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「東大の推薦入試」で最も求められる能力…アメリカの学生は秀でているが、日本は学生・保護者・先生もできない考え方【東大元総長×SAPIX代表の対談】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月26日 9時15分

「東大の推薦入試」で最も求められる能力…アメリカの学生は秀でているが、日本は学生・保護者・先生もできない考え方【東大元総長×SAPIX代表の対談】

東大が2016年度から導入した推薦入試。なぜ導入したのか? 2012年頃に集中的に議論された東大秋入学構想。なぜ実現しなかったのか? 対談では、当時の東大総長・濱田純一氏が、改革の意図、関係各所との調整、そして最終的な決断に至るまでのプロセスを明かす。※本記事は、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表・高宮敏郎氏の著書『「考える力」を育てるためにSAPIXが大切にしていること』(総合法令出版)より一部を抜粋・再編集したもの。

対談者:東京大学名誉教授・濱田純一氏

1950年生まれ。灘高等学校、東京大学法学部卒。同大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。専門分野はメディア法、情報法、情報政策など。1995年東京大学社会情報研究所所長、2000年東京大学大学院情報学環長・学際情報学府長、2005年理事(副学長)を経て、2009年4月から2015年3月まで東京大学総長(第29代)。

初の戦後生まれの東大総長として、秋入学をはじめ、さまざまな改革に取り組む。現在は放送文化基金の理事長、映画倫理機構の代表理事などを務める。主な著書に『東京大学知の森が動く』(東京大学出版会)、『東大はなぜ秋入学を目指したか』(朝日新聞出版)など。

入学試験に「推薦入試」を導入した東大

髙宮

まずはやはり、総長として濱田先生が陣頭指揮を執られた東京大学での教育改革/入試改革について、改めて詳しくお話をお聞きしたいと思っています。

当時、後期入試に合格して入学してくる学生の多くが前期試験で不合格になった人たちでした。そのことにある種の「わだかまり」のようなものを持っている学生が多かった、という話を聞いたことがあります。

予備校の目線で見ると、後期試験に出題される総合的な問題への対策は非常に難しいものがあります。相当な学力や実力がないと合格できない問題という点で、当時の東大の後期試験は非常に良い試験だと理解していました。

それがなぜ、現在の推薦入試という制度の導入へと至ったのか。一般入試との違いをどのように捉えていたのか。そのあたりからご教示いただけますでしょうか?

濱田

当時の認識としては、せっかく異なるタイプの出題で後期試験を実施しても、結局は前期試験と同様の学生が入ってくる。「同じ学生がもう1回受けているだけ」との評価も学内には少なくありませんでした。「多様な学生に入学してほしい」という後期試験のもともとの趣旨から外れるのではないかといった意見も踏まえつつ、検討を重ねた結果が現在の推薦入試という制度になります。

髙宮

残念ながら、当時話題となった秋入学は実施できなくなってしまいましたが、制度の発案者・当事者として、推薦入試をスタートしたこと、その現状について、今どのようにお考えでしょうか?

濱田

私は成功したと考えています。推薦入試では、成績だけでなく、国際科学オリンピックなどでの活躍や社会貢献活動などにも示される「考える力」を重視しました。「考える力」を持った学生が推薦入試によって多く集まっていると理解しています。

髙宮

基本的には、後期入試をスタートした当初と同じように、一般入試とは異なる人材を集めたいと考えていたのでしょうか?

濱田

最初は、一般入試を目指していた学生が推薦入試を受験してくれるのでいいと考えていました。大学としてはまず、これからどのような制度に成熟させていけばいいのかという方向性を、経験を積みながら見定めたかったのです。

他人にはない突出した能力を持つ学生を、推薦入試によって見つけやすくなると考えていました。最近は、最初から推薦入試を目指す学生が増えています。これは良い傾向だと受け止めています。

髙宮

最近では総合型選抜を採用する大学も増えてきており、新しい方式で学生を集めることについて、先生方も手探りの状態にあるというお話をよく耳にします。そうした点を重ね合わせると、東大が試行錯誤の月日を重ねて、学生はもちろん、先生方もじわじわと手ごたえを感じてきておられる。そのような状況をお聞きして安心いたしました。

※「AO入試」の新名称(2021年度入試以降)。大学が求める人物像(アドミッション・ポリシー)に合う生徒を、提出書類(エントリーシート)や面接、小論文、プレゼンテーションなどで選抜する入試方式。受験生の知識や技能、思考力、人間性などを多面的に評価する

入試改革実現までのプロセス

髙宮

先日、ある日本の研究者とお話しする機会があり、彼の親戚のお子さんがアメリカの大学へ進学したときの話が出ました。そのお子さんからは「こんな学校に行きたい」「社会に出たらこんなことをしたい」「大学ではこういうことも学びたい」と相談が寄せられ、その研究者も一生懸命それに応え、納得がいくまで話し合ったとのことでした。

自分の人生のゴールを設定する。「社会に出てこうなりたい」という将来像から逆算して学びのアプローチを定めていく。こうした考え方が今の日本にはまだまだ足りないとおっしゃっていて、非常に考えさせられるところがありました。

日本の場合は、「医者になりたいので医学部に進む」と目標が明確になっているケースももちろんありますが、「とりあえず東大に入ってから考えよう」といった学生もまだまだ多いと思われます。高校の先生方や保護者なども「将来のことはいいから、まずは勉強しなさい」と指導する場合が今も少なくありません。

無論、何でもアメリカの真似をするのがいい、と言っているのではありません。日本はアメリカで実践していることを導入する際に、そのまま取り入れようとする傾向が強いといえますが、それでうまくいくという簡単な話ではありません。

特に教育制度の改革というのは大きな困難を伴う仕事で、だからこそ推薦入試をスタートする際に、まずは100人を集めるという小さな枠の中で実施されました。それは非常に賢明な方法であったのではないかと感じています。

濱田

その点についていうと、後期試験の見直しという事情がなかったら、推薦入試をすぐに導入できたかどうか分からないというのが正直なところです。おそらく時間がかかったでしょう。

髙宮

今までペーパーテストだけで学生を集めていた東大が、そこに100人もの多様な人材を求めた推薦入試を導入されました。今までとは異なる個性を持った学生を入学させたかった。そのように理解していますが、間違いないでしょうか?

濱田

新しい制度を取り入れた背景には、「このまま一般入試だけを続けていて、本当によいのだろうか」という問題意識がありました。

先ほどもお話ししたように、後期入試を導入し入試問題の形を変えてはみましたが、同じようなタイプの学生が多く入ってきました。「何とかしたい」と思いながらも、なかなか方向が煮つまりませんでした。それが、後期試験の見直しが行われることになり、一気に議論が深まりました。この推薦入試は、中長期的に東大入試の在り方をより良いものにしていくための第一歩だと、個人的には考えています。

秋入学の導入を断念した理由

髙宮

2020年の夏に濱田先生とお会いした際には、「秋入学で何が最も高いハードルだったか」とお尋ねしました。これは秋入学の導入を断念した点を意識しての質問でしたが、そのとき濱田先生からは「国家資格の試験などの日程が変わらなければ、東大だけが入試制度や日程を変えることはできない」とのお答えだったと記憶しています。

今、改めて振り返られたとき、秋入学まで改革を進めなくて本当によかったのか、または、あのときもう一歩踏み込んで、秋入学まで進めるのも悪くなかったのではないか。この点についてはどのようにお考えですか?

濱田

東大だけが秋入学を導入する。それは私も考えていました。実際のところ、そうすることもできたとは思います。文部科学省も当初は、「いくつかの有力大学だけが秋入学を導入するというケースはあるかもしれない」という想定もしていたように感じます。にもかかわらず、実現できなかったのは、他大学や社会全般が大きく混乱するとの判断からでした。

髙宮

確かに、東大だけが秋入学ということになれば、高校の現場はもちろん、学習塾や予備校としても、授業の運営などの面で大きく混乱することになります。

濱田

10年先、さらに20年先を考えると、ここで変えなければ東大が伸びる力、国際競争力を損なってしまう。学生や社会に対する責任を果たせない。そのような恐れを深刻に感じていました。

それでも当面生じるであろう東大内部の混乱、他大学の混乱、さらには社会全体の混乱を考えると、思い切って進めるという決断はできませんでした。

高宮 敏郎 SAPIX YOZEMI GROUP共同代表

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