ウチの子は賢いに決まってる…世帯年収1,000万円・都内湾岸タワマン暮らしの40代夫婦「愛するわが子のため」が招いた大惨事【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月5日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
首都圏模試センターの調査によると、2024年の私立・国立受験者数は5万2,400名となっています。前年に比べて微減しているものの、受験者数は年々増加。少子化傾向にもかかわらず、中学受験は加熱する一方です。しかし、「親の過度な期待」は時として子どもに深刻な悪影響を与えてしまうケースも……とある家族の事例をみていきましょう。2人の子どもを私立中学に通わせる石川亜希子AFPが解説します。
「男尊女卑」のせいで地元から出られず…苦しい環境で育ったAさんの「転機」
専業主婦のAさん(44歳)は、夫のBさん(47歳)、ひとり娘のCちゃん(12歳)と、都内湾岸部にあるタワーマンションに暮らしています。Bさんの月の手取り額は約50万円で、ボーナスや手当などをあわせた年収は約1,000万円。自宅の住宅ローンを返済しながらも、適度にゆとりのある生活を送れている……はずでした。
Aさんは地方出身で、その土地は男尊女卑の傾向が強く残っていました。そのため、進学先も当然のように弟が優遇され、弟は東京の大学へ、Aさんは実家に近い大学へ通うことに。卒業後も、親の勧めで地元に就職しました。
「成績はわたしのほうが断然よかったのに。悔しい、ずるい」そう思いつつも、一生田舎で暮らすことになるのだと思っていました。
転機となったのは、社会人5年目のときです。勤務先に出向してきたBさんと懇意になったAさんは、そのまま結婚。3人家族となって間もなく、Bさんが東京の本社に戻ることになったのです。「東京に行ける! これで人生のリベンジができる!」Aさんは期待に胸を膨らませました。
Aさんにとって“人生のリベンジ”とは、娘を完璧に育てることでした。
「私が悔しい思いをした分、娘にはいい大学に入ってほしい」
そんな思いもあって、AさんはCちゃんにあらゆる手を尽くしました。
Cちゃんは、幼少時から利発な少女でした。ママ友に「Cちゃんは優秀で羨ましい」「さすがCちゃん」と言われるたびに「そんなことないわ」と謙遜しますが、心の中では「夫も高学歴だし、私が育てているのだから、ウチの子は賢いに決まってる」と思っていました。
小学校低学年になると、ピアノ、水泳、英語に加えて、大手受験塾や有名算数塾にも通わせました。遊ぶ隙間などなく、毎日パンパンにスケジュールが埋まっています。
「都内で1番の名門校に入れたい」Aさんだったが…娘に現れた“異変”
このころ、教育費はすでに月10万円近く、Bさんの手取りの1/5を占めていました。Bさんが「もう少し習い事にかけるお金を減らせないか」と持ちかけ、夫婦で話し合いになることもありましたが、Bさんには「育児を妻に任せきりにしている」という負い目があり、Aさんに反発されるとあまり強く言い返すことはできませんでした。
小学4年生までは、模試の成績も順調で、成績別に席が決まる塾内でも前方の席をキープできていたCちゃん。
「これはいける!」と思ったAさんは、ことあるごとに、都内で1番の名門校であるD中を勧めるようになります。「CにはD中が合ってると思うわ」
それを毎日聞かされるうち、Cちゃん自身も「D中に行きたい」と口にするようになりました。
しかし、小学5年生の夏あたりから、Cちゃんに変化が起こります。模試で思うような成績が取れなくなってきたのです。
小学5年生の夏は、「中学受験の天王山」と呼ばれるほど大事な時期です。
「ちゃんとやってるの?」「油断しているんじゃない?」「塾にいる子は友だちじゃない。ライバルなのよ」……Aさんは、思わずCちゃんを叱責する日が増えていきました。
「どうにかしなければ」と焦ったAさんは、Cちゃんの苦手科目を伸ばすために、さらに別の個別指導塾に行かせたいとBさんに相談しました。
「さすがにお金をかけすぎじゃないか……? 塾だけで月10万円以上になっちゃうよ」とBさんが言うと、「大丈夫。じゃあ他の習い事を整理するから」と、Cちゃんが楽しんで続けていたピアノを辞めさせることに。
「C、いいわよね。あなたのためなの。いまは我慢のしどころだからがんばりましょうね」
「うん……」
3種類の塾通いで、月の教育費は15万円に
メインで通っている週3回の塾に、算数塾、新たな個別塾と、平日は授業のあと、休む間もなく塾通い。月の教育費は約15万円となりました。家ではゲームも禁止され、ピアノを弾いていると「もう習っていないんだからムダでしょう」と言われます。
おとなしいCちゃんは素直に従いますが、内心どんな思いを抱えていたのでしょうか。
追い詰められた娘の“とある行動”で、Aさんの怒りはピークに
その後、Aさんの期待とは裏腹に、Cちゃんは成績が伸び悩んだまま、小学6年生になりました。
受験の日が刻々と近づき、Aさんのプレッシャーもピークに達していたある日のこと、Aさんが娘を塾まで迎えに行くと、同じクラスのママに、ためらいがちにこう話しかけられました。
「あの、Cちゃんママですよね? 本当に差し出がましいことをごめんなさい。Cちゃん、塾の小テストでカンニングしているみたいで……。Cちゃん絶対そんな子じゃないから、なにか悩みがあるのかもしれないと思って……」
「え?」
Aさんは、なにをいわれているのかすぐに理解することができませんでした。「そんなこと、うちの子がするわけないじゃない」こう返しながら、もしかして、うちの子に嫉妬しているのかしら? と思ったAさんでしたが、内心はざわざわした思いでいっぱいです。
車に乗ってすぐ、AさんはCちゃんに問い詰めました。「塾の小テストでカンニングしてるって聞いたんだけど。本当なの?」
Cちゃんが口ごもり狼狽する様子を見て、Aさんの疑念は確信に変わりました。
「なんでそんなことするの!? それじゃ意味ないってわかるでしょ!?」「そんなこと指摘されて、ママがどんなに恥ずかしい気持ちだったかわかる!?」
Aさんが声を荒げると、Cちゃんは涙を流し、「……だって、点数が悪いと怒るじゃん! あたしだって一生懸命やってるのに、怒鳴るじゃん! あたしもう、受験したくない!」
Cちゃんはそう叫ぶと、車を飛び出してしまいました。CちゃんがAさんに反抗したのは、これが初めてです。
いまの君は「教育虐待」だと思う
すぐに夫に連絡して2人で探し回ると、結局Cちゃんは、自宅から少し離れた大きな公園にいました。
Cちゃんが寝たあと、BさんはAさんに言いました。
「最近、少しおかしいよ。僕も止めなかったのは悪いけど、独断で習い事を増やして、Cを追い詰めすぎだと思う。小学生の教育費で月15万って、いくらなんでも異常だよ。いい中学に行ったって、それで人生が決まるわけじゃないし」
「恵まれた家庭で育ったあなたにはわからないでしょうね。希望の大学に行きたくても行けなかった私の気持ちなんて」
「それはつらかったと思うよ。でも、Cの人生は君の人生じゃない。Cが君の理想の学校に入ることより、Cが楽しく充実した6年間を過ごすことのほうが大事じゃないかな?」
「でも、がんばれば叶う状況なのに、がんばらないなんて……」
「だから、Cは十分がんばっているだろう!? カンニングなんて、Cがどれだけ追い詰められているかわからないのか!」
Bさんは珍しく声を荒げます。
「いまの君は、自分の理想をCに押しつけているだけだ。正直、教育虐待だと思う」
娘のためを思ったのに…「教育虐待」という言葉に、我に返るAさん
夫からの衝撃的な言葉を受け、ショックを受けたAさんは、「教育虐待」について詳しく調べてみることにしました。
すると、教育虐待とは、「子どもの心や身体が耐えられる限度を超えて教育を強制すること」とあります。
Aさんは身体的な暴力をふるっていたわけではありませんでしたが、教育虐待の一例としては下記のようなものが挙げられており、Aさんにとって身に覚えがあることばかりでした。
・成績について叱責する
・子どもの遊ぶ時間を奪い、習い事漬けにしている
・子どもの意思を尊重せず、志望校を勝手に決める
・「あなたのため」というフレーズを多用する
そして、「教育虐待の最大の原因は、親自身のコンプレックスにある」という記載を見つけ、ハッと我に返りました。
――数日後。AさんはCちゃんに、深く頭を下げました。
「叱りつけてばかりで、ごめんなさい。ママ、ママのできなかったことをCにやらせようとしていたみたい。つらかったら塾休んでいいし、中学受験……辞めてもいいよ」
すると、Cちゃんは言いました。
「……いいよ。カンニングはごめんなさい、もうしない。ここまで来たから、中学受験も頑張る。……だけどね、ママ、あたし本当は、D中じゃなくて行きたいところがあるの」
「子どもの気持ち」を優先に
「我が子にいい教育を与えたい」「将来の選択肢を増やしたい」中学受験を志す動機として、こうした理由がよく挙げられます。しかし、その気持ちが行き過ぎてエスカレートすると、今回のように「教育虐待」につながる可能性があります。
育児や教育に正解はありませんが、教育費については夫婦でしっかり話し合ったうえで、自分と子どもの境界が曖昧になっていないか、子どもの気持ちを尊重できているか、常に振り返っていたいですね。
石川 亜希子
AFP
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