の減税枠の拡大(NISA改革)がきっかけになり今後現預金から株投信へと、怒涛の資金シフトが起こり、株高を加速させるだろう。
現実味を帯びてきた“日本株を持たざるリスク”
すべての投資主体が日本株を持たざるリスクを真剣に考えざるを得なくなっている。
まず、最大の買い主体の外国人投資家であるが、外国人は昨年来世界主要市場で最も値上がりした日本株の比率を高めるどころかほぼすべてを売ってしまい、再度日本株がアンダーウェイトになっている。今後は再び買増す動きが強まると予想される。
消極的だった国内投資家は、大幅に日本株を買い増す必要に迫られている。個人投資家はNISA改革が始まり2024年1~6月で10.1兆円が買い付けられた。年間では20兆円、前年比4倍増のペースである。今のところ、この大半が海外投信だが、日本株へのシフトが起きるだろう。企業は、PBR1倍以下の是正を求める金融庁、東証の要求に押されて自社株買いに走っている、年間20兆円、前年比倍増ペースが続いている。
さらに、年金など機関投資家は、インフレ定着や金利上昇のもとで、これまで最大の投資項目であった「日本国債」の投資比率引下げを迫られており、株式シフトを余儀なくされている。
政府は株式投資で大成功をおさめたGPIFの運用方針を、国公共済(KKR)など公的年金運用の分野に広げていくことを公言し始めた。
このように、これまで鳴りを潜めていた日本株の国内投資家が、数十兆のペースで日本株を買う趨勢となっている。
植田ショック、石破ショック後の株価の急回復は、そうした投資家の買い出動が牽引した。国内投資家層に厚みが出てきたことにより、外国人の短期筋に翻弄されていた市場が安定性を高めていくだろう。
日本株上昇の「推進力」として期待される材料
1988年のKKRによるRJRナビスコ買収に象徴される米国の買収ブーム、は2000年のドットコムバブル形成に向かう株高を準備したが、今の日本に同様の動きが起きている。東証・金融庁によるPBR1倍以下の企業の是正要求、日経新聞私の履歴書へのKKR創業者ヘンリー・クラビス氏(30年前は米国でも野蛮人と言われていた)の登場など、日本の政策と企業社会のM&A受容姿勢への変化は驚くばかりである。
カナダ企業であるアリマンタシフォン・クシュタール(ACT)によるセブン&アイの買収提案は、資本の効率性をないがしろにし、低株価を放置してきた日本の株式市場に大きく活を入れるものになるだろう。日産・ホンダの経営統合も台湾メーカーの鴻海による日産買収意向が伏線となっている。
日本は米国が進む株式資本主義に急速にシフトしている。それは海外投資家の日本株買い、企業による自社株買いを通して、日本株のバリュエーション革命を推進するだろう。
2024年、日本株はなぜ停滞したのか?
何故2024年に日経平均株価は4万円寸前で足踏みしたのだろうか。第一は景気実態の低迷、第二は不適切な政策への懸念で上値を刈り取られた、の2つが決定的であろう。
2024年の失速、円安インフレの被害が家計に集中
株高により期待で始まった2024年は日本経済の失速で終わった。主因は物価上昇による実質賃金の減少により実質個人消費が2023年1~3月をピークに減少に転じたためである。2024年6月からの定額減税により補填されたもののその額は3兆円と実質消費減少6兆円の半分に過ぎず、消費水準の低迷からは抜け出せなかった。
図表5に見るように実質個人消費支出を振り返ると、過去10年間では、2014年3月の消費税増税(5→8%)直前の2014年1~3月の310兆円がピークで、その後一度もそれを上回っていない。直近の2024年7~9月は前年比小幅プラスに浮上したものの、依然として10年前のピークに比べ4%減の水準にある。
加えて、年初の型式認定不正による自動車減産や中国経済不振による輸出の低迷が、円安によるインバウンドの増加、設備投資の増加などのプラス要素を押し消した。日本の工業基盤が衰弱してしまって円安による生産回復に時間がかかっていること、インフレによる実質所得減のリカバリーに時間がかかっていること等から、円安のプラス効果発現までのタイムラグが長くなっためである。
日本株の上昇が期待できる“構造的”な要因
実質賃金上昇、投資と生産増の好循環、インバウンドで日本の潜在成長率高まる
しかし、2025年は繰り延べられていた円安によるJカーブ効果の発現が顕著になることは確実である。2025年も2年連続の5%賃上げが続き、実質賃金は2%を超えるプラスに浮上していくだろう。国民民主党の頑張りによる恒久減税の寄与も期待でき、実質消費は1~2%のプラスに浮上するだろう。
インバウンドの増加に加えてTSMC熊本工場の稼働など、設備投資増の生産力化も見込まれる。OECDの2025年経済見通しは、米国2.4%、ユーロ圏1.3%に対して日本1.5%と堅調な伸びを予想している。
日本の政策リスクは無視できる
2024年に株価の足かせとなった不適切な政策の発動懸念は、2025年は大きく薄らいでいくだろう。
2024年は7月に史上最高値を付けた後、「植田ショック」「石破ショック」という2つの政策ショックで、日本株式のボラテリティーが異常に高まった。植田日銀の前のめりの金融引き締め姿勢に驚き8月には3日で20%と言う大暴落が起きたが、その後の政策スタンスの修正で株価は元に戻った。
また、10月には金融財政引き締め政策を持論としてきた石破氏が自民党の総裁に決まったことで株価が急落した。しかし、すべての引き締めプランが棚上げされ、岸田氏の「新しい資本主義」の踏襲が打ち出されて、またまた株価は元に戻った。心配されている石破リスクも石破メリットに転換しそうな予感がある。健全財政と金融規律路線を主張していた石破氏は、君子豹変しその持論のほとんどすべてを反故にした。
円安のメリットは、インフレによる名目成長率の急伸や海外所得の増加となって、企業収益と税収増加をもたらしている。この企業利益と税収増加を家計に還流させるうえで、石破自民党の少数与党化は、恒久減税を主張する国民民主党に譲歩せざるを得ず、むしろプラスになっている。来年の参院選を睨めば、恒久減税の引き上げは、石破政権延命の決定打になるかもしれない。
国際政治を概観すると日本の優位性が一段と際立っている。中国やロシア、北朝鮮、イランなど専制国家に対する厳しいタンス、DEI(多様性、均等性、包括性)やPC(ポリティカル・コレクトネス)など、経済合理性を否定する心情の影響の小ささ、安倍・岸田政権から踏襲されているより透明で自由な金融を推進する「新しい資本主義」路線、等日本の政策のフレームワークは、グローバル投資家にとって極めて納得性のあるものである。
2025年は“日本産業ルネッサンス元年”に
2025年はTSMCの熊本工場の稼働が始まり、日本の産業拠点としての根源的強さが再評価される元年となるだろう。日本の産業基盤の素晴らしさに驚愕したTSMC創業者のモーリス・チャン氏に見られるように、日本の生産拠点としての圧倒的強さを思い知らせる事柄が、これから続出するだろう。
図表6はハーバード大学が作成している「世界の経済複雑性ランキング」(ECI)であるが、日本が一貫して世界のナンバーワンであることに、注目するべきである。このランキングは、世界各国の輸出データに基づき、(1)輸出品の複雑性と多様性、および(2)偏在性(独占度)を評価し、順位付けしたもの。複雑性が高いほど高付加価値産業を有し、産業の多様化が進み、世界市場での独占度が高いことを示している(カリフォルニア大学サンディエゴ校ウリケ・シェーデ教授著「シン・日本の経営~悲観バイアスを排す~」日経BPで紹介されている)。
スマートフォンを例にとると、スマートフォン完成品の組み立て以上に、材料や部品、製造機械の技術的ブラックボックス部分が大きい方がランクが高くなる。日本はスマホの生産シェアは低いが、スマホの最終完成品に至る必要技術を世界で一番多く備えていると言える。「あらゆる必要なものは全部日本で揃う」ということである。
また国際的ビジネスマンにとっては今さらではあるが、(突出した異能はいないが)日本の労働力の均質性、レベルの高さ、労働に対する誠実性が抜きんでていることは、OECDによる成人力調査によっても明らかにされた(図表7)。
ビジネス拠点としての日本の優位性は、同時に半導体工場の建設が進む米国やドイツなどとの比較において、際立っていくだろう。日本が先端産業の世界的製造拠点として復活することは明らかである。日本の産業ルネッサンスはすぐそこに来ている。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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