「高級スーツを着てきちんとしてるけど、なんか感じ悪いよね」なんて言われてしまうことも?…ビジネスマンの常識として知っておきたい〈正しい身だしなみ〉のルール【元JAL国際線チーフパーサーが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月24日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
相手に「信頼できそう」と思ってもらうために、見た目を意識して整える人は多いでしょう。「身だしなみ」には目の前にいる相手を不快にさせないという礼儀が含まれていると話すのは、JAL国際線のチーフパーサーを務めた山本洋子氏です。今回は山本氏の著書『なぜあの人は初対面で信用されるのか 元JAL国際線チーフパーサーだけが知っている、人の心をつかむ極意』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、どのような印象が信頼に結びついていくのか、見てみましょう。
印象の良し悪しは相手が決める
「あの人、いつもブランドものの高級なスーツを着て、身なりはきちんとしてるんだけど、なんか感じ悪いよね」
皆さんの周りでこんな声を聞くことはありませんか?
「身だしなみを整える」ことは、ビジネスパーソンとして押さえておかなければいけないマナー。新入社員研修などでは、社会人としての基本的な身だしなみの整え方を叩き込まれますが、管理職であっても、社長であっても欠かすことのできない最低限の礼儀です。そこで、大きな勘違いが生じることがあります。
「身だしなみを整える」というと、高級なスーツを着なければいけない、最新のメイクをしなければいけない、バッグや靴など高価なものを身につけなければいけないなどと、外見を飾り立てることと思っている人が少なからずいらっしゃいます。たしかに、高級なものを身につけると、それなりにきちんと感を出すことができるのですが、身だしなみを整えるという観点からは、大きく外れています。
それは、相手を基準とした身だしなみではなく、自分本位になっているからです。ビジネスシーンにおいて、身だしなみを整えることとおしゃれは異なります。自分の好みの服装や持ち物で飾り立てるのは「おしゃれ」です。身だしなみというのは、相手に対して、礼を尽くした身のたしなみのことです。
ときと場合、状況によって、かつ相手の立場や目的によって、装いを整えることです。そこには、自分を主眼にするのではなく、常に目の前にいる相手が不快感や嫌悪感を抱かないということを前提にした基本があります。
例えば、お葬式に参列するときを考えてみてください。お葬式に派手な色のスーツを着ていくことはありません。普段は赤や黄色の華やかな色合いの洋服しか着ないような人でも、黒い服装で参列します。子どもであっても、黒い服装です。これは、亡くなられた方への弔いとご親族に対する礼儀であり、誰もが理解しているTPOをわきまえた身だしなみです。
これは、日常のビジネスシーンにおいても同様です。華美に飾り立てた服装や肌の露出が多い服装など、職場に相応しくない服装は、相手に違和感や不快感を与えるものです。クールビスが定着した昨今では、職場の服装もカジュアルになってきていますが、ノータイ、ノージャケットが許される職場の中で、「仕事感」を出す工夫も必要です。「行き過ぎた」クールビズは、仕事に対する姿勢も問われかねないからです。
いくら仕事ができたとしても、その場の雰囲気を乱し、周囲の人に不快感を与えているようでは、信頼を得ることはできません。「身だしなみを整える」ことは、当たり前にできているようで、実は自分でも気がつかないうちに乱れていくことも多いものです。それが、あなたの印象として相手に残ることになります。
オンラインが主流になり、画面の中だけで接することも多くなりましたが、そんな環境でも、仕事に相応しい最低限の装いは必要です。たかが身だしなみではなく、もはや「ビジネススキル」とも言えるでしょう。そして、それは決して難しいことではなく、簡単なことなのですが、意外と盲点になっていることが多いのです。
印象は自分で創り出すものです。しかし、その良し悪しを判断するのはあくまでも相手ということを肝に銘じなければいけません。
相手に与えるのは、好印象ではなく適正印象
信頼を得るためには、相手によい印象を持ってもらうことが一番です。しかし、実は好印象よりも大切なことがあります。それが、「適正印象」です。これは、私が勝手に名付けた造語ですが、その人の「人となり」がわかる印象のことを意味します。
私は25年間、航空会社で客室乗務員として勤務しておりました。客室乗務員の大きな役割として、サービス要員であることと保安要員であることの二つがあります。
サービス要員とは、皆さんがイメージする通り、機内でにこやかにお食事やお飲み物をサービスしたり、免税品を販売したりする役割です。一方で、保安要員とは、緊急事態や不測の事態が起こった場合、お客様の命と安全をお守りする役割です。普段は笑顔でお客様に接していますが、緊急事態が起こると笑顔を消し、ときに命令口調でお客様に指示を出すよう訓練されています。
2024年には、羽田空港で海上保安庁の小型機とJALの航空機との衝突事故が大きく報じられましたが、着陸寸前までにこやかにサービスをしていた乗務員が、事故発生時には冷静かつ適切にお客様を誘導し、全員を無事に脱出させました。恐らく、このときの客室乗務員は、厳しい顔つきだったことでしょう。
そんな二つの役割を持つ客室乗務員です。普段はニコニコしてサービスするのはよいのですが、緊急事態のときにもニコニコと笑顔で誘導されたとしたらどうでしょうか。「この乗務員、大丈夫か?」と思われてしまいます。一方で、普段のサービス時にニコリともせずお出迎えされ、無表情で食事を提供されたらどうでしょうか。きっと、「感じが悪い」と思われ、大きなクレームになることもあるでしょう。
極端な例かもしれませんが、お客様に安心、安全、快適な印象を与えるのは、乗務員として「適切」な振る舞いです。それが、「適正印象」になります。通常の機内サービスでは、お客様に快適におくつろぎいただけるよう優しく優雅な印象を与え、いざという緊急事態では、「この乗務員の指示に従えば大丈夫!」という安心感を持っていただくことが重要です。
つまり、「適正印象」というのは、その職業やその人個人、または役職に与えられた役割と印象が一致していることをさします。それが一致して初めて信頼されるということなのです。
客室乗務員の場合の「適正印象」とは、乱れのないきちんとした髪型に整えることであり、薄暗い機内で溌溂とした印象を与えるよう、少し濃いめの口紅としっかりめのメイクを施すことであり、非常時にはお客様に不安を抱かせることなく安心して身の安全を任せてもらうために、常に姿勢を正し、健康的な容姿を保つことです。
これは客室乗務員に限ったことではありません。どんな職業であっても、その役割や役職に応じた相応しい印象を与えることで、人は安心感を抱き、信頼を寄せるのです。
初対面で信頼を得るためには、相手に違和感を与えないこと。外見に留まらず、話し方や立ち居振る舞い、表情なども意識することが重要です。「話してみてわかる」のではなく、言葉を交わす前に相手に「適正印象」を植え付けることができれば、まずは信頼の第一歩をクリアしたことになるのです。
山本 洋子
株式会社CCI 代表取締役
人財育成コンサルタント・キャリアコンサルタント・元JAL国際線チーフパーサー・客室マネージャー
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