痺れを切らした経営者「解雇したい」…遅刻常習犯の“問題社員”を円満退社させるには?違法と判断されると給料6ヵ月分超の賠償も【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月28日 14時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
会社に不利益をもたらす存在である、問題社員。いくら会社に悪影響があったとしても、安易に解雇すると違法と判定され、かえって金銭を支払わなければならないリスクがあります。そこで今回は、ココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービスによせられた質問をもとに、問題社員に対する正しい対応手順について、西明優貴弁護士が解説します。
「問題社員」とは?
問題社員について一般的な特徴と問題行動の例を踏まえて考えていきます。問題社員については定義が困難です。争いのないものでいうと、たとえば、以下のような社員を指すと考えられます。
1. 勤務態度不良や業務命令に違反をする。
2. 職場内外・私生活上で不正行為をする。
ここで注意点があります。会社にとって問題社員だとしても、客観的に問題社員といえるか否かは別問題ということです。
(例)
・IT導入に反対する社員
・ハラスメント・メンタルヘルスを過剰に訴える社員
・年齢や職歴に応じてITリテラシーが不足している社員
など
こうした社員は会社にとって問題かもしれません。しかし、それが客観的に問題といえるか否かについては一歩立ち止まって考える必要があります。
問題社員の影響について
問題社員による悪影響として以下のようなものが考えられます。
1. チームの生産性を低下させる
2. 周囲の労働環境を劣悪にさせる
3. お客様からの評判を落とす
問題社員への間違った対処例
いきなり解雇する
驚くかもしれませんが、解雇するのがよいと判断する経営者は現実に存在します。実際に、職務命令違反、不正行為、勤務態度・成績不良など、就業規則の解雇原因に該当するとして解雇を実施するという事例があります。
しかし解雇には、裁判所ないしは法的観点から考えた場合に違法無効になるリスクがあります。たとえば、社員の勤務成績の不良について、裁判所は、職種や業務内容を特定しないで採用された従業員について、能力不足該当性を非常に厳格に判断します。その結果、解雇が違法無効になってしまうと、最低でも給料数ヵ月分の金銭6ヵ月分以上の金銭を支払わなければならないという可能性が出てきます。
説明・協議・フォローアップ等の機会を設けない
問題社員対応の背景にはメンタルヘルスが潜んでいる事案が近ごろよくみられています。メンタルヘルスの治療終了時期は明確でないため、会社としての判断過程・手続きについて、説明・協議・フォローアップ等の機会を設けるなど、慎重さが求められると言えるでしょう。
この場合、行政では以下のような行動手引き規範を示しています※。
「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
これらには、具体的なアクションプランが明示されています。参考にするとよいでしょう。
問題社員に対する正しい対応手順
1.問題類型の把握と整理
問題社員に対応するには、まず、問題類型を把握、整理します。そして、問題社員はどの類型に当てはまるのかというのを考えることが重要です。弁護士の立場から類型を整理してみると、以下のようなものが挙げられます。
・勤務態度不良
・金銭面の不正行為
・職場内外、私生活上の不正行為
・人事異動、人事考課、懲戒への抵抗
・情報漏洩
・競業避止、引き抜き
・メンタルヘルス
・ハラスメント
・IT関係への導入反対と反抗
このようにさまざまな類型が存在するため、一般論を振りかざすのではなく、1つひとつの事案に向き合って、問題社員はどの類型に当てはまり、どういった点が特殊事案なのかという点を考える必要があります。
2. 改善命令と退職勧奨
次に事案に応じて、改善命令等の命令と退職干渉について、その順番を考えましょう。改善命令と退職干渉の順番には、大きく以下の3つのケースがあります。
・改善命令をしてから退職勧奨を行うケース
・改善命令と退職干渉が同時並行するケース
・改善命令を飛ばして退職勧奨になるケース
そもそも退職勧奨とは、従業員による自発的な辞職ないし合意退職を求めるもの。弁護士の観点から見た、経営者が退職勧奨をする理由は、「解雇の法規制から逃れられる」や「解雇と比較して解決金が少なくなる可能性がある」などのメリットがあるためです。
例として、解雇が違法無効になった場合の金銭については給与6ヵ月以上を支払う可能性があります。他方、退職勧奨の場合には、給与2ヵ月分相当額と、会社が支払うべき金銭は3分の1に収まる可能性があります。ただし、退職干渉もまた違法になる場合がありますので、退職勧奨さえすれば問題ないという安易な考え方には十分な注意が必要です。
続いて、具体的な事例をもとに問題社員に対する適切な対応方法について考えていきます。
具体的な事例
対応例(1)
事案:遅刻を繰り返す社員
問題類型:勤務態度不良
対応:注意・指導する(証拠に残す)
注意・指導しても改善しない場合には懲戒処分も検討する
この場合、改善命令を出し、かつ、改善命令を書面などで証拠に残すことが重要です。注意指導しても改善しない場合には懲戒処分も検討する必要があるでしょう。
対応例(2)
事案:顧客名簿等の営業秘密を売却して利益を得た社員
問題類型:金銭面の不正行為
対応:懲戒処分(あるいは懲戒解雇)
退職勧奨
事案の重大性によっては、不正競争防止法による刑事告訴
このような事案では改善指導を飛ばしていきなり懲戒処分、あるいは懲戒処分で最も重い「懲戒解雇」を検討することもあります。ただし本事案のような場合には、営業秘密を売却し利益を得たなど、一定の行為について客観的裏付けが取れないというケースもあります。そのため、並行して退職勧奨を行い、速やかにこの紛争を終わらせることも考えておくとよいでしょう。また、事案の重大性によっては、民事だけではなく刑事告訴も考える必要があります。
対応例(3)
事案:社員間で金銭の貸し借り→トラブル発生
問題類型:職場外・私生活上の不正行為
対応:〈原則〉本事案は個人の自由であり、会社が関与すべきものではない
〈例外〉貸し借りの状況や双方の協議の経緯・内容によっては懲戒処分
退職勧奨
社外の行動というのは個人の自由であるため、会社が関与すべきものではありません。ただし、貸し借りの状況や双方の協議の経緯によっては、会社の労働環境に悪影響がおよぶ場合には懲戒処分を検討することもあるかもしれません。また、退職勧奨を行うこともあり得るでしょう。
安易な解雇はしない、慎重な対応を
今回は、企業における問題社員への対応について、具体的な事例を交えながら解説しました。問題社員の定義は一様ではありませんが、客観的に問題といえるかどうかは慎重な判断が必要です。
問題社員は、チームの生産性低下、職場環境の悪化、顧客からの評判低下など、企業にさまざまな悪影響をおよぼします。しかし、安易な解雇は法的リスクを伴い、かえって企業に大きな損害を与える可能性があります。また、十分な説明や協議、フォローアップを欠いた対応は、問題の根本的な解決を妨げるだけでなく、さらなるトラブルを招く恐れも。そのため、問題類型の整理と把握をしたうえで、どのような処分やアクションが会社として適切なのかを考え、実務家に相談することをお勧めします。
〈参考〉
※
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00005.html
労働者の心の健康の保持増進のための指針
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153859.pdf
西明 優貴 弁護士
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