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年金月33万円で“余裕の老後”のはずが…60代仲良し夫婦〈年金ルール〉知らず、想定外の減額に絶望「年金繰下げなんてしなきゃよかった」【CFPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月21日 11時15分

年金月33万円で“余裕の老後”のはずが…60代仲良し夫婦〈年金ルール〉知らず、想定外の減額に絶望「年金繰下げなんてしなきゃよかった」【CFPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

年金の繰下げ受給を選択した結果、70歳以降「月33万円」の年金がもらえるとわかり、思い切り“悠々自適な暮らし”を楽しんでいたある夫婦。しかし、年金事務所で提示された“実際の年金受給額”に愕然としてしまいました。いったいなにがあったのか、年金の繰下げ受給で見落としがちな「盲点」について詳しくみていきましょう。ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が解説します。

老後を思い切り楽しみたい…年金の「繰下げ受給」を選択した夫婦

水島良樹さん(65歳・仮名)と妻の富美子さん(65歳・仮名)は、駅から徒歩5分圏内にある賃貸住宅で2人暮らしをしています。長年飲料メーカーの営業職として勤めてきた良樹さんは、今年65歳を迎え、晴れて定年を迎えることとなりました。

退職金として1,200万円を受け取り、これまでの貯金300万円を合わせると総資産は1,500万円です。

妻の富美子さんは、専業主婦として家庭を守りながら2人の息子を育て上げました。息子たちもいまでは独立し、同じ県内でそれぞれ家庭を築いています。

水島さん夫婦は、退職後の暮らしについて考えた際、ある重要な決断をしました。年金の受給額を最大化するために、「繰下げ受給」を選択することにしたのです。

良樹さんは、ねんきん定期便やネット上の記事などを通じて、「年金繰下げ受給を選択すれば、年金を1ヵ月繰り下げるごとに0.7%増額される」ことを知りました。また「70歳まで受給を遅らせれば、42%増額した年金を受け取れる」ともあります。

60代に入っても健康そのもので、長生き志向だった2人は、定年後にやりたいことが山のようにあります。また、幸運なことに良樹さんはいまの職場で70歳まで月額53万円での雇用が決まっており、これも決断の後押しとなりました。

良樹さんが65歳時点で受け取れる年金額は、老齢基礎年金が月6万円、老齢厚生年金が月13万円の合計19万円。一方の富美子さんは、老齢基礎年金として月5万円を受け取れる予定です。

「年も取ったし、今後なにがあるかわからない」と考えた良樹さんと富美子さんは話し合った末、お互いの老齢基礎年金は予定どおり65歳から受給を開始し、良樹さんの老齢厚生年金についてのみ、70歳まで繰り下げることにしました。

良樹さんが試算したところ、月13万円の厚生年金は70歳に到達した時点で18万4,600円まで増額され、老齢基礎年金6万円と合わせて月25万円近くの収入が見込めます。さらに、富美子さんの老齢基礎年金5万円を加えると、夫婦で月30万円を超える計算です。

加えて、70歳まで引き続き厚生年金に加入するため、その分も加算されて、月に33万円程度の年金を受け取れるだろうという結果が出ました。

「70歳以降も月33万円で生活できるのであれば、だいぶ安心だな。貯金も大きく減る心配はないし、思う存分老後を楽しめそうだ」

良樹さんと富美子さんは悠々自適な老後生活をスタートさせました。

海外旅行、高級車でのドライブ…思い切り老後を楽しむ2人

退職金と貯金を合わせて1,500万円の資産があり、さらに月額53万円の給与と2人の老齢基礎年金があるおかげで、65歳の定年を迎えて以降も、2人はなんの経済的不安もありません。夫婦は現役時代と変わらない自由で充実した日々を送っていました。

良樹さんの趣味は旅行とドライブです。退職金が振り込まれたその月、夫婦は念願だった海外旅行に出かけました。

「せっかくだから贅沢しよう」と豪華なホテルを予約し、現地の名産品に舌鼓を打ちます。旅行した10日間は、2人にとって最高の思い出となりました。

海外旅行から帰国すると、良樹さんは次の“ご褒美計画”を立てました。それは、長年頑張ってきた自分への贈り物として、新車を購入することです。

趣味のドライブをさらに楽しむため、良樹さんは600万円の高級車を購入。ピカピカで広々とした新しい車に乗って、夫婦で各地の温泉を巡ったり、田舎道をのんびり走ったりと、週末のドライブがさらに豊かな時間になりました。

また、定年後は2人の息子家族を連れて国内外の旅行に出かける機会も増えました。

「せっかくの家族旅行だし、子どもたちには負担をかけたくない」と、費用はすべて良樹さんが負担。息子たちは「いやいや、ここまで育ててくれたんだから、俺たちに出させてよ」と提案しましたが、良樹さんは頑なです。息子たちは良樹さんの思いに打たれ、ますます家族の絆が深まっていきました。

しかし、こうした支出を続けた結果、65歳時点で1,500万円あった資産は、5年後には500万円にまで減少。

それでも、良樹さんは「これくらいの資産減少なら大丈夫。70歳からは月に33万円程度の年金を受け取れるし、そこから生活費を抑えれば問題ないだろう」と楽観的に考えていました。

繰下げ受給で「月33万円」のはずが…年金額は「月25万円」に

その後、良樹さんは70歳を迎えました。これまで勤め続けた会社を退職し、いよいよ年金生活が始まります。

「5年間待ったんだ。これからも繰り下げた年金で暮らしは安泰だな」

期待を胸に抱き、翌月から受け取れる年金額を確認しようと、軽い足取りで年金事務所を訪れました。しかし……。

良樹さんは、年金事務所から提示された年金額をみて、思わず言葉を失いました。

なんと、良樹さんが受け取れる年金額は月22万6,000円。富美子さんの老齢基礎年金5万円を合わせても、月27万6,000円だというのです。自身の計算では、月33万円程度になるはずでしたから、約5万円も少ない金額に愕然としました。

良樹さんは状況を把握できず、担当者に確認しました。

「ちょっと、5年間も年金を繰り下げたのに、ほとんど増えていないのはどういうこと? そちらの計算ミスじゃないのか?」

良樹さんは湧き上がる怒りを抑えながら、担当者に詰め寄りました。すると、担当者は申し訳なさそうに言います。

「水島さまの場合、総報酬額と本来の年金受給額が50万円を超えていたため、『在職老齢年金制度』が適用されます。その結果、在職中に支給停止となっていた老齢厚生年金部分については、繰下げ受給による増額の対象外となってしまうのです」

繰下げ受給によって大幅に増えると信じていた年金額は、良樹さんが65歳以降も高収入であったために減額となってしまったのです。

「まさか、そんな……こんなことなら繰下げ受給なんてしなきゃよかった」

良樹さんは思わず独り言を漏らし、頭を抱えました。

税金や社会保険料を差し引くと、年金の手取りは「25万円」に

その後、さらに追い打ちをかける事実が良樹さんを待ち受けていました。年金額には税金や社会保険料が発生し、それらを差し引いたあとの夫婦の年金手取り額は25万円まで減少することがわかったのです。

現役時代も十分な収入があり、定年後も散々豊かに過ごしてきた水島さん夫婦ですから、急にこの金額に合わせた水準に生活を切り詰めることは容易ではありません。

「大事な貯金も5年間で1,000万円も食いつぶしてしまった。これからどうやってやりくりすればいいんだ……」かつては「安心な老後」を確信していたはずが、一転して予想外の状況に追い込まれ、途方に暮れる良樹さんでした。

繰下げ受給しても「在職老齢年金」の支給停止分は増額の対象外

「在職老齢年金」とは、公的年金を受給しながら給与や役員報酬を得ている場合に適用される制度です。この制度では、受給資格者の総報酬月額と基本月額の合計が50万円を超えると、その超過分の2分の1が支給停止となる仕組みとなっています。この支給停止額の計算式は次のとおりです。

(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)÷2

ここで注意すべきは、老齢厚生年金を繰り下げると「在職老齢年金」の支給停止分が増額の対象とならないということです。 

今回の水島さんのケースで考えてみましょう。従来は65歳から受給できる老齢厚生年金が13万円で、繰下げ受給を利用して70歳まで繰り下げると42%増額する予定です。しかし、65歳以降の水島さんの総報酬月額は53万円ですから、「在職老齢年金」が適用されます。

よって、支給停止額は以下のとおりです。

支給停止額=53万円(総報酬月額)+13万円(年金月額)-50万円(支給停止調整額)÷2=8万円

つまり、年金額のうち8万円が支給停止となります。そのため、水島さんは13万円から8万円を差し引いた5万円の部分のみ増額が適用されます。

なお、年金増額分の計算は以下のとおりです。

■増額適用後の金額

5万円×1.42=7万1,000円

■実際の増額分

7万1,000円-5万円=2万1,000円

この結果、水島さんの年金増額分は月額わずか2万1,000円にとどまることがわかります。

通知書にも書かれていない、年金繰下げ受給の“盲点”

今回のケースは、繰下げ受給の意外な盲点を浮き彫りにしています。特に、在職老齢年金が適用される場合、繰下げ受給で大幅な増額を期待していても、支給停止分が増額対象外となるため、思ったように年金が増えない可能性があります。

また、繰下げ受給中に送られてくる通知書には、年金支給停止に関する具体的な記載がされておらず、受給開始時に初めて気づくというケースも少なくありません。

公的年金を受給できる年齢に達しても、現役時代と同様の収入がある場合、水島さんのように厚生年金の一部が増額されなかったという事例もあります。

加えて、年金には税金や社会保険料が差し引かれるため、増額した年金の全額を手取りで受け取れるわけではありません。年金が増えることで、その分、所得税や住民税、さらには健康保険料や介護保険料が増加する可能性があります。

そのため、在職老齢年金に該当するほどの収入がある場合、事前に年金事務所などに相談し、繰下げ受給が年金受給額に与える影響を正確に把握することが大切です。制度の仕組みやリスクを理解したうえで計画を立てることで、老後の生活設計をより安心なものにできるでしょう。  

辻本 剛士 ファイナンシャルプランナー

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