22歳離島出身の女性「今日からホームレスになりました」…究極の選択の裏側にある「双子の姉」と「母親」の存在【Z世代ネオホームレスの実態】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月8日 11時15分
「お金がない」「家がない」「頼れる人がいない」…そういった事情とは別の理由でホームレス状態になっている、いわば“ネオホームレス”とも呼べる存在の若者が増えているといいます。本記事では、元芸人でYouTube登録者数24万人超えの青柳貴哉氏の著書『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA/2023年4月発売)より一部抜粋し、著者が出会った22歳・離島出身の女性についてご紹介します。
「今日からホームレスになりました」
2022年の秋、「アットホームチャンネル」のTwitterにこんなDMが届いた。
はじめまして。半年くらい前からYouTube観てました。いろいろあって今日からホームレスになりました。いきなりホームレスになったので何も分からないし不安があります。これからどうすれば良いか相談させていただいてもいいですか?
待ち合わせ当日、約束の場所だったJR浜松町駅の駅前で待っていたのはアヤリさん(仮名・当時22歳)という女性だった。僕は彼女を見て「とにかく若い」という第一印象を抱いた。本人から22歳という年齢を聞くまで「この子は10代かもしれない」と思ったほどだ。
上はグレーのパーカー、下は黒いスキニーパンツとスニーカーという出で立ちで、改札前の路上に彼女は立っていた。髪型は肩まで届かないくらいのショートヘアで、黒髪からは素朴な雰囲気が漂っている。背中にはキャラクターのようなものをあしらった黒いリュックを背負い、薄い紫色とピンクのキャリーケースを引いている。
オシャレに着飾っている印象はなかったが、かといって着の身着のままという感じもしない。髪を赤に染めていなかったし、黒ずくめの地雷系ファッションでもない。汚れたシャツを身につけているわけでもない。アヤリさんの風貌は、これまでに僕が出会ってきたZ世代のホームレスの人たちとは異なっていた。
僕が彼女から感じ取ったものを簡単に表すなら、“普通”というイメージだ。駅前に立っていた彼女は一見、一人旅をする学生のようにも見えた。
駅前の狭い路上で話を聞くわけにもいかず、僕はアヤリさんを連れて浜松町駅から歩き出し、東京港に面した遊歩道のある公園で彼女へのインタビューを始めた。
「これからホームレスになられるんですか?」
「そのつもりでいます」
そう答えたあと、彼女はホームレスになる道を選んだ理由について話し始めた。
「一応、まだ家(実家)はあるといえばあるんですけど、帰りたくないからホームレスになった方がマシかなっていう感じです」
アヤリさんの実家は離島にあり、まさに今日船で東京に出てきたばかりだという。待ち合わせをした浜松町駅は、東京港の旅客ターミナルの1つ、竹芝埠頭の最寄り駅でもある。彼女にカメラを向けている最中も、これから船旅に出るのか、それとも船を下りたばかりなのか、同じようなキャリーケースを引いた人々が僕たちの横をたまに通り過ぎていく。
僕はこの時、22歳の若者がホームレスになろうとしている、その瞬間に立ち会っていた。
島から離れた高校を卒業すると姉とは不仲に
アヤリさんの家族は、彼女が群馬県で生まれたあと、今の実家がある離島に引っ越した。中学生までは島内の学校に通っていたが、中学卒業後にアヤリさんだけが島を離れ、群馬にいる祖母のもとで通信制高校の授業を受けることになった。その後、高校を卒業した彼女は埼玉県の会社に就職したという。
アヤリさんは「1つ目は清掃の会社で、2つ目は光学レンズの研磨の仕事でした。スマホのカメラのところに付いてるやつとか」と説明し、最初の清掃会社は半年、研磨の仕事は2年半ほど働いて辞めたことを明かす。
「仕事を辞めて半年くらいは、貯金を切り崩しながら就職活動をしていました。でも、コロナ禍もあって仕事が見つからず、実家に戻らなきゃいけなくなって」
高校を卒業してから2つの会社に勤めていた期間がおよそ3年、就職活動を続けていたのが半年間。その3年半を経て、アヤリさんは2022年7月に実家のある離島へ戻ることになった。高校入学時に16歳で島を離れたアヤリさんにとっては、約6年ぶりの実家暮らし、ということになる。
両親と姉を含めた家族4人での生活がスタートし、アヤリさんは現地のホテルで清掃のアルバイトを始めた。しかし、そのアルバイトは「一応まだ在籍ってことにはなってるけど、2ヶ月くらいもう全然行ってない状態」だという。
島に戻ってから現在までの数ヶ月間について詳しく話を聞いてみると、どうやら”姉との不仲“が彼女の大きな悩みになっているようだった。
姉も同じホテルでアルバイトをしており、彼女は姉との関係を「バイト先で姉とケンカになって。それから(職場から)追い出されるみたいになっちゃって」「姉が気に入らないことがあると八つ当たりしてきて、それでケンカになることがよくあって。ここにいたら自分がもたないかなって思った」と、僕に話した。ちなみに、アヤリさんと姉は一卵性の双子で同じ22歳。子どもの頃は仲が良かったが、高校卒業後から姉妹の仲がぎくしゃくしていったらしい。
話を聞いて、僕は「それ(姉との不仲)がアヤリさんがホームレスをしようと思ったきっかけですか?」と彼女に聞いてみた。すると、彼女はこう答える。
「それより、親とかのことを考えなくていいし、楽かなって思ったんですよね」
姉との不仲だけでなく、両親との関係性にもアヤリさんは悩みを抱えている様子だった。アヤリさんは自分の両親について「ちょっと毒親気質があって……」と表現した。
不仲の姉と姉の味方ばかりする両親
毒親とは、子どもに対して、まるで毒物のような悪影響を与える親のことを指す言葉だ。肉体的・精神的虐待であったり、ネグレクトであったり、過干渉であったり、といったことが例に挙げられる。近年は毒親をテーマにした本やニュースも多く、日常会話の中で毒親という言葉が使われることも多くなった。
アヤリさんの言う“毒親気質”とはどんなものなのか。僕は両親との関係についてさらに質問してみる。
「ご両親とも関係はうまくいってない状態なんですか?」
「あんまりよくないと思います」
「例えば?」
「姉とケンカになっても、必ず姉の味方になって『お前が悪い』みたいな説教をすごいしてきたりとか」
「お母さんとお父さん、どちらも?」
「母は常に、っていう感じです」
「お母さんは常にお姉さんの味方をしている。お父さんはどうですか?」
「傍観者みたいな感じで、たまによく分からないことで怒ってきたりとかはあります」
「あんまりお父さんは関与してこない?」
「はい」
不仲でケンカの絶えない姉がいて、姉の味方ばかりする両親がいる。アヤリさんは実家での家族関係をそう説明した。
青柳 貴哉
※本記事は『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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