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財産総額3億円・地主の85歳男性「自分も長男だから、財産は長男に引き継ぎたい」…認知症の妻をめぐる“思わぬ誤算”【税理士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月22日 8時15分

財産総額3億円・地主の85歳男性「自分も長男だから、財産は長男に引き継ぎたい」…認知症の妻をめぐる“思わぬ誤算”【税理士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

相続は大切な財産を次の世代に引き継ぐ重要な過程ですが、特に認知症などで成年後見制度を利用している場合、慎重な準備が必要です。本記事では、税理士の大野紗代子氏が、元気なうちから相続対策を進めた事例を紹介し、相続税や遺言書作成の重要性、また家族にとって最適な相続を実現するためのポイントを解説します。

「認知症」と「成年後見制度」を踏まえた相続対策

「先祖から受け継いだ大切な財産を、次の世代へ確実に引き継ぎたい」と考える人は多いでしょう。その大切な財産を守り続けるためには、相続が発生する前にしっかりとした対策を講じることが非常に重要です。

特に、家族の中に認知症などで成年後見制度を利用している人がいる場合は、通常よりも慎重な配慮が求められることがあります。

今回は、元気なうちに綿密な準備を進められた坪井さん(85歳・仮名)の事例を紹介します。 

地主の長男、土地や不動産を含めて「総財産3億円以上」

坪井さんは、地主の長男として生まれ、愛知県内に多くの土地を持っています。現在は賃貸アパートを数棟所有し、不動産賃貸業を営んでいます。定年前には公務員をされていた、とてもきっちりとした真面目な方です。坪井さんの総財産は、土地や不動産を含めて約3億円以上に達すると見込まれています。

そんな坪井さんが、自分が亡くなったあとの相続税のことが気がかりでアドバイスが欲しいと私の事務所を訪れたのは、新緑がまぶしく輝く初夏のことでした。

詳しく伺うと、家族構成は奥様、長男、次男の3人。奥様は現在認知症を患い、成年後見人を立てて財産管理から諸々の手続きすべてを任せていて、施設に入所しているそうです。長男は結婚して、家族とともに坪井さんと同居しており、次男は東京で一人暮らしをしているとのことでした。

「私が亡くなったとき、どれほど相続税がかかるのか心配で。先祖から大切に引き継いできた土地を売らないと、税金が払えないなんてことにはなりたくないのだけれど、長男家族に負担をかけるわけにはいかないしね」

寡黙な坪井さんが、ぽつりぽつりと話してくれました。

「長男家族が一緒に住んで何かと手助けしてくれているから、ほとんどの財産を長男に引き継ぎたいと思っているんだよ。私自身も長男として生まれて、そのように親から財産を引き継いできたしね。昔ながらの考えだということは、重々承知だけどね」

財産の分け方については、明確なプランをお持ちでした。

「妻自身も一人娘で実家から引き継いだ財産があって、私が亡くなっても生活に心配はいらないし。それに、以前から家族に財産の分け方について話をしているから、次男も納得してくれているよ。次男は東京でのびのびやっているから、むしろ家のことを考えなくていいのはありがたいと言っていたよ」

遺言書の有無について尋ねると、「一度、信託銀行から営業があって、検討したのだけれど、家族が財産の分け方について理解してくれているから、改めて書く必要はないかと断ったんだよ」とお答えになりました。

遺言書がないとどうなる? 成年後見制度が生む“思わぬ壁”

坪井さんの現状がおおよそ把握できたところで、私は次のようなアドバイスをしました。 

  「遺言書がない今の状態で、坪井さんが亡くなると、奥様、長男さん、次男さんの3人で、誰がどの財産をどれだけ相続するか話し合う必要があります。これを法律用語では遺産分割協議と言います。奥様に成年後見人がついている坪井家の場合、成年後見人が奥様に代わって遺産分割協議を行います」

坪井さんは真剣な表情でうなずきながら聞いています。

「成年後見人には、被後見人(後見人の支援を受ける人。坪井家の場合は奥様)の財産や権利を守る義務があります。そのため、遺産分割協議では奥様の法定相続分である坪井さんの全財産の1/2を相続するよう主張します。この結果、坪井さんの希望である『長男さんにほとんどの財産を渡す』というご意向を実現するのが難しくなります」

「なるほど。ただ、私の相続では半分を妻に相続させて、その後、妻の相続で妻の財産のほとんどを長男に引き継がせるという流れにするのはどうだろう? 一度妻を経由しても、最終的に長男に財産が渡れば問題ないのだけれど。それに、配偶者は半分までは相続しても相続税がかからないと聞いたことがあるよ」

坪井さんは相続について知識をお持ちのようで、するどい質問をされました。

「その方法でも、結果的には長男さんに財産を引き継ぐことは可能ですが、相続税が高くなるリスクがあります。

奥様がすでに多くの財産をお持ちの場合、長男さんと次男さんは、坪井さんの相続時に相続税を払い、さらに奥様の相続時に、坪井さんから奥様が相続した財産が増えた状態でもう一度相続税を払う必要があります。

坪井さんの相続時には、配偶者の税額軽減という制度を使って相続税を軽減できますが、奥様の相続時には、相続人が2人になり、かつこの軽減制度が使えなくなります。そのため、トータルで見ると奥様が相続することで相続税が高額になる場合が少なくありません」

坪井さんは真剣な顔でノートにメモを取り始めました。

「坪井さんの相続と奥様の相続でトータルの相続税を安くするためには、まずはお二人の財産額を把握し、奥様にどれほど相続させるのが最も有利か検討する必要があります。 その割合がわかったら、それに基づいた内容で遺言書を作成されると良いでしょう」

「なるほど。成年後見人がついているからといって安易に妻に半分を相続させようとすると、損する可能性があるのか。早速、夫婦二人分の現状分析をお願いします。まずは私から必要な資料を準備して送るよ」

坪井さんはやるべきことが明確になったことで、顔つきが引き締まり、足早に帰って行きました。

相続税を最小化する「最適な遺言書」を作成

資料が届き、すぐに坪井さんご夫婦の相続税の試算を行ったところ、奥様には坪井さんの全財産の1/4ほどを相続させることが、2回分の相続税の合計を最も安く抑える方法であることが判明しました。その結果を坪井さんにご連絡すると、「ありがとう! 早速それを踏まえて遺言書を作成するよ」というお返事をいただきました。

それからしばらく経ち、太陽がぎらぎらと照りつける真夏の空の下、坪井さんと私たちは公証役場に向かい、遺言書を作成しました。

「私たち家族にとって最善な内容で遺言書を作ることができて、本当に嬉しいよ」と、寡黙な坪井さんも安心した様子で微笑みながら、迎えに来ていた長男さんの車で帰っていきました。

自分が亡くなった後、これまで築き上げてきた大切な財産を誰に引き継ぐのかを事前に決めておくことは非常に重要です。特に、相続税や成年後見制度が絡む場合には、より慎重な判断が求められます。

先祖から受け継いだ大切な財産を守るためには、相続が発生する前にしっかりと準備を整え、家族にとって最適な形で相続を進められるよう備えておくことの重要性を、改めて実感させられる事例となりました。

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