なにかの間違いでは…定年後「退職金と貯金」で〈3,800万円のマイホーム〉を買った60歳夫婦“幸せな老後”が一瞬で終了。税務署から〈約700万円の納税〉を命じられたワケ【税理士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月12日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
長年「社宅」で過ごしたとある夫婦は、定年後の住まいについて考えた末、コツコツ貯めた貯金と退職金で「マイホーム」を購入することにしました。はじめての持ち家に浮かれる2人でしたが、その幸せは税務署から届いた“1通の封書”により、一瞬で崩れ去ってしまったのでした。宮路幸人税理士/CFPが具体的な事例をもとに、自宅購入時の注意点と税負担を抑えるためのポイントを紹介します。
長年社宅住まいの夫婦…定年を機に“憧れのマイホーム”を購入
修さん(60歳・仮名)には、同い年で専業主婦の妻、由美子さん(60歳・仮名)がいます。夫婦には2人の子どもがいるものの、33歳の長女と30歳の長男はどちらもすでに結婚して家庭を持っているため、現在は夫婦2人暮らしです。
修さんは全国転勤のある企業に勤めていたことから、住まいは長年借り上げ社宅でした。
修さん自身はマイホームへのこだわりがなく、定年後に社宅を出ても賃貸で暮らしていくつもりでいましたが、由美子さんには「いつか持ち家が欲しい」という野望がありました。そのため由美子さんは社宅暮らしで浮いた家賃を「住宅購入費」として密かに積み立てていたそうです。
定年が近づくなかで今後の住まいについて話し合っていると、由美子さんは次のように言いました。
「知り合いから聞いた話なんだけど……私たちぐらいの年齢になると、アパートやマンションが借りづらくなっているんですって。家主が亡くなって事故物件になるのを嫌がる大家さんが多いみたいで……。だから、どうせなら持ち家にしましょうよ! 2人で住むならそんなに広くなくていいんだし、きれいな家に住みたいわ」
(この年で持ち家か……)
由美子さんの話を聞いた修さんは、当初あまり乗り気ではありませんでした。しかし、由美子さんの話が気になりインターネットで調べてみると、たしかに年をとればとるほど家を借りにくくなるというのは事実のようです。また、配偶者に先立たれて1人になった場合は、さらに借りにくくなることもわかりました。
「なるほどな……不安を抱えながら賃貸で暮らすよりも、持ち家のほうがなにかと安心かもな」
妻の熱意に圧される部分はありながらも、修さん自身マイホームに惹かれはじめていました。
その後「実はね……」と、由美子さんから住宅購入貯金の存在を知らされたのでした。
「家計管理を任されていたでしょ? 私、マイホームを買うのが夢だったから、貯めていたの」
堅実な修さんがマイホームの購入を決断した“決め手”
由美子さんの話によると、貯まった住宅購入資金は約2,000万円。修さんの退職金とあわせると、夫婦の預貯金は5,000万円ほどになることがわかりました。
金銭的な余裕も確認できて安心した修さんは、定年後65歳まで再雇用を受けられることもあり、ついにマイホームの購入を決断したのでした。
夫婦で話し合った結果、なにかあったときのために最低1,000万円は残しておきたいと考え、4,000万円以内で物件を探すことにしました。知り合いに相談したり、いくつかの不動産会社に掛け合ったりとマイホーム探しに奔走した末、ついに3,800万円で理想的な物件を見つけました。
「ついに念願のマイホームね!」積年の望みが叶い、由美子さんの喜びもひとしお。引っ越しにより娘家族の住まいとも距離が近くなり、孫にも会いやすくなりました。
「これからは家賃の心配もないし、老後は安泰だな。貯金も残っているから給料は好きに使っちゃおう! まずは孫に貢いで好感度アップだ」
人生初の持ち家に浮かれる修さん・由美子さん夫妻。ここから幸せなセカンドライフがスタートするはずでした。
ある日、税務署から“お尋ね”が…
しかし、住宅を購入してからしばらく経ったある日、自宅に“1通の封書”が届きました。差出人は税務署です。
開けてみると、「お買いになった資産の買入価額などについてのお尋ね(以下、お尋ね)」と書かれています。
この「お尋ね」では、不動産を購入した人物の年収や借入状況のほか、購入資金の調達方法(親などから贈与を受けたのか、あるいはどこかから借り入れたのかなど)についても確認されます。
購入した住宅3,800万円の内訳は、由美子さんが貯めていた預金2,000万円と、修さんの退職金1,800万円です。支払った金額に応じて所有権登記を行いました。
修さんは「不動産を買うと、こういうのが届くんだな」と、特になにも考えず、上記の内容を記入して税務署に返送しました。
このお尋ねに回答せず放置しておくと、督促状が送られてくるほか、この督促状への無視を続けていると税務調査に入られる可能性があります。
お尋ねにすぐ対応した修さんは、「これでひと安心だ」と思っていました。しかし……。
なにかの間違いでは?…税務署からの「納税命令」に呆然
修さんが「お尋ね」を返送した後、しばらくして税務署から電話がかかってきました。
税務署「お送りいただいた『お尋ね』についてお伺いしたいのですが」
修さん「はい。なにかありましたか?」
税務署「不動産購入にあてた奥さまの預金2,000万円ですが、これは修さまの『名義預金』にあたります。つまり、修さまから奥さまに贈与したことになるため、贈与税の申告が必要です」
修さん「は? いやいや、なにをワケのわからないことを。なにかの間違いでは?」
2,000万円に対する贈与税は、2,000万円-110万円=1,890万円×50%-250万円=695万円。なんと、695万円もの贈与税の支払いが必要になるというのです。
自身の名義で積み立てたのに…妻の預金が認められなかったワケ
ではなぜ、修さん夫婦は多額の贈与税を支払うハメになったのでしょうか?
由美子さんは住宅購入のため「自分の名義」で預金通帳を作り、その通帳にお金を積み立てていました。しかし由美子さんは専業主婦であり、給与収入はありません。よって、お金の“出どころ”が修さんのものである以上、由美子さんの資産とは認められないのです。
税務署からすると、名義が妻・由美子さんであっても、この預金はあくまでこのお金を得るために働いた修さんのものということになります。
したがって、建物の登記名義分2,000万円は、修さんから由美子さんに対する贈与であると指摘されてしまいました。
「おしどり贈与」を知っていれば非課税だった
では、どうすれば修さん夫婦は多額の贈与税負担を避けることができたのでしょうか? 主に、下記の2つの方法が考えられます。
1.「暦年贈与」を利用する
たとえば、修さんが年110万円の範囲内で由美子さんの通帳に振り込むなど、贈与税の基礎控除内で客観的に「贈与」と認められる方法をとっていれば、税負担を抑えることができました。
2.「おしどり贈与(夫婦間贈与)の特例」を利用する
おしどり贈与の特例とは、「結婚から20年経過している夫婦であれば、すでにある自宅の権利を2,000万円分贈与するか、これから購入する自宅の購入資金2,000万円を贈与しても贈与税を課税しない」というものです。
この特例を受けるための要件は主に下記となります。
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎたあとに贈与が行われたこと
- 配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。
※ 国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」より。
注1) 「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地もしくは土地の上に存する権利または家屋で国内にあるものをいいます。
注2) 配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に1度しか適用を受けることができません。
修さん・由美子さん夫妻は上記要件に当てはまっているため、特例を利用すれば贈与税はかかりませんでした。
ただし、この特例は相続税における「小規模宅地の特例」が使えなくなる、不動産取得税や登録免許税が高くなるなどのデメリットもあるため、適用の際は専門家に相談のうえ、総合的に判断されることをおすすめします。
マイホーム購入時は専門家を入れておくと安全
このように、住宅などの高額な資産を購入する場合は、のちのち発生する贈与税や相続税に注意が必要です。
不動産登記を行うと、今回のような「お尋ね」が税務署から届きます。また、住宅を購入しなかったとしても、修さんが亡くなった場合、今回の住宅購入貯金は「名義預金」として、相続税の課税対象となります。
高額財産を取得する場合、その支払い方や登記名義の按分などによっては贈与を指摘される恐れがあります。自宅などの高額財産を購入する予定の人は、こうしたトラブルを未然に防ぐため、専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。
宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所
税理士/CFP
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