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求職者から「夢はもういいのでキャッシュをください」の声…将来性を売りにするスタートアップ企業が採用合戦で惨敗するようになった理由【人材のプロが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月14日 7時15分

求職者から「夢はもういいのでキャッシュをください」の声…将来性を売りにするスタートアップ企業が採用合戦で惨敗するようになった理由【人材のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

将来性を売りにしているスタートアップ企業。入社したときよりも数倍に企業が成長する可能性を持ち合わせていますが、ここ最近、求職者からは厳しい評価をされるようになってきたといいます。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、採用市場におけるスタートアップ企業と求職者それぞれの変化について解説します。

スタートアップ企業の採用市場では大きな変化が

2024年の転職市場をエージェントの立場から振り返ると、多種多彩な変化が見えました。そのなかで、今回はスタートアップ界隈の著しい変化について触れてみます。

岸田政権の時代に、政府は「日本のスタートアップを育てる」「スタートアップを盛り上げていかなければならない」などと声高に叫び、関連省庁が音頭を取り、いろいろな政策が打ち出されました。その結果、新しいスタートアップ案件も次々に増え、創業者の方々もチャレンジし、市場も活況を呈していたように見えました。

特に長期間続いた「異次元の金融緩和」と呼ばれる政策は投資家筋でのカネ余りを生み出し、そこでだぶついたマネーはスタートアップ界隈の資金調達にも追い風となりました。

「〇〇のスタートアップが〇〇億円の資金調達に成功した」というような記事を、みなさまも新聞や雑誌でお見かけになったことがあるかと思います。ですが、2024年の後半になると、その手の記事をすっかり見かけなくなったと感じていらっしゃる方も多いでしょう。

こうしたスタートアップの変化に伴い、2024年後半からスタートアップ界隈のベンチャー企業の採用現場でも大きな変化が出てきました。前置きが長くなりましたが、「求職者がスタートアップの企業に対し、極めて厳しく辛辣な評価を行うようになってきた」というのが本題です。

もともとスタートアップ(ベンチャー企業)は創業から間もない時期に、限られた経営資源でチャレンジしている企業といえます。もちろんIPOのハードルが以前より下がってきたこともあり、新興市場に上場する直前または直後の企業もスタートアップのなかに含まれます。

求職者に対していろいろな処遇を施したい気持ちは山々あるのですが、駆け出しなのでそれはまだ難しいという発展途上にあります。だから、その代わりに「一緒に夢を見ましょう」「夢を追いかけましょう」と求職者の心に訴えることになります。これがスタートアップの特徴であり、神聖化された部分でもあり、脆弱化された部分でもあるわけです。

夢ではなく現金を求める求職者

最近急に変わってきたのは、求職者が、「ドリームはもういいです、現金で出してください」と言うようになってきた点です。

例えば、現職までのキャリアで年収算定して、おおよそ1,500万円くらいの評価を得られる人材がいたとします(この方が大きな会社とスタートアップで悩んでいたとして、入った後の展開によって違うわけですから同じテーブルで悩むというのは無理がありますが、わかりやすい例でこうしています)。

以前のスタートアップは、1,500万円の評価の人であっても1,500万円を出せませんでした。その代わりに「固定給は800万円でいかがですか」さらに「不足分の700万円はストックオプションでどうですか」などと提案していました。

要するに、自社株の値上がりで補うわけです。「会社が上場したら持っている含み資産が猛烈に増えます。今は800万円しか出せないけれど、これを何倍にもするために一緒にがんばりましょう!」と会社は提示します。スタートアップに飛び込むということは、そういうことなのかと誰もが思っています。

ところが、すべてではありませんが、思ったより利益が出ていないというスタートアップが増えています。そこに金融市場の変化もあって、以前ほどスタートアップに投資が回らなくなり、経営環境が厳しくなってきています。

求職者にとってスタートアップの仕事は面白そうだし、そこに飛び込みたい気持ちはあります。しかし、「飛び込んでチャレンジするならストックオプションは要らないので、現金で自分の適正評価1,500万円を用意してほしい」というわけです。夢を追いかけるストックオプションは選択肢から除外されます。こういう求職者が急激に増えています。

スタートアップ企業と求職者の溝は大きくなりつつある

スタートアップ界隈の企業側では、人事担当や経営幹部と求職者の溝が2024年後半を境に大きくなりはじめていて、特に企業側がついていけない様子になっています。つまり、彼らには求職者の動向がわからないのです。どちらが正解で、どちらが間違っているということではないのですが、企業側からすると出せる精いっぱいを提示しています。

企業側はゆくゆく成長して多くのリターンを得られるなら、頑張る価値があるだろうと考えます。一方で、求職者側が企業のデータを見ると、スタートアップは総じて利益が出せなくなってきています。だから、投機的な判断はできない、いまの自分の評価に対して適切に支払ってくれる会社でなければ飛び込むのは危険だと考えています。

ここに両者のギャップがあるわけです。この場合、企業側が歩み寄ってこのギャップを埋める努力をしないと、人材獲得は非常に難しくなります。

さらに、スタートアップ企業側の採用を難しくしている背景として、コンサルティングファームの台頭があります。各種のコンサルティングファームは伝統的なグローバルなファーム、新興の独立系のファームを含めてかなりの好待遇で採用市場に殴り込みをかけており、スタートアップ行きを渋る、でも伝統的な大企業へのカムバックにも難色を示す、そういう若手優秀層の受け皿になってきています。

コンサルティングファームへの転職は2~3年の緊急避難的なものかもしれません。しかし、破格の報酬もあり、結局は消去法でそこを選ぶ人が増えているのです。優秀な人ほどそうする傾向にあります。その結果、スタートアップが採用合戦に惜敗する件数がかなり増えてきています。

2025年もコンサルティングファームの活況が続くかどうかわかりませんが、求職者がクールで現実的な視点を持ちはじめているなかで、「夢」で釣り上げることのトレンドはもう過ぎ去りつつあります。スタートアップ企業が採用市場でのアジャストを求められることは、間違いないのではないでしょうか。

福留 拓人

東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長

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