年110万円以内の贈与は「非課税」のはずだが…年収1,200万円・49歳エリートサラリーマンの悲鳴…父の死から2年後、税務調査で〈多額の追徴税〉を課されたワケ【税理士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月31日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
年間110万円以内の贈与が非課税であることをご存じの人は多いでしょう。しかし、方法を誤ると“年間110万円以内の贈与”であっても、税務署から「多額の追徴税」を課される場合があるのです。父の死から2年後、相続税調査によって追徴税を課されてしまったエリートサラリーマンの事例をみていきましょう。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が解説します。
元公務員の両親から“たっぷりの愛情”を注がれたAさん
都内の大手企業で働くAさんは、都内近郊に家族4人で暮らしています。真面目で仕事熱心なAさんは順調に昇進を重ね、49歳にして年収は約1,200万円です。
そんなAさんは、父親のBさんが40歳、母親のCさんが37歳の頃に生まれたひとり息子でした。長い妊活の末ようやく授かった子どものため、2人はAさんを溺愛。Aさんもそんな両親の愛を一身に受け、すくすくと育ちました。
BさんとCさんはともに公務員で、退職金はあわせて約4,000万円。さらに、Cさんの実家が裕福だったことから、その遺産なども含めると両親の資産は1億円を超えていました。
Aさんが大学卒業を機に上京すると、両親は寂しがって毎月のように「たまには顔を見せに帰ってきてくれ」とせがみます。Aさんが冗談交じりに「飛行機代をくれるなら帰ってもいいよ」と伝えると、金銭的にゆとりのあった両親は、Aさんの帰省にかかる飛行機代などを喜んで負担。Aさんも両親の厚意に甘え、居心地のいい実家でくつろいでいました。
30歳で結婚したAさん、結婚から6年後に待望の第1子が誕生
Aさんが36歳のころ、待望の第1子(長女)が誕生。両親は初孫にたいそう喜び、「年寄りのパパたちがお金を持っていても仕方がないから、Aや孫にお金を渡しておきたいんだ」と申し出てくれました。
その後、孫の顔を見せにいくたびにお金を渡してくる両親に、Aさんは言いました。「ありがとう(笑)気持ちは嬉しいけれど、1年で110万円以上の贈与を受けると税金をとられちゃうから、お父さんとお母さんが好きなことに使ってよ」
しかし、BさんとCさんは「なにを言っているんだ。私たちはAや奥さん、孫のためにお金を使いたいんだよ」と答えます。さらに、「それなら非課税の上限を超えないように、1年に1度まとめてあげることにするよ」とのこと。
こうして、両親は“お年玉”と称し、Aさんが年末年始に帰省したタイミングで、毎年110万円をあげることにしました。
A一家に“新たな命”が…感無量の両親がとった行動
その後、Aさんが38歳のときに第2子(次女)が誕生すると、“お年玉”も増額。「長女と次女にそれぞれ110万円ずつ」と、毎年220万円を渡すようになったそうです。
それから月日が経ち、Aさんが47歳のとき、父親のBさんが87歳で逝去しました。大好きな父を失い、Aさんは年甲斐もなく号泣。しばらく悲しみから立ち直れずにいました。
2年後…税務署からかかってきた「1本の電話」
そして、父親の死から2年、ようやく日常を取り戻したころ、税務署からAさん宛に連絡がありました。聞けば、「相続税調査に伺いたい」といいます。
「きちんと申告したはずだが……どうしていまになって?」疑問をもったAさんでしたが、渋って疑われるのは損だと、素直に調査を了承しました。
税務調査官が狙う“お年玉”
調査当日、2名の調査官は、和やかな雑談から税務調査をスタートさせました。しかし、しだいに話題は、亡き父親の預金に移ります。
調査官「毎年、お正月に220万円のお金が引き出されていますが、このお金はなんでしょうか?」
Aさん「それは、父から私の子どもへの“お年玉”です。年間110万円までは非課税という風に聞いています」
調査官「なるほど。しかし、110万円ではなく220万円ですね。これはどうしてですか?」
Aさん「長女に110万円、次女に110万円で、2人分として220万円もらっていましたね」
調査官「そうなると、110万円を超えているので、さかのぼって贈与税の申告が必要ですね。また、亡くなってから3年以内の贈与は、相続税の申告に加算しなければいけませんので、その分の相続税の申告も必要となります」
調査官からの思わぬ指摘に、Aさんは次のように反論しました。
Aさん「いや、ちょっと待ってください! これは贈与時期からもわかると思いますが、実質孫に対する贈与ですよ。1人あたり年間110万円以内だから非課税じゃないんですか? それに、そもそもお年玉は『年末年始の贈答』だから、非課税のはずでは?」
しかし、調査官は冷静に告げます。
調査官「お年玉が課税されないのは、『社会通念上相当と認められるもの』と規定されています。お年玉というと、高くても1人あたり1~2万円ほどでしょう。それが110万円もの大金であれば贈与となりますし、受け取っているのがお孫さんではなくAさんということであれば、これはAさんに対する贈与です」
「そんな……そんなぁ!」
Aさんの悲鳴が虚しく響くなか、税務署はAさんに「約200万円の追徴税」を課したのでした。
税務署がAさんにたどり着いた理由
「生前贈与」は節税効果の高い相続税対策であることから、子どもや孫のために活用している人も多いでしょう。
たしかに、贈与税には年間110万円の基礎控除があり、1月1日~12月31日までの1年間の贈与額が110万円以下であれば、申告と納税は不要です。
ただし、贈与契約の成立が前提となるため、贈与者(贈与する人)と受贈者(贈与を受ける人)の合意がなければ、税務署が生前贈与を認めない可能性があります。
贈与契約は口頭のやり取りでも成立しますが、第三者に証明できないため、贈与契約書を作成するなど、なんらかの証拠を残しておく必要があるでしょう。
また、税務署は、全国の国税局と税務署をネットワークで結ぶ「国税総合管理(KSK)システム」により、日本のすべての納税者の申告書がこのシステムで把握しています。
ここには、納税者が過去に提出した申告データやさまざまな税務データが蓄積されていることから、相続税の調査対象となった場合、その人の財産をおおむね把握することができます。
今回のケースでも、税務署がKSKシステムを確認したところ不審な点があり、銀行に問い合わせて預金の流れを調べることに。
その結果、毎年お正月に大きなお金の引き出しがあったため、税務署としては、この引き出した預金はタンス預金にしているのではないか? あるいは子や孫に贈与をしているのではないか? と疑問を抱き、税務調査の対象となりました。
お年玉は非課税ですが、それはあくまで“常識の範囲内”です。また、実質孫に対する贈与だったとしても、客観的に孫への贈与であることを証明できない場合、受贈者は親であると認定されることとなります。
110万円までの贈与は非課税であると広く知られているところですが、なにも証拠を残さず安易に行っている場合、のちの税務調査で、思わぬ課税を受ける場合があるためくれぐれもご注意ください。
宮路 幸人
多賀谷会計事務所
税理士/CFP
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