老後資金が足りなくて…年金月22万円の67歳妹、仲良し・顔もそっくりの76歳姉を「実家から追い出すしかありません。」母の遺産を巡る〈醜すぎる争族〉の末路【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月12日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
相続の際、きょうだい間で揉める原因はさまざまです。自分たちは仲が良いから、親は大してお金を持っていないから、そう思っていても「もらえるはずのものがもらえない」と多くの場合はトラブルに陥ります。本記事では、山田さん(仮名)の事例とともに、「実家」を火種とした相続トラブルについてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
仲良し姉妹が母の死をきっかけに…
山田千代子さん(仮名/67歳)は夫の崇さん(仮名/66歳)とともに生活しています。山田さんには、9歳年上の姉・雅子さん(仮名/76歳)がおり、車で30分程度離れた場所に住んでいて、お互いに家を行き来していました。年は離れていますが、本当に仲の良い姉妹でした。顔も似ており、特に笑ったときの表情は瓜二つ。
姉妹仲が決裂
山田さんの母が98歳で他界しました。母は実家で、姉の雅子さん夫婦と以前は同居していましたが、亡くなる6年前から施設に入居。ずっと元気に過ごしていたのですが、ここ半年で急速に弱ってしまい、施設で息を引き取ったのでした。
葬儀を終えて家族で一息ついていたころ、山田さんは母の遺産について話を始めました。母の遺産は実家(住宅評価額:約3,000万円)と、預貯金が500万円。母は生前、姉の雅子さんと同居しており、自宅には姉の雅子さんが暮らしていました。
この遺産を巡り、姉妹は泥沼の争族に……。
是が非でも遺産が欲しい妹
山田さんが遺産を気にしていたのは、子供の学費の悩みがありました。結婚が遅かった山田さんには2人の子供がいて、2番目の子供はつい2年前に大学を卒業したばかりでした。そして、そこで老後のためのお金をすべて使い、残された預金もほとんどなく、夫婦で合わせて月額22万円の年金を受け取り、スーパーでアルバイトをしながら生活しているだけでしたので、今後の生活を不安に思っていたのでした。
そんな背景もあり、山田さんは内心、母の遺産をアテにしていたのです。母の遺産、自宅建物と土地が3,000万円に対し、預貯金は500万円で、法定相続人は山田さんと姉の雅子さんの2人だけです。
遺言書も残していないため、相続財産3,500万円は姉妹で均等にわけることになります。ですので、山田さんは事前に相続について調べ、どの程度遺産を受け取ることができるのかを調べていたのです。
そして、法定相続分について調べた山田さんは、雅子さんに対して法定相続分の1,750万円に対して500万円の預金しかもらえないのでは不公平だと、残りの1,250万円分について請求しました。
姉と妹、それぞれの言い分
雅子さんにとってはまったく想定していなかったことで、まさか妹からそんな高額なお金を請求されるとは思っていなかったのです。自分たちもすでに老後を迎え、不動産の価値はあっても現預金に余裕はなく、到底払う余裕などありませんから預貯金500万円で納得してくれないかと山田さんに対して話をしました。
しかし、山田さん側の言い分は、雅子さんのほうが今回亡くなった母やすでに他界している父と同居し、孫の習い事の費用や遊びに行く際のお金などを出してもらい、恩恵を受けられていて、せめて遺産くらい均等に分割してもらいたいと伝えます。
この対立は決着がつかず、結局は弁護士を挟み姉妹のいがみ合いが続いてしまうことになりました。
争族のタネとなりやすい実家
今回の事例のように、不動産の価値が高く、現預金が少ない場合にはトラブルになることも多いものです。自宅建物と土地はわけるわけにもいきませんので、遺産分割が難しいのです。不動産を相続する代わりにわける現預金があればよいのですが、それもない場合には今回のようなトラブルになってしまいます。
また、仲が良かったはずの姉妹ですが、山田さんのように金銭的な不安を抱えている状況では特に、もらえるはずの財産をできるだけもらいたいと考え、権利を主張するようになってしまうことがあります。これらの要因が絡み合い、姉妹のあいだに不信感が生まれ、遺産分割の話し合いは泥沼化してしまったのです。
こういった相続のトラブルを避けるためには、事前の対策が必要不可欠です。
まず、山田さんの問題は子供の進学資金も踏まえて老後の資金計画を考えずにいたことでしょう。事前に資金計画を立て、リタイアして生活が苦しくなるのであれば長く働いて収入を増やし、貯蓄もして年金を繰り下げて受け取るなどの対策ができたはずです。
また、母の生前に遺産分割について話をしていなかったことも問題です。日本ではまだまだ「お金のことを話すのはよくない」というような風潮があり、相続についての話を毛嫌いされる人も少なくありません。しかし、それをしてこなかったことから今回のようなトラブルが起きてしまっているわけです。母娘で話し合い、生前にどうしたいのかをエンディングノートなどで自分の想いを記し、遺言書などで法的な手続きを行っておくことで仲が良かったはずの姉妹がいがみ合うようなことは避けることができます。
「相続のトラブルなんてお金がある家だけ……」と思われてしまいますが、むしろ逆です。今回のように金融資産のようにわけられる財産がないほうがトラブルになりやすいため、事前にしっかり考えておきましょう。
遺産5,000万円以下の家族が揉めやすい
今回は母の遺産を巡って姉妹の争いに発展してしまった山田さんの事例をお伝えしました。
2020年の司法統計によると、調停・審判となった事例の80%近くは遺産の金額が5,000万円以下で起きていることがわかります。相続は事前にしっかり対策しなければ「争族」に発展するリスクがあり、また、自分たちの人生においての資金計画を考えていないと大事な家族との関係性も壊してしまうこともあります。
相続対策は元気なうちに、そしてお金のことで家族間でこのようなトラブルにならぬよう、資金計画をしっかり立てていきましょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP
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