事業売却で「後悔する社長」と「充実の新生活を手に入れる社長」の分かれ目…M&A実行前に知るべき〈売却後の人生の課題〉とは
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月13日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
事業売却後、スムーズに豊かな新生活を始めるには、M&A実行前に「事業売却後の人生」をイメージしておくことが重要です。本稿では、事業売却に臨むオーナー経営者が考えておきたい「事業売却後に直面する課題」について見ていきましょう。M&A支援を行う作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)が解説します。
M&A実行前にイメージしておくべき「事業売却後の人生」
事業売却を実現したオーナーは、生活面、財産・収入面で大きな変化に直面します。しかしながら、事業売却前においてはオーナーの意識の大部分が事業に向いており、M&Aという初めてのイベントに臨むにあたって、取引相手である買い手のことや取引条件、従業員の処遇などたくさんのことで頭を悩ませているはずです。このような状況で、事業売却後の人生に目を向けられる人は多くないでしょう。
こうしたオーナーの「意識の壁」は、売却後、豊かな新生活をスムーズにスタートさせるうえで障壁となる場合があります。新生活が充実していなければ、事業売却そのものを後悔することにもなりかねません。こうした事態を避けるためには、「意識の壁」を取り払い、事業売却後に想定される環境の変化や新たに直面しうる課題について、事前にイメージしておくことが大切だと考えています。
そこで今回は、事業売却を実現したオーナーが直面する環境の変化と、新たに直面しうる課題について解説します。あわせて、そうした課題の解消に向けてM&A実行時から事前に取り組める対策についても考えていきたいと思います。
売却後に直面する「生活面」の課題
まず生活面では、これまでの会社での役職(肩書き)がなくなり、事業に拘束されてきた時間が自由になっていきます。持て余すほどの自由を、趣味や余興、新規事業や社会貢献活動などで充実させられるかが新たな課題となります。人間関係に関しても、会社中心だったところから変化していくことでしょう。
こうした生活面の変化に関連して、オーナー経営者のなかには、急に何者でもなくなることへの不安を抱くケースもあるようです。なかには、事業売却後においても「会長」や「名誉顧問」といった肩書きを維持したいと考える方もいます。こうした要望についても、買い手に対して事前に伝えておくことで、希望を実現できる可能性があります。あるいは、資産管理会社を設立して、代表取締役の肩書きを持つことでも希望がかなえられるかもしれません。
また、趣味もなく、事業売却後に暇になることが不安だというオーナーも多くいます。こうした不安についても、事業売却後も継続して何かしらの形で会社に関与することを買い手に承諾してもらうことで軽減できるかもしれません。なお、引退を考えて事業売却を行うケースなどでは、事業売却で得た自由を当面楽しもうと考えるオーナーも多いようですが、現役世代のオーナーのケースなどでは、事業売却後に再起業、あるいは買収によって新規事業に取り組むことも多いようです。
事業売却後の喪失感や虚無感から後悔をしないためには、事業売却後の自身の処遇や日々の過ごし方などについてある程度イメージしながら、快適な新生活に向けてできる準備を整えておくことが必要です。
売却後に直面する「財産・収入面」の課題
事業売却によって、収入面ではオーナーが役員報酬として得ていた定期収入が減少する、あるいは無くなることになります。事業売却で多額の現金を得たとしても、それを切り崩して生活していくのは心理的に抵抗感が生まれるものです。また、売却直後は現金中心となるため、財産面ではインフレに弱い資産構成となります。このままだと相続税が大きくかかる資産構成でもあるため、ゆくゆくの相続を見据えた対策も検討する必要があります。
こうした事業売却後のオーナーが新たに直面する財産面の課題への対策としては、安定的な収入を確保しつつ、インフレへの対応も考慮した安定的な資産形成を考えていくことがポイントになります。事業売却で得た資金をもとに新生活を組み立てていくことになりますから、収入を担保していく観点からは過度に「増やすため」のリスクを取りすぎず、「いかに守っていくか」といった姿勢で、安定的かつ再現性の高い資産運用を行っていくことが重要です。
事業売却は生活に大きな変化をもたらします。せっかく事業売却で得た自由によって逆に身体や心の健康を損ねてしまうケースも少なくありません。新しい生活を充実させると同時に、財産・収入面で心理的ストレスを作らないことは非常に重要です。
事業売却後のオーナーが検討すべき具体的な資産運用方針などについては、本連載の別の機会に解説したいと思います。
作田 隆吉
オーナーズ株式会社 代表取締役社長
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