冬はやっぱり温泉だよなぁ!…箱根大好きな75歳ワンマン社長、会社は赤字も“総額100万円の社員旅行”へ→数ヵ月後、税務署から告げられた「追徴課税500万円」に悲鳴【税理士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月19日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
税務調査は「儲かっている会社」に入るイメージですが、実際には“あえて”赤字の会社が狙われる可能性もあります。具体的な税務調査の事例をもとに、調査でチェックされるポイントをみていきましょう。宮路幸人税理士/CFPが解説します。
“昭和スタイル”で会社を育てたワンマン社長のAさん
75歳のAさんは、建設会社B社の社長を務めています。学生時代に“番長”として地域の学校を束ねていたAさんは、高校を中退して建設会社に就職した後、30歳で独立。学生時代からの人脈を存分に活用しながら、一代で会社を大きくしました。
B社はその地域で最大規模を誇る建設会社ですが、そのやり口は“昭和スタイル”。少々押しが強く、飛び込み営業や、会食・接待といった“飲みニケーション”で顧客を獲得してきました。
Aさんは「会社は長男に継がせたい」「家族に良い思いをさせたい」「儲けを他人に渡したくない」という考えがあり、息子を専務に、妻を経理部長に、娘を総務部長に置くなど、経営陣を身内で固めています。
しかし、Aさんの家族はみな、少々癖のある人ばかりでした。
特に、専務の長男は「お前は将来社長になる。お金は好きなだけ出すから、就職までは好きに生きろ」と自由奔放に育てられたため、世間知らずかつ異様にプライドが高く、他の社員が長男のミスを指摘しても「それ、僕のせいかなあ?」と非を認めようとしません。
経営手腕はあるもののワンマンな社長や、業務の邪魔でしかない無能な長男に対して不満を募らせる社員も多く、離職が相次ぎ、定着率はあまり高くありませんでした。
とはいえ、売上は相変わらずその地域で最大規模を誇るB社。しかし近年、そんなB社に不思議な事態が起きています。以前は潤沢にあった会社の「純利益」が、近年は売上を考えると不自然なほどに少なく、“ほんのわずか”な赤字に計上されているのです。
経営不振?はお構いなし…Aさんは総額100万円の“社員旅行”へ
「赤字企業」であるはずのB社ですが、Aさん一家は今年も年末年始恒例の“社員旅行”のため、箱根に出かけました。
社員旅行といっても、参加者はAさんを含めた家族4人だけ。豪華な客室と貸し切り風呂で疲れを癒し、「冬はやっぱり温泉だよな~」とご満悦のAさんです。3泊4日で使った金額は、合計100万円にのぼりました。
“社員旅行”の数ヵ月後…税務署から来た「1本の電話」
正月休みも明けてすっかり通常業務に戻ったころ、B社に税務署から連絡が。「税務調査に伺いたい」とのこと。
税務調査にネガティブなイメージを持つAさんは、これに反発。
「大して利益も出ていない会社に、どうして税務調査なんか来るんだ。他にもっと儲かっているところがあるだろう! そっちに行ったらどうなんだ!」
しかし、「いえいえ、御社のような売上の大きい法人には、定期的に税務調査に伺っておりまして……。そこをなんとか、お願いします」と低姿勢で懇願する職員に、最終的にはAさんが折れます。
「こっちも忙しいんだから、さっさと済ませてくれよ!」
税務調査の結果…B社に課された「追徴税500万円」
数日後、2名の調査官がB社にやってきました。社長の経歴や会社の概要について、世間話を交えながら、だんだんと質問内容が核心に近づいていきます。
調査官「お正月の社員旅行というのは、親族だけで行かれたのですか?」
Aさん「あぁ、そうだよ。だけど、わが社の大切な社員だからな。それに、正月休みに他の従業員を無理に参加させるのは良くないだろう?」
調査官「なるほど、そうでしたか。では、他の従業員の給与水準と比べて、専務の息子さん、経理部長の奥様、総務部長の娘さんに支払っている給与額が驚くほど高いのですが、これはどうしてでしょう? それぞれの業務内容について教えていただけますか?」
Aさん「給与額は、働きぶりを見て私が決めている。うちの家族はみんな優秀でよく働いてくれるからな! なんだよ、なんか問題でもあんのか?」
調査官「先ほど、御社の従業員の方にご家族の業務内容を確認したところ、最近ではみなさんあまり会社でお見かけしないようですね。普段どんな仕事をされているのかもよくわからないそうで……」
Aさん「は、はぁ!? 誰だそんなデタラメを言っているやつは! ここに連れてこい!」
調査官「それはできかねます。ともかく、ご家族に対する給与のうち明らかに高額な部分は経費として認められませんので、修正申告をお願いします。また、Aさんがおっしゃる“社員旅行”についてですが、身内以外の従業員の方がどなたも参加されていないようであれば、それは社員旅行としては認められませんので、こちらも修正が必要です」
結局、法人税と所得税、消費税に加算税と延滞税を加えて、合計約500万円の追徴税を課されることとなったAさん。調査官の指摘に対する怒りが収まりません。
「ふざけるな! 赤字企業のうちにそんな金はない! この会社を潰す気か!? この地域でうちが潰れたら、どうなるかわかってんだろうな!」
と、Aさんは悲鳴とも恫喝ともとれる反論をします。しかし、調査官に「赤字企業といっても、経費を過大計上してあえて赤字にしているのではないですか? 適正な申告と納税をお願いします」と冷静に返されてしまいました。
税務調査は“赤字”の会社にも行われる
赤字だからといって、必ずしも業績が悪いとは限りません。帳簿上は赤字であっても、適正額をはるかに超えた給与額を設定していたり、多額の経費を計上することで赤字にしたりする会社も少なくないのです。
そのため、税務調査は黒字の法人だけに行くわけではありません。売上が順調に伸びているのに赤字になっている場合や、交際費や外注費などの金額が同業他社と比べて大きい場合など、申告内容に不審な点がある場合は調査に入られやすくなります。
「内部告発」が税務調査のきっかけになることも
今回、Aさんの会社に税務調査が入ったのは、従業員の「内部告発」がきっかけでした。
一生懸命働く従業員の待遇は考慮せず、実際にはほとんど出勤していない身内に対する給与が極端に高額であったために、従業員の不満がたまり、告発されてしまったのです。
国税庁の公式サイトには「課税・徴収漏れに関する情報の提供」というコーナーがあり、広く一般からの情報提供を呼びかけています。
内部告発が必ず税務調査につながるわけではありませんが、従業員という会社内部からの告発は信憑性があるため、情報提供が税務調査につながることもあります。
なお、この際、税務署には守秘義務があるため、調査を行った会社に対して「従業員からの告発があったため税務調査に伺いました」と伝えるようなことはもちろんありません。
「クリーンな経営」と「クリーンな税務申告」が自分と会社を守る
ワンマン経営の企業の場合、社長の個人的な考えに基づいて経費計上されているケースが実務上多く見受けられます。
今回のB社のように、税務調査によって経費が否認された場合、法人税のほか本来の納期限から遅れて支払ったことによる延滞税、少なく申告したことに対するペナルティとしての過少申告加算税が課せられます。
偽装や隠ぺいなど、悪質な脱税行為であると判断された場合は、過少申告加算税に替え重加算税という重いペナルティを課されることもあります。
適正な申告と納税だけでなく、経営者としては従業員のやる気を削ぐことのないよう、健全な経営を行うことが肝要です。
宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所
税理士/CFP
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