どうすんのこれ…亡夫が母親から相続した土地は原野商法で購入した那須の山林60坪…残された63歳女性が〈昭和の負の遺産〉を前に呆然としたワケ【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月9日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
不要な土地や役割を終えた土地は、処分するのが妥当ですが、道路がないなどの理由で売却が難しい場合があります。こうした土地は、国庫帰属制度でも救済されないため、処分に困ることになります。本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、できる対策について詳しく解説します。
青子さんの場合 亡夫の母親が買わされた那須の土地
青子さん(63歳女性)は夫を亡くして相続手続きが必要だと相談に来られました。相続人は配偶者の青子さんと息子2人で、遺産分割に問題はないのですが、唯一の不安材料があるといいます。
それは亡夫が母親から相続した土地で原野商法(値上がりの見込みがほとんどないような山林や原野について『将来高値で売れる』などと勧誘して不当に買わせるもの)で騙され購入した那須にある60坪の山林です。亡夫の生前にも調べたといいますが、未接道で隣地との境界が不明のため、売却も、国庫帰属もできない状態です。(知り合いの不動産会社や那須の不動産会社、宇都宮法務局に確認済み)
幸い、管理費も固定資産税も不要なので、維持費はかかりませんが、本当は相続したくない土地です。それでも今回、夫が亡くなったため、登記をしなくてはならないので、自分の死後、子どもたちに禍根を残さないようにしたいと思っているとのこと。子どもたちから「お母さんではなく、子や孫が相続すれば、登記費用を1回分なり節約できるかな?」と聞かれているので、そうしたことができるかというご質問でした。
それに対する回答は、「那須の土地を相続できるのは、亡夫の配偶者と2人の子どもたちのいずれか。今回の相続人を飛ばしていきなり、お孫さんにすることはできません。これからできる選択肢は、青子さんが相続して遺言書で孫に遺贈、あるいは子どもが相続してその子(孫)に相続するか、このいずれかになります。
いずれにしても、自分は相続したくない土地で、売却も、国庫に帰属させることも難しく、本当はいらない土地だといいます。
英樹さんの場合 昭和46年に母親が購入した故郷の土地
英樹さん(54歳男性)の場合は、父親から相続した生まれ故郷にある土地です。英樹さんは大学時代から故郷を離れて生活しており、実家は兄が継いでいます。父親が亡くなったとき、母親と兄から、実家の土地を分けることはできないので、父親が買っていた近くの土地を相続したらと勧められて、自分の名義にしました。
しかし、仕事の関係で故郷には戻らず、結婚して子どもができてからは、会社に通いやすいところに家を購入して生活しています。妻も子どもも、英樹さんの故郷には家族で帰省する際に訪れる程度で生活したことはありません。
英樹さんは母親の相続の際に兄と遺産分割協議で苦労したことがあり、そろそろ自分の相続準備として遺言書を作成しておこうと相談に来られました。
自分の財産はシンプルで、自宅は妻に、預金や株などの金融資産は法定割合にすると決めましたので、公正証書遺言の原稿もできあがりました。
しかし、ここで課題になったのは、父親から相続した故郷にある土地です。45坪の山林で、名義替えの費用は掛かりましたが、それ以後、固定資産税の請求もなく、払ったことがありません。
登記簿から推測すると、父親は昭和40年代に買っていますので、値上がりするという期待を持っていたのかもしれませんが、実家から離れた山間のようで、英樹さん自身もよく場所がわからない状況。妻に聞いてもいらないといいます。
英樹さんからは、国庫帰属制度を利用して、妻子には残さないようにしたいという相談でした。
売れる土地であれば、自分で処分しておきましょうとアドバイスしたいところですが、住宅地図や公図などで位置関係を調べてみると、公道に接道しておらず、整地もされていない山林のよう。これでは売却も、国庫に帰属もできないという判断になりました。
雄平さんの場合 親が亡くなって相続しないといけない空き家の実家
雄平さん(63歳男性)が相談に来られたのは、父親が亡くなり、故郷の土地があるため、処分をしてきょうだいで分けたいということで、売るためにはどうすればいいかということでした。
登記簿や公図で場所確認はでき、現地の様子も確認できました。雄平さんの父親の実家は今は解体されておらず、隣接の畑も合わせると150坪の土地は雑木林となっています。建物を解体したのが3年前、父親が亡くなったのが昨年。
昨年までは父親が固定資産税を払っていましたが、今年からは相続人が負担をしなければなりません。建物を解体した結果、更地になった固定資産税は今までの6倍となりましたので、住んでもなく、使ってもいない父親の実家の土地に、年額8万円の固定資産税がかかるようになりました。
相続人は2人で、父親の不動産と預金とでは基礎控除内で相続税の申告は不要ですが、相続の仕方を決めないと相続手続きが進みません。
ネックとなるのが実家の土地で、宅地と農地は一体なのですが、雑木林の現状を見ると買い手がつきません。宅地の林の伐根伐採の費用がネックなのであれば、必要経費を雄平さんが負担することで売却を進めたいとも考え始めたということですが、それでも売れるか不明な奥まった立地のため、難航している状況です。
相続土地国庫帰属制度とは
1. 制度のポイント
(1)相続等によって、土地の所有権又は共有持分を取得した者等は、法務大臣に対して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて、承認を申請することができます。
(2)法務大臣は、承認の審査をするために必要と判断したときは、その職員に調査をさせることができます。
(3)法務大臣は、承認申請された土地が、通常の管理や処分をするよりも多くの費用や労力がかかる土地として法令に規定されたものに当たらないと判断したときは、土地の所有権の国庫への帰属について承認をします。(「4. 引き取ることができない土地」を参照)
(4)土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けた方が、一定の負担金を国に納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属します。
2.申請ができる人
相続又は相続人に対する遺贈(以下「相続等」といいます。)によって土地を取得した方が申請可能です。
相続等以外の原因(売買など)により自ら土地を取得した方や、相続等により土地を取得することができない法人は、基本的に本制度を利用することはできません。相続等により、土地の共有持分を取得した共有者は、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を利用することができます。
土地の共有持分を相続等以外の原因により取得した共有者(例:売買により共有持分を取得した共有者)がいる場合であっても、相続等により共有持分を取得した共有者がいるときは、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を利用することができます。本制度開始(令和5年4月27日)より前に相続等によって取得した土地についても、本制度の対象となります。
たとえば、数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります。
3. 申請先・相談先について
申請先は、帰属の承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)となります。
法務局・地方法務局の支局・出張所では、承認申請の受付はできませんのでご注意ください。全国の法務局・地方法務局において、制度の利用に関する相談を受け付けています。
4. 引き取ることができない土地
国が引き取ることができない土地の要件については、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号。以下「法」といいます。)において定められています。(※)
【引き取ることができない土地の要件の概要】
(1)申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)
A 建物がある土地
B 担保権や使用収益権が設定されている土地
C 他人の利用が予定されている土地
D 土壌汚染されている土地
E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(2)承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)
A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
国庫帰属制度でも救済されない土地が多い
土地神話があった昭和40年~60年ころの日本は成長期でしたので、とにかく土地が財産で、値上がりするという期待値がありました。日本中で、原野を切り売りして売り、それを買う人がいた時代でした。そうした昭和の産物という原野商法で買われた土地は利用することもなく、利用できない土地もあり、もう売却もできない実態が多くあります。
事例の青子さん、英樹さんは不要な土地で、雄平さんも役割を終えた土地ですので、処分が妥当。けれども道路がないなどの状況で売れない土地もあります。この場合、国庫帰属制度では申請できない土地となり、可能性はありません。隣接地に買ってもらう、贈与する、一緒に処分するなど、できる方法で処分して、次世代に負担がかからないようにすることが望ましいと言えます。
<参照>
(※)相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件 法務省
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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