もう、無理だ…月収45万円のサラリーマン〈1,600万円の住宅ローン〉で埼玉県・草加駅近くにマイホームを購入「すべてが順調」だったが…6年後に発覚した“まさかの事実”に悲鳴【実話】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月29日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
通常、「無理なく返済できる住宅ローン」の目安は、返済比率(年間返済額÷年収×100)20~25%とされています。しかし「20%未満なら絶対に大丈夫か」というと、どうもそうとはいえないようです。ルポライターである増田明利氏著書『今日、借金を背負った 借金で人生が狂った11人の物語』(彩図社)より、住宅ローンを借りて“夢のマイホーム”を手に入れた男性の実例をみていきましょう。
29歳で結婚→40歳でマイホーム…“順調な人生”のはずだった
金澤将弘(50歳)
出身地/富山県
現住所/東京都北区
職業/会社員
収入/月収38万円(手取り32万円)
家賃/9万8,000円
主な借金/住宅ローン1,600万円、クレジットカードキャッシング25万円
借金の残高/住宅ローンは住まいを売却して清算、クレジットカードキャッシング20万円
月々の返済額/クレジットカードキャッシング8,000円
「引き渡しは来月の20日なのですが、出ていくことに決まったら1日でも早い方がいいでしょ。妻と子どもたちはもう新しいアパートに移っていまして、週末ごとに少しずつ荷物を運んでいるところです」
あと2週間でマイホームから退去しなければならない。その後はここを買った新しい住人が入居してくる。
「ここに来たのは2009年の年初だったから、10年ほどしか住まなかったんだな」
買う前の目論見では、今頃はローンの半分は返せていると思っていたが現実は真逆だった。もう住宅ローンを返すのが限界になって手放すのだから。
情報処理・システム設計会社に勤める金澤さんが結婚したのは29歳のとき。最初の住まいは民間の賃貸アパートだった。長男が生まれたのを機にURの賃貸に移ったのが31歳。その後に長女も生まれ、40歳で念願のマイホームを手にした。
「自分の家を持つというのは夢でしたよ」
金澤さんは富山県の出身、持ち家比率が日本で一番高いところだ。結婚して4、5年したら持ち家が当たり前という感じで、金澤さんの長兄も嫁いだ姉のところも結婚して数年で家を手に入れていた。
「自分も早く家を持ちたいと思っていたのですが、都内や神奈川で交通の便が良いところだとなかなか手が出せませんよ」
バブルが崩壊して不動産価格は下がり続けていると言われていたが、23区だと中古のファミリータイプのマンションでも2,500~3,800万円ぐらいが最大のボリュームゾーン。中古の戸建てになると最低でも4,000万円は必要だった。
「駅のラックに置いてあるフリーペーパーの住宅情報誌は毎号見ていました、研究のために。いろいろ比較してみると鉄道の路線によってかなり値段が違うんですよね。賃貸でも家賃は大きく違っていて、東急線や小田急線沿線だと12万円ぐらいする2DKのマンションも埼玉県に入ったら8万円で借りられる」
2,200万円のマンションを購入…住宅ローンに躊躇はなかった
1年近くもあちこちを見て歩き、最終的に決めたのが東武線草加駅近くの中古マンション。築5年で仲介業者もめったに出ない上物だと言っていた。
「値段は2,200万円でした。4LDKで専有面積は65m2。都内で利便性の高いところなら中古でも5,000万円ぐらいするのが2,200万円というのは魅力でしたね」
2,200万円のうち頭金として払ったのは600万円、残りの1,600万円が住宅ローンだった。
「今もそうだけど金利が低いでしょ。多額のローンを組むことに躊躇はありませんでした」
当時の金澤さんの収入は月収が約45万円、賞与が年間で120万円。年収にすると660万円。大手流通業の契約社員だった奥さんは月収16万円で賞与込みの年収だと約230万円。世帯年収が890万円もあったからローンを組んでも余裕だと思っていた。
「その時点では返済についても大きな不安はなかったですね」
ローンの返済方法はボーナス時払いなしで20年の返済。住宅ローンの金利が当時の過去最低レベルだったので1ヵ月当たりの返済額は約7万5,000円。
「先輩や上司の話を聞くと45歳で680万円、50歳で管理職になれば720万円ぐらいの年収が見込めそうでした。20年のローンも繰り上げを何回かできたら2、3年前倒して完済できそうだと思っていました」
実際、買って6年間はまったく問題なかった。
「前の団地の家賃が10万8,000円だったんですね。ローン返済が7万5,000円、管理費1万5,000円、修繕積立金が1万2,000円。駐輪場の利用料が2,000円だから合計10万4,000円で4,000円安い。家賃並みの金額でマイホームを手にできたのだから、いい買い物をしたと満足していました」
毎月のローンと維持費は2人の月給で苦も無く払えた。賞与は旅行したり家具、家電品の買い替えに使ったが、それでも貯蓄することができた。
雪崩式に起きた“まさかの出来事”で窮地に
ローンの支払いに苦しむことはないと思っていたが、15年の下期過ぎから様相が一変する。
「まず、妻が体調を崩してしまいまして」
奥さんは15年の春頃から腰が痛い、足が痛い、太ももの裏側がピリピリすると言い出し、近所の整形外科を受診した。
坐骨神経痛という診断で湿布と痛み止めの内服薬を服用していたが良くなるどころか症状が悪化。都内の大学病院へ紹介状を書いてもらい、検査入院して詳しく調べてもらったら脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)という病気で、脊椎すべり症の所見もあるという診断だった。
「痛みと痺れを抑えるために神経根ブロックという治療をやってもらったのですが効果がなくて。本人もこんなに痛いのは辛いということで手術に踏み切ったわけです」
結果、痛みは通常生活の範囲ではほとんど感じないまで良くなったが、左足先の痺れは前より少し楽というところまでしか回復しなかった。仕事は2ヵ月休職したが、復帰することはできず、もう1ヵ月延長してもらったがやはり難しかった。
「妻は販売職限定の契約社員なので、体調が悪くなっても担当職種の変更はできないと言われたそうです。そんなわけで契約期間中は在籍扱いだったけど、1年間の雇用契約が切れた段階で雇い止めということになってしまいました」
これで奥さんの月収16万円、年収230万円が消失したことになる。
景気回復で会社が大量採用した結果…残業できず年収が激減
そして、更なる予想外の事態が金澤さんの家計を圧迫した。
「翌年からは、わたしの収入がドッと下がりました。リーマンショックがあってからずっと人を採っていなかったのですが、景気回復と技術者不足で大量採用するようになりました。大学、高専、専門学校の新卒だけでなく、実務経験のあるキャリア採用も実施したので一気に人が増えた。これが収入減の原因です」
早い話、残業時間が急減したことによる減収だった。
「以前は毎月70~90時間の時間外労働があったんです。平日残業が50時間以上で土日も月3回休日出勤することがあった。それが半分以下になって」
それまでは仕事が過密状態でピリピリしていた職場だったが、人員増で余裕が出てきた。過労で体調を崩す人もいなくなった。良いことのように思えるものの、残業代が減ったのは大打撃だった。
「以前は月平均で80時間ほど時間外労働していました。残業代にすると18万円近くです。これが30時間ぐらいに減ったから残業代も6万7,000円ぐらいになってしまいました。終電ギリギリまで働くことはなくなったし、土日祝日はきっちり休めるから良いことなのですが懐がね」
更に2018年の初めからは働き方改革の余波で一段と残業が減っている。
「水曜日はノー残業デーで18時になるとすべての部屋の照明が落とされ、残業する場合は上司になぜ残業をするのか報告し、了承を得ないと駄目なんです」
終業時刻の17時45分になると社内のスピーカーからオフコースの「さよなら」が流れ、「とっとと帰ってくれ」と追い立てられる。
チーム長の金澤さんは同じ作業班の人たちに「早く切り上げろ」と指導する立場。部下や後輩を帰して自分が残業することなどできないから終業チャイムが鳴ったら、いの一番で退勤するしかない。
「先月の残業代は9時間で2万2,000円程度でした。3年前の残業代は月17~18万円だったから15~16万円の月収ダウンということです。こんなわけで年収が180万円以上も減っているんです。こんなことは想定外でした」
基本給とそれに連動する給与調整金は増えているが、残業代が大幅に減ったことで年収は2年続けて大幅に落ちている。
「はっきり言っちゃうと、マンションを買った年の年収より下がっています。社会保険の負担分が増え続けているから本当に苦しい」
世帯年収は400万円以上減少も…重くのしかかる「教育費」
もともとは妻も契約社員として働き、世帯年収890万円だったが、妻が脊椎管狭窄症になり復職が叶わず、加えて金澤さん自身の勤務先で雇用環境改善が起こったことで、世帯年収は400万円以上大幅に減少してしまった。
会社自体は過去最高益を更新しているのだから、その一部を社員に還元してくれてもいいのにと思うが、高給を取っているのは幹部社員や役員だけ。釈然としない。
奥さんはまだリハビリ中で就労していない。金澤さんの収入だけで住宅ローンと維持費、生活費、子どもたちの教育費をすべて賄うのはかなりきつい。
「今の手取りは月32万円ぐらいですね。住まいに係わる経費が10万4000円、水道光熱費と固定電話代で2万3000円前後だから合計すると12万7000円。これだけ出ていくので純粋な生活費として使えるのは何とか20万円というレベルですね」
20万円で一家4人の食費、被服費、医療費、金澤さんの昼食代込みの小遣い、子ども2人の教育費、保険料などを賄うのは不可能。貯金を取り崩すようになっている。
「やっぱり教育費が大きいですね。長男が大学に進学したときに入学金や授業料で130万円出ていき、去年、今年も年度初めに年間の授業料80万円を支払った。娘は公立高校なので学費はかからないけど、クラブ活動(吹奏楽部)と塾代が馬鹿にならない金額なんです。夏休みに予備校の夏期講習に行きたいと相談されたのですが、テキスト代込みの受講料が5万円と言われて考えてしまいました」
今の時代、学校の勉強をしっかりやらなければ上位大学に受かることは厳しい。教育費は聖域だと思っているので「しっかりやれよ」と了承したが、費用の5万円は貯金から引き出したもの。
奥さんに内緒で「キャッシング」に手を出してしまう
住宅ローンや教育費で青息吐息なのに金澤さんは奥さんに内緒の借金を作ってしまった。
「交際費といいますか、サラリーマンとしてお付き合いで欠かせないものがあるでしょ。わたしぐらいの年齢になると部下や後輩の結婚式に招かれることが多いんです。まさかご祝儀1万円というわけにはいかないでしょ。2万円は割り切れるから失礼になるので3万円は包まなくてはならない。一昨年は2回、去年は4回もお呼ばれしたからそれだけで18万円の出費だった」
それとは別に年に何度か葬儀がある。同期入社した友人のお父さんが亡くなった、郷里の従兄の連れ合いさんが亡くなったなどと聞くと香典や供花代が必要になる。
「こういう臨時の出費のために、ついクレジットカードでキャッシングしてしまいまして。借りた金額は25万円なので利息が付いたら返せない額というわけではないけど、毎月の小遣いから数千円ずつしか返済できないので完済するには3年ぐらいかかってしまいます」
もう、無理だ…金澤さんの心を折った“トドメの一撃”
もう家を持ち続けるのは無理だと思ったのは昨年末。マンションの管理組合から来年10月に大規模修繕を実施するという通知があった。外壁タイルの張り替え、玄関ホールの床タイル交換、敷地内通路のアスファルト工事などをやるので修繕積立金だけでは足りなくなる。ついては入居者1戸当たり12万円負担してもらうことになったと書面で連絡があったから頭を抱えてしまった。
「毎月の維持費だって大層な金額なのに、更に12万円払えと言われてもねえ」
このとき、マンションを買ったのは失敗だったと痛感した。
「管理費と修繕積立金の合計が2万7,000円だから20年払う(住む)と650万円。25年だったら810万円。年月が長くなったら建て替えという事態になる可能性もあるし」
戸建なら管理費は不要、駐輪代も取られない。小さな不具合ならホームセンターで部品や用具を買って自分で修繕することもできる。こういうことを考えなかったのは大きな失敗だった。
「妻に売却することを提案したら最初は難色を示しましてね。手放したらもう1度買うのは不可能、体調が戻ったらパート仕事を探すと言うんです。しかし、また身体をおかしくしたら元も子もないからね。無理をさせたくない」
家計の補填として取り崩している貯金は月2万5,000円から3万円。年間で30万円以上も減っていく。長男は間もなく卒業するが、入れ替わりに長女が進学するので4年間で300万円以上の学費が必要だ。
奨学金を受ける手もあるが、今の奨学金制度は学生ローンと同じ。給付型ならいいが貸与型だと卒業して半年後から返済を始めなければならない。アルバイトはしてもらわなければならないが、学費だけは何とか払ってやりたい。
「このままでいったら8年ぐらいで預貯金は底を突く。そうなる前に家計を見直したい。退職金でローンを返したら老後の生活資金が枯渇するでしょ。やはり、今一番の重荷である住宅ローンを清算するしかないと思いました」
渋っていた奥さんもテレビのドキュメント番組で、ローンを滞納し、銀行から一括返済と遅延損害金を請求されて途方に暮れている人や家を金融機関に差し押さえられて競売にかけられた人、売却してもローンを清算できず借金だけが残った人などを見て怖くなったようで、今のうちに売却してローンを清算することに同意してくれた。
「子どもたちにも現実を話したら仕方ないねと納得してくれた。申し訳なかったけど、売って借金から逃れるようにしたわけなんです」
マンションが売れた!しかし…
売却依頼は数件の不動産屋に依頼し、約3ヵ月後に買い手が付いた。
「2,200万円で買ったものだけど、売るとなったら1,880万円でした。買ったときで築5年、10年住んでいたから築15年ということになっているので仕方ありません」
不動産業者は、近くに新築物件が建ったらもっと下げなければ売れない、今が売り時だと言っていたが、金澤さんにはその言葉が寒々しく響いた。売却代金から仲介手数料などの諸経費を引くと残ったのは1,700万円ほど。
「ローンの残りは利息込みで約820万円。差し引き880万円が残ったお金です。転居するアパートの初期費用と引っ越し代、粗大ゴミの処分で40万円ほど使ったけど、残ったのは銀行の定期預金に入れて手を付けないようにしました」
マンションで暮らしていたのは10年4ヵ月。ローンと維持費で払った総額は1,289万6,000円。買わずにURの団地にいたら同じ期間で払う家賃の総額は1,339万2,000円。差額は50万円にもならない。こう考えると馬鹿らしくなってくる。
「わたしの場合、頭金を27%ぐらい入れたのに最後はこれですからね。不動産の広告では頭金10%、残りはローン可というのを目にするけど、そんなことやったら確実に破綻すると思う。マイホームを持とうと考えている人は注意しないと危険ですね」
借りられる額が返せる額とは必ずしも限らない。どういう収入の変動があってもこれぐらいなら返せるだろうと思う金額しか借りないのが安全な策。これは肝に銘じておいた方がいい。
増田 明利 ルポライター
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