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許せない…朝5時起床→23時帰宅も「定額働かせ放題」で残業代ゼロ、限界を迎えた30代サラリーマンの“逆襲”【ハラスメント専門家が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月5日 11時15分

許せない…朝5時起床→23時帰宅も「定額働かせ放題」で残業代ゼロ、限界を迎えた30代サラリーマンの“逆襲”【ハラスメント専門家が解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

度を越した長時間労働に壮絶な職場いじめ……劣悪な職場環境に耐えかねたドライバーのAさんは、泣き寝入りすることなく、この状況を変えるために立ち上がりました。いったいどのような行動を起こしたのか、『大人のいじめ』(講談社)より、著者でハラスメント対策専門家の坂倉昇平氏が、実際にあったケースを紹介します。

昼食は運転しながらのおにぎり…お弁当を食べる時間はない

自動販売機の補充をするドライバーの長時間労働

自販機の商品を運搬するドライバーであるAさん(現在30代・男性)は、当時入社5年目。仕事はすっかり板についていたが、労働時間は一向に短くならなかった。1日の典型的なスケジュールは、次の通りだ。

朝7時35分頃に営業所に到着、8時にはトラックに乗って営業所を出発する。担当する自販機の近くに駐車すると、商品の詰まった段ボール(ほぼ水分のため非常に重量がある)を持って、施設の場合は各フロアまで運び、商品の補充、集金、賞味期限が切れそうな商品の管理、自動販売機の横に設置されたゴミ箱のゴミ回収、飲料メーカーの指示に応じて新商品への入れ替え・ディスプレイの変更などを行う。

商品が売り切れになっているなどのクレームを携帯電話で受けて、すぐ対応に向かうことも頻繁にある。秋には自販機の温度設定を温かく、初夏には冷たく切り替えて、中身もすべて入れ替える。自販機内の商品をすべて抜き取って、数を数える「棚卸し業務」も定期的に行われる。

こうした作業をしながら、1日に約20ヵ所の自販機を回るのが日課だ。しかも、同僚の担当は100〜120台だったが、Aさんは180台も割り当てられ、職場でも断トツの多さだった。

昼食は、車を運転しながら、コンビニで買ったおにぎりを口に突っ込む。時間がないので、お弁当などはとても買えず、カップ麵でも「マシ」なほう。飲食店で昼食をとったことは、5年目まで1度もなかった。

営業所に帰ると、すでに時刻は20時頃。外回りだけでも12時間労働だ。その後も、トラックに積んだ大量のゴミを捨て、翌日の商品の積み込みを行い、その日の業務報告を提出する。職場をあとにするのは21時や22時を過ぎることもあった。

帰宅時間は遅いと23時頃で、家では夕飯を食べて、入浴して寝るだけの生活。翌朝は5時起きで6時過ぎには家を出ていた。Aさんの体は限界を迎えていた。

有給申請時に催される“恐怖のイベント”

このように長時間労働が常態化しているため、営業所内の雰囲気はギスギスしていて、上司や先輩からの罵声が飛び交っていた。予定していたルートを回り切って、夜遅くに営業所に戻ってきても容赦はない。

顧客からの「売り切れ」のクレーム対応を翌日に持ち越そうとしていると、「お前なんで『売り切れ』付いてるのに帰ってくるんだよ」、1日に回った自販機数が少ないと見られると「もっと回ってこいよ」などと言われ、20時頃であっても、再びトラックで営業所を出発することになる。

Aさんがミスをすると、先輩から「てめえ、ふざけんな」と怒鳴られ、「こいつ、こんなミスしたよ」と営業所内で言いふらされることもよくあった。

「長い時間働いたやつが偉い」という風潮があり、少しでも休憩を取っていようものなら「俺は休憩取らずに働いてるのに」と妬まれ、残業時間が短いと「あいつサボってるから、仕事振れ」と言われる。

そして、こうした理不尽がもっとも深刻なのは、Aさんの営業所とは別のところ、JR東京駅構内の営業所だった。JR東京駅の自販機を担当するこの営業所では、業務量が膨大で休憩時間が全く取れないだけでなく、支店長による暴力や嫌がらせが頻発していた。

ミスをした従業員は謝罪文を書かされ、支店の全従業員宛てに「公開処刑メール」と件名を付けて流され、さらしものにされた。ミスの罰として「腕立て100回」や支店の全従業員へのエナジードリンク自腹購入、1ヵ月ゴミ捨て担当などのメニューも用意されていた。お尻を蹴られるなどの暴力も珍しくなかった。

極め付けが「有休チャンスクイズ」だ。有給休暇を取得するには、支店長からのメールに書かれたクイズに正解しなくてはならないという、人を馬鹿にした決まりである。逆に正解できないと、「永久追放、まずは降格」だという。

支店長は、「嫌なら辞めれば」「飛ばすよ」と公然と言い放っていたが、こうした支店長の行為を、本社は全く問題視しなかった(後に追及を受けて、会社は支店長の問題行為を一切知らなかったと回答する)。

もう限界…Aさんが“働きながら”成し遂げた逆襲

話をAさんに戻そう。勤続5年目の2017年のことだった。耐えかねたAさんは、ユニオンに相談することを決めた。筆者は、最初の面談の日、「今朝倒れちゃって、点滴打ってからきたんですよ」と腕のガーゼを見せながら話すAさんの追い詰められた顔を、いまも鮮明に覚えている。

Aさんは当初、残業代を請求して会社を辞めるしかないと考えていた。しかし、筆者が、「嫌がらせをしてくる可能性はありますが、働き続けながら闘って、会社に改善させる選択肢もあります」と伝えると、Aさんは「働きながら、やれるんですか?」と目を輝かせた。こうして闘いが始まった。

当面の改善要求の焦点は、同社の長時間労働を加速させていた「事業場外みなし労働時間制」という制度だった。

これは、会社が労働者を指揮監督できず、何時間働いたかを把握するのが難しいという条件の場合に限り、労使で決めた数時間を毎日働いたものと「みなす」ことで、それ以上の時間外労働については追加の残業代を払わなくても良いという制度だ。何時間残業させても賃金は変わらず、「定額働かせ放題」となる可能性が高い。

そもそも、これは、携帯電話が普及していない時代の営業などを想定した制度で、外回りの労働者が働いているかどうかを会社が把握できない、指示もできないということが前提だ。

同社はこの制度を適用していたが、実際にはAさんは会社からの携帯電話への連絡で、顧客から来たクレーム対応に向かうよう指示されており、指揮監督が及んでいないとはとてもいえない状況だった。つまり、違法に残業代を払っていないということだ。

Aさんは、こうした証拠をコツコツ集めた。そして、数ヵ月後、会社に団体交渉を申し入れ、同時に労働基準監督署に労基法違反を申告した。

その結果、この会社の事業場外みなし労働時間制は違法と判断され、是正勧告が出された。そして、非組合員を含む、自販機飲料の運搬をしていた全従業員に残業代が支払われることになったのだ。同社は、事業場外みなし労働時間制を廃止することを発表した。

同僚たちから相次いだ感謝

過去2年分の未払い残業代相当分として、数十万円支払われた人も多くおり、長時間労働が認められて、なかには100万円前後もらった人もいた。「Aさんのおかげで新しいパソコンが買えました!」と報告してくれた同僚もいた。

休憩時間が取れていないという主張を会社は認めず、着替えの時間などカウントされていない未払い労働もあった。それでも、全担当者への支払いは衝撃的な出来事だった。

さらに、過去の未払い残業代だけでなく、今後は働いた分の残業代がちゃんと払われることになった。「定額働かせ放題」ではなくなったのだ。残業時間はすぐには短くならなかったため、月給が5万円くらい上がった人もいたという。残業代が重くのしかかるため、会社も残業の削減を促進するようになった。

Aさんは営業所内で感謝の的だった。しかし、それは、不当労働行為が始まるまでの、束の間の「平和」だった。  

坂倉 昇平 ハラスメント対策専門家

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