元駐米大使が明かす、小泉元総理との秘話 就活でも通用する「お偉いさん」との処世術とは?【元駐米大使×SAPIX代表の対談】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月2日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
周囲の意見に安易に同調するのではなく、自分自身をしっかりと持つこと。しかし、時には場の空気を読むことも重要である。藤崎一郎氏は、自身の外交官時代に行った元総理らとの交流を例に挙げながら、信念と処世術のバランス、そして変化の時代を生き抜くためのヒントを語る。※本記事は、高宮敏郎氏の著書『「考える力」を育てるためにSAPIXが大切にしていること』(総合法令出版)より一部を抜粋・再編集したもの。
対談者:北鎌倉女子学園理事長・藤崎一郎氏
1947年生まれ。慶應義塾大学経済学部在学中に外務公務員Ⅰ種試験に合格。1969年、同大学を中退して外務省に入省。米国ブラウン大学、スタンフォード大学院にて研修を受けた後、OECD代表部一等書記官、在英大使館参事官、北米局長、外務審議官などを経て、2008年、駐米特命全権大使に就任。
退官後の第二の人生では教育研究関係にも携わり、上智大学特別招聘教授・国際戦略顧問、慶應義塾大学特別招聘教授、中曽根平和研究所理事長を務めた。2022年、瑞宝大綬章受章。著書に「まだ間に合う 元駐米大使の置き土産』(講談社現代新書)。
失敗から「次」を生み出す力
藤崎
子どもたちに伝えたいのは、「どこに行っても困らないように、自分の手に職をつけること」の大切さですね。今の世の中に当てはめて言うならば、「英語なら任せてください」とか、「プログラミングのことなら誰にも負けません」といった人材なら、ほとんどの企業がその人をほしいと思いますよね。
どんな分野でも構わないので、そういう人材にならなきゃダメだと思うんです。「どこの大学を出て、どんな企業にいました」というだけでは、通用しない時代になったと理解すべきですね。
髙宮
日本の成長力が伸び悩んでいる理由の一つに、仕事の生産性の低さが挙げられます。その背景には終身雇用と年功序列があって、入社したら年次によって役職が上がり、本人の能力・実績に関係なく給料が上がっていく。かつてはうまくいっていた仕組みが、今は機能していないわけです。
組織というものにすがることなく、自分の力で先の道を切り拓いていく。本当にその通りだと思います。
藤崎
世の中はどんどん変わっていきます。今は若い人たちであっても、時代の激しい変化に常に対応し続けるのは大変なことです。時代はどんどん新しくなる一方で、自分はどんどん年を重ねていく。
だからこそ、若いうちに、自分自身にいかに投資するのかが大切なのです。若い人には、車やファッションなど身の回りのものにお金を使うよりも、自分に投資すべきですよと言っています。
髙宮
それは教育にとって、一番大事な観点ですね。ユダヤの方々が言っているように、「財産は奪えても、教育は奪えない」。まさにそれだと思います。
ところで、藤崎先生は映画「トップガン」はご覧になりましたか? 1986年に公開された「トップガン」のDVDにはメーキングの特典映像がついているのですが、その中で「この映画はベトナム戦争終結からまだ日が浅い時期に作られたので、仲間との別れが大きなテーマになっている」と解説されています。実際、映画の本編でも親友を失うシーンがあります。
ここからが非常にアメリカらしいと思うのですが、心の痛手を癒やす方法が描かれているのです。大事な思い出の品を箱に詰めていくことで、気持ちの整理をつけます。それを見ていて、率直に「すごいな」と感じました。米軍ではそこまでマニュアル化されているんだと。もう一つ感心したのが、エリートのバイロット養成学校である「トップガン」を首席で卒業すると、その「トップガン」の教官になるんですね。
藤崎
日本でも軍の学校の教官はエリートを使っていました。例えば、日露戦争で活躍した秋山真之さん。彼は海軍大学校の教官も務めました。しかし、日本の軍隊の場合、学科の成績重視で指導力や心のケアなどは重視しませんでした。そこは米軍と異なるように思います。
髙宮
私は別に米軍が好きなわけではないのですが、そこには、成長するためのエンジンのようなものが確実に存在しています。「失敗から確実に学んで、次の成功を生み出している」。その点が素直にすごいなと感じるわけです。
外務省時代の処世術
髙宮
藤崎先生は在職中、リーダーと会う機会も多かったと思いますが、日本の総理大臣とはどのように話していたのでしょうか。
藤崎
私が外務省の局長や外務審議官時代の話です。総理大臣にしばしば官邸でプリーフィング※をしていましたが、それとは別に、特別機で同行するときなど2、3人が呼ばれて、リラックスして一緒に食事をする機会がありました。
※ 手短に、簡潔な報告をすること
髙宮
そんなときの処世術について率直に質問なのですが、せっかくの機会だからと、普段の思いの丈をぶつけるのがいいのか、それとも「さようでございますね。特に問題ございません」と卒なく対処するのがいいのか。どちらなのでしょうか。
藤崎
中間ですね。本当に思いの丈を全てぶつけてしまうと、周囲の取り巻きの方々が「突然何を言い出すんだ」と思いかねませんからね。とはいえ、せっかくの機会に、聞き役に回って終わってしまうのでは残念です。「これはちょっとお耳に入れておいたほうがいい話だと思うんですが」と、伝えるべき点は伝えました。
髙宮
そこはやはり、0か1かの二者択一ではなく、バランス感覚が大切なんですね。ちなみに藤崎先生は、どのようなお話をされたんですか?
藤崎
いろいろなことがありすぎて、全てを記憶してはいませんが、小泉純一郎元総理とはよくお話をさせていただきましたね。
髙宮
これも半分、好奇心でお尋ねしますが、小泉元総理はそういうときにどのような感じでお話しされるのでしょうか。
藤崎
小泉さんは、食事の場ではあまり仕事の話をするタイプではありませんね。音楽のこととか、仕事以外の話題が多かったと記憶しています。
髙宮
とても興味深いです。
藤崎
そんなときには、話の腰を折って「実はですね」とこちらから仕事の話はせず、別の機会に譲りました。
髙宮
場の雰囲気をしっかりと読む必要があるのですね。
藤崎
それはもう、当然にあります。「あいつとはもう仕事したくない」などと思われては困りますからね。
信念を持ち続ける難しさ
藤崎
周囲の意見に安易に同調するのではなく、自分自身をしっかりと持つことが大事だという話ですが、今のお話を聞いていて、当時の全学連(全日本学生自治会総連合)の学生のことを思い出しました。
彼らの多くが、在学中は左翼的な言動をしていました。それが当時の学生の主流だったからです。しかし、卒業時には、そんな過去などまるでなかったように、大手の企業に就職する。社会ではそれが主流だからです。ある意味、非常に分かりやすいけれど信念がない人たちだなと思っていました。
髙宮
その文脈で言うと、同世代で信念を持ち続けているのは上野千鶴子先生(東京大学名誉教授)です。彼女は革命を信じて、バリケードの中で寝泊まりして、一緒に闘ったと。彼女は、そのスタンスを今も貫いているので敵も多い。しかし言葉の筋は通っています。男女平等という、ある意味では一つの「革命」のはずなのに、女性はおにぎり作りや拘置所への差し入れといった後方支援の仕事しかやらせてもらえない。そんなこともおっしゃっていましたね。
藤崎先生が感じておられる違和感と、女性という当事者として差別を受けてきた上野先生の抱えるそれは、同じようなものなのだと感じました。
高宮 敏郎
SAPIX YOZEMI GROUP共同代表
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