「定年退職後は失業手当をもらって、しばらくゆっくり。再就職はその後で…」では損をするかも?59歳会社員のお悩みを解決【税理士がアドバイス】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月21日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
60歳を過ぎてからも働くつもりだけど、退職後は少しだけ休んで、その後で再就職したいといった人もいるでしょう。本稿では金﨑定男氏とAIC税理士法人による著書『会社が教えてくれないサラリーマンの税金の基本』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋・再編集し、事例と共に詳しく解説します。
59歳(女性)、年収600万円、夫(65歳)と二人暮らし 夫は年金収入200万円
Iさんは、あと数か月で60歳になるため、大学卒業以来継続して勤務している現在の会社を定年退職することになっています。幸い、現在の取引先であるB社から「当社に来ないか」との声掛けがありましたが、月給30万円、ボーナスなしの条件になり、現在の収入よりも大幅に下がります。
いったん定年退職後、半年ほど失業手当をもらいながら、今後の進路について少し考える時間を持ったうえで、条件のよい勤務先がなければB社に就職しようと考えています。
また、Iさんは、いくらぐらい失業手当を受け取ることができるかにつき疑問を持っています。
※Iさんは2025年3月10日に60歳の誕生日を迎えるものとします。
Iさんへのアドバイス(1)失業手当
まず、Iさんが失業手当をいくらぐらいもらえるか確認してみましょう。失業手当は、離職時の年齢、給与、離職前の雇用保険への加入期間(被保険者期間)、退職理由などにより、もらえる日数や金額が変わってきます。
Iさんの場合には、離職直前の年収が600万円、勤続20年以上ですので、失業手当は月額約20万円受給できて、最大5か月間(150日間)もらえます。
Iさんが、最大限失業手当をもらえるとするとその金額は、20万円×5=約100万円となります。なお、失業手当には所得税・住民税はかかりません。
Iさんへのアドバイス(2)高年齢雇用継続給付
社会全体として定年の年齢が引き上がってきており、60歳を超えても働く人の割合は増加傾向にあります。一方、60歳を定年として定めている会社は、再雇用制度を導入し、いったん退職扱いとして、その後1年契約で勤務するといった形態をとっている場合、60歳以降で給与が大幅に下がることもあります。
このような方々を国としてサポートするための制度が高年齢雇用継続給付の制度です。この制度は大企業の方は結構活用されていますが、中小企業の場合には、会社の人事部ですら知らなかったということがあり、本来申請すれば受給できる給付金を受給していなかったといったケースも結構存在します。
条件にもよりますが、金額的に結構高額の給付額になることもあるため、60歳以降に給与が減額になった方々は、要チェックです。高年齢雇用継続給付には、①高年齢雇用継続基本給付金と②高年齢再就職給付金の2つの制度があります。
いずれの給付金を受給する場合にも、雇用保険の被保険者期間が継続して5年以上あることが必要です。以下、それぞれにつき見ていきます。
①高年齢雇用継続基本給付金
この給付金は、60歳になる直前の給与水準と比較して、4分の1(25%)以上給与が下がった場合に支給される給付金です。
どの程度給与が下がったかにより、給付金の計算は複雑な計算式になっています。給与の下落率が39%を上回る場合には、現状の月額給与額に約15%を乗じた金額が給付金として支給されることになります。
Iさんのケースについて、もしIさんに高年齢雇用継続基本給付金が支給される場合には、60歳以降の給与は、従来の月額50万円から月額30万円に下がります。これは40%の下落率になりますので、30万円×15%=4万5,000円の給付金を受けることができます。この給付金は65歳になるまで受けることができるため最大60か月受給できます。
よってIさんがこの給付金の適用を受けることができる最大金額は、4万5,000円×60か月=270万円となります。
ここで一つ注意点があります。高年齢雇用継続基本給付金は、60歳で退職した際に失業手当を1日分でももらった場合にはこの制度の適用はありません。したがって、Iさんがこの給付金を受給しようと予定されている場合には、失業手当はあきらめていただく必要があります。
失業手当をもらっていなければ、数か月後に次の転職先に雇用され、給与が大幅に減額になったときに高年齢雇用継続基本給付金を受給することができます。
②高年齢再就職給付金
この給付金は、いったん退職して失業手当を受けた者が、60歳以降に安定した職業に就いた場合に、60歳になる直前の給与水準と比較して、4分の1(25%)以上給与が下がった場合に支給される給付金です。
高年齢再就職給付金の支給要件は、高年齢雇用継続基本給付金と支給要件が似ていますが、高年齢再就職給付金は、失業手当を受け取っているという点で、高年齢雇用継続基本給付金とは異なります。
また、この給付独自の要件として、60歳を超えて安定した職業に就いた日において、失業手当(基本手当)の支給残日数が100日以上あることが必要です。これを、Iさんのケースについて当てはめてみると、失業手当の最大給付日数は150日(5か月分)となりますから、もしIさんが5か月分の失業手当を受給後に再就職した場合にはこの給付金の対象にはなりません。
仮に、1か月(30日)分の失業手当を受給後に再就職した場合には支給残日数が120日であり、100日を超えているため、高年齢再就職給付金を受給することができます。失業手当の支給残日数が100日以上200日未満の場合には、最大1年分の高年齢再就職給付金を受給することができます。
1か月当たりの高年齢再就職給付金の算定方法は、高年齢雇用継続基本給付金と同じですので、Iさんは月額4万5,000円を最大1年分受給することができ、その金額は4万5,000円×12=54万円となります。
なお参考情報として、再就職した時点での失業手当の支給残日数が200日以上の場合には、最大2年間、給付金が支給されます。Iさんは、現在、失業保険をもらいながら少しゆっくり考えて、適当な就職先が見つからない場合にはI社に就職しようとしています。結論から言えば、現状のIさんの考えは最適ではないかもしれません。その理由は次の通りです。
理由1
体力もまだまだあり若いつもりでも、60歳を過ぎると再就職にはそれなりのハードルがあります。したがって、のんびりしている間に年齢は増えていき、就職は年々難しくなっていきます。
したがって、B社から声がかかっている間に、早めにB社に入るというのも一つの考え方です。B社はこれまで勤めていた会社の取引先でもあり、Iさんの力量もわかったうえでお誘いが来ているのであり、就職後のミスマッチ、すなわち、会社側にとっても、Iさんにとっても、「こんなはずではなかった」といった状況が生じにくいと考えられます。
数か月のんびり考えている間に、B社のほうでも事情が変わり、就職が難しくなる可能性もありますので、声がかかったときがよいチャンスととらえるのも一つの考え方です。
理由2
給付金の金銭面から見てみましょう。
①最大限の失業給付を受けた場合
Iさんは、失業給付を受けた場合には、最大150日(5か月分)の失業給付を受けることができます。1か月約20万円の失業給付となるため、最大で約100万円を受け取ることができます。なお、失業給付は非課税であり、所得税・住民税はかかりません。また、当然のことですが、失業手当を受給している期間は、給与収入はゼロです。
②1か月失業給付を受けてB社に就職した場合
1か月の失業給付を受けたのちに、B社に就職した場合には120日分の失業手当が未支給の状態で残っているため、Iさんは、高年齢再就職給付金の受給権があると思われます。
また、60歳直前の給与と比較して、B社での給与の下落率は40%ですから、Iさんは月額30万円×15%=45,000円の高年齢再就職給付金を、最大1年間にわたり受け取ることができます。
1年分もらったと仮定すると54万円となります。よってこのケースでは、もらった給付金の合計は失業手当20万円と高年齢再就職給付金54万円の合計である74万円を受け取ることになります。
合計の給付金は74万円となり、①の場合の100万円よりも少なくなりますが、②の場合には①に比べて4か月早く働き始めますから、給与所得(月額30万円)も考慮すると30万円×4か月=120万円を稼いでいることになるため、トータル現金収入としては①よりも②のほうが多くなります。
なお、高年齢再就職給付金は非課税扱いであり、所得税・住民税等は課税されません。
③失業給付を受けずにB社に就職した場合
失業手当を申請せず、すぐにB社に就職した場合には、Iさんは、高年齢雇用継続基本給付金を受けることができます。この給付金は、月額4万5,000円の給付を通常の給与とは別に最大5年間にわたり受け取ることができます。
5年間60か月の給付金総額は、最大で4万5,000円×60か月=270万円となります。通常の給与に加えてこの金額が支給されるため、①、②のケースと比べても有利であることがわかります。
なお、仮にIさんが失業手当の申請をせずに単に2、3か月ゆっくり期間をおいて、B社に就職した場合であっても、受給開始のタイミングは遅れますが、高年齢雇用継続基本給付金は支給されます。
高年齢雇用継続基本給付金も非課税であり、所得税・住民税は課税されません。以上のことから、60歳を超えた方で、失業手当をとりあえず申請しようと考えていても、近い将来給与減額した状態で再就職できる見込みがあるときは、今回のIさんのように失業手当を申請しないほうが有利になることがあるため注意が必要です。
なお、2025年4月以降、雇用保険法の改正により、改正適用対象となる人の高年齢雇用継続給付の金額が縮小されます。
金﨑 定男
AIC株式会社・AIC税理士法人・AIC社会保険労務士法人
統括代表
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