トー横界隈は助け合いの場?…起業の夢を抱く17歳高校生が新宿歌舞伎町に通うワケ【Z世代ネオホームレスの実態】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月7日 11時15分
「お金がない」「家がない」「頼れる人がいない」…そういった事情とは別の理由でホームレス状態になっている、いわば〝ネオホームレス〞とも呼べる存在の若者が増えているといいます。本記事では、元芸人でYouTube登録者数24万人超えの青柳貴哉氏の著書『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA/2023年4月発売)より一部抜粋し、著者が出会った起業の夢を抱えながら新宿歌舞伎町・トー横に通う少年についてご紹介します。
起業の夢を抱いてトー横に通う少年
ユイト君はその当時、通信制の高校に通う17歳。アパレル関連の仕事に興味があり、将来は起業したいという夢を持っている。そのために自分自身を積極的に発信していきたい、と打ち明けてくれた。
僕はモカさんの時と同じように、動画を公開する際には仮名を付けた上で顔にはボカシを入れるつもりだった。だが、彼は自分自身のプロモーションに繋げるため、本名での出演を希望した。ユイト君は見た目こそ派手だが、年齢のわりに落ち着いていて、言葉遣いも丁寧だった。
「目立ちたいから」というような短絡的な考えで本名での出演を望んでいるわけではないことは、僕にもすぐに伝わってきた。「アットホームチャンネル」への出演が彼のプロモーションになるかは分からなかったが、僕は顔にボカシを入れる一方で本名での出演を受け入れることにした(ここで
インタビューの最中、僕にはどうしても確かめたいことがあった。それはトー横キッズと呼ばれる彼らの家庭環境についてだ。
モカさんへの取材では、複雑な家族関係やパパ活で収入を得ることなど、彼女が体験してきた壮絶な日々を聴いたが、他の子はどうなのか。
先ほども触れたように、ユイト君はモカさんのことを僕のチャンネルの動画ですでに知っていた。それ以上の面識はないと話すユイト君だったが、モカさんと自分の間に少なからず共通する部分も感じている様子だった。
ユイト君は、両親が離婚していること、母親と祖父母といっしょに暮らしていること、などを打ち明け、さらに自分の身に降りかかった虐待についてもこう語った。
「めちゃめちゃ殴られてましたね。母親とかおばあちゃんから殴られたり蹴られたり」
ユイト君もまた、モカさんと同様に母親と祖母から殴る蹴るの虐待を受けていた。
そうした家庭環境のため、自分と似た境遇の子が集まるトー横に足を運ぶようになり、自宅にはほぼ帰らなくなったという。自宅の場所を聞くとそこは都内有数の一等地だった。
彼にはモカさんと違う点ももちろんあった。中学生の頃は不登校だったユイト君は、現在は通信制高校の週3回の授業をちゃんと受けているという。配達のアルバイトをしており、月に10万円前後の収入も得ている。自宅には居づらさを感じているものの、帰れないわけではなく、シャワーを浴びたり荷物を取りに帰ったりすることもある。
ユイト君の話を聴くと、生活に困窮している様子は感じられなかった。帰ろうと思えば帰れる実家があるのも、完全に家を失ったホームレスとは大きく異なっている。
だが、安心して過ごせる家がない、帰りたいと思える家がない、という点では彼もまたホームレス状態、もしくはホームレスになるかならないかの瀬戸際を漂っていた。
たまたま場所がトー横だっただけ?
僕はモカさんへの取材を通じて、トー横界隈について「精神的に追い詰められた人たちが、死に場所を探し回った挙げ句にたどり着く場所」という印象を持っていた。未来に希望を感じられず、この瞬間を刹那的に生きているような、そんなイメージだ。
しかし、目の前にいるユイト君には起業という将来の夢があり、その仲間をトー横で集めるという目的意識もあった。ここに来たら普段なら出会えないような人と知り合いになれて、コネや人脈ができる。
そういう意味では、サラリーマンが異業種交流会に参加して名刺交換することと、ユイト君がトー横界隈に通い続けることは、大きく違わないとも思える。
将来への建設的な考えをしっかり持っているユイト君を見ていると、「彼ならトー横でなくてもうまく生きていけるのではないか」という思いが僕の頭をよぎる。社会に出て、赤い髪を黒く染め、スーツとネクタイを身につけて名刺交換をしている、そんなユイト君の姿を想像するのは難しいことではなかった。
それに正直なところ、モカさんのような「ここにしか居場所がない」という切実な雰囲気をユイト君には感じなかった。アルバイトで稼いだお金でトー横に遊びに来ている高校生、という印象の方が強い。
家に一人でいるよりも友達といっしょに遊ぶ方が楽しい。トー横に行けば友達に会える。たまたま場所がトー横だっただけで、ゲームセンターで友達とつるむ普通の高校生と大きくは違わないように僕には見えた。
僕はユイト君の話を聴いて、トー横キッズのことがますます分からなくなった。トー横キッズとは、いったいなんなのか。
トー横キッズの実態
ユイト君によると、トー横キッズの中に100人以上が所属するLINEグループが取材当時には4つほどあり、派閥のような形で分かれているという。彼らの多くは家庭に何かしらの問題を抱えている未成年、ということだったが、その中には昼は会社で働いて夜になるとトー横に集まるサラリーマンや、40代のホームレスもいるそうだ。
世代や仕事を超えた繫がりは、起業のための仲間を探す意味でも、ユイト君の目には魅力的に映るだろう。彼はトー横を「助け合いの場」と表現した。お金のない未成年が多いため、ネットカフェやホテルに泊まる時は、みんなで費用を出し合ったりお金のある人が多めに払ったりする。
そういう互助的な側面がある一方で、中には武闘派と呼ばれる人々もいて、小競り合いが発生すると殴り合いか、土下座か、あるいはお金で解決するケースが多いという。そういう揉め事があったとしても、ユイト君はトー横という場所について「誰でも受け入れてくれる温かさがある」と話した。
また、さまざまなメディアでも取り上げられてきたように、トー横キッズの間では未成年による飲酒や喫煙も当然のように行われているという。それだけでなく、OD(オーバードーズ)と呼ばれる、薬局で購入した一般的な風邪薬を酒といっしょに大量摂取してトリップする行為もある。
これは命を落としかねない危険行為だ。ユイト君自身は、そういった危険行為に身を委ねるのではなく、音楽を聴いたり踊ったりしてトー横での時間を楽しんでいる。この界隈にはスピーカーを肩に担いでいる人がいて、ヒップホップなどお気に入りの音楽を流してくれるのだという。
青柳 貴哉
※本記事は『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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