普通の葬儀にしておくべきでした…年金月14万円で慎ましく暮らした79歳母が急逝。53歳息子が「人気だから」と選んだ〈家族葬でのお別れ〉をいまだに悔やむワケ【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月16日 8時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
親の最期をどう見送るかは、いずれ誰もが直面する大切で避けられないテーマです。近年、家族葬を選ぶケースが多い一方で、親自身が望む葬儀の形を生前話し合わずに別れを迎えてから戸惑うケースも少なくありません。さらには、葬儀費用について事前準備ができていないと、遺された家族は大きな負担になることも。今回は葬儀費用の目安や準備方法、親の生前にしておくべきことについて、南真理FPが解説します。
母が急死、深く考えず「家族葬」を選択したが……
会社員の伊藤隆さん(53歳・仮名)の母・弓子さんは、79歳で亡くなりました。5年前に父が亡くなってから一人暮らしをしていた母は、買い物をしている最中に突然倒れ、救急車で搬送されたものの助かりませんでした。
伊藤さんにとって尊敬する母との急なお別れでしたが、悲しむ暇もなくさまざまな手続きに追われます。その中で、葬儀の形式を決めるにあたって、伊藤さんは迷わず「家族葬」を選びました。
母と葬儀について話したことはありませんでしたが、葬儀会社がいうには最近は家族葬が人気とのこと。家族葬は、親族など限られた人で故人を見送る葬儀のスタイルです。費用も70万円ほどで済むとのことで、なにより「家族だけに静かに見送られることを母も望んでいるだろう」と考えました。妹もそれに反対することはありませんでした。
そして、バタバタする中で母の親しい人達にも知らせることもせず、参列者は自分と妹の家族、そして母の弟だけという小さな葬儀を終えました。しかし、葬儀を終えて誰もいなくなった実家に行ったとき、母の部屋にあった机から一通の手紙を見つけました。そこには思わぬことが書いてあったのです。
「私が旅立つときには、お世話になった方々にきちんと連絡をしてください。たくさんいるので連絡先はまとめてあります。お葬式の費用は銀行口座に用意してあるので、これを使ってください」
母は、父亡き後は年金月14万円ほど(自分の年金と遺族年金など含む)で暮らしていました。伊藤さんは「急なことだったから母は葬儀代も用意していないだろう」と思い込んでいましたが、口座を見てみれば200万円ものお金がきちんと用意されていました。
また、伊藤さんは母の交友関係をそれほど深くは知りませんでしたが、社交的で長年同じ土地に住み、60代まで地元のスーパーで働いていたこともあり、母には友人や知人が想像以上に多かったのです。それを実感したのは、葬儀が終わって母の訃報を関係者に伝えた後のこと。伊藤さんはさらに後悔を深めることになりました。
親の最期をどう見送るか……。それは、遺された者にとって大きな課題です。後悔のない見送りをするために、親の生前にすべきことと葬儀について一緒に考えてみましょう。
葬儀の種類とそれぞれの特徴は?
葬儀にはいくつかの種類があります。以下に代表的な葬儀の種類を紹介します。
・一般葬
最も伝統的な形式で、親族や友人、知人など多くの参列者を招く葬儀です。会場を借りて行うことが多く、通夜と告別式を行います。参列者に対して会食を提供する場合もあります。葬儀費用は高くなりやすいですが、多くの人に見送ってもらうことができます。
・家族葬
親族や親しい友人のみが参列する小規模な葬儀になります。参列者を限定することで落ち着いた雰囲気で執り行うことができます。費用を抑えることができますが、後から故人の友人や知人からお別れを希望されることがあるため、周知しておく必要があります。
・直葬(火葬式)
通夜や告別式を行わず、火葬のみを行う簡素な葬儀になります。最も費用を抑えられる形式ではあります。故人を静かに見送りたい人には向いている形式と言えます。
・一日葬
通夜を省略し、告別式と火葬を1日で行う葬儀です。家族葬と一般葬の中間的な形式になります。一日で執り行うことができるため遺族や参列者の負担が軽減され、費用も一般葬より抑えることができます。
葬儀後の弔問客や香典返しの対応も思わぬ負担に
母・弓子さんの葬儀は家族葬で執り行われたため、伊藤さんは葬儀後に友人や知人に母の訃報を電話やメール、手紙で伝えました。すると、母の弔問に訪れたいという連絡や香典を送ってくる人が想像以上に多かったことに驚きました。
弔問客を迎えるにあたっては、先方との訪問日時の調整や祭壇を設けるなどの弔問場所の整理、お茶やお茶菓子の準備が必要になります。また、香典をいただく場合には、後日香典返しが必要になります。
香典返しとは、香典をいただいた方に感謝の気持ちを示すために贈り物をお返しすることです。一般的には、四十九日の後、1~2週間以内に、郵送または直接お礼状とともにお渡しします。金額の目安は、香典の3分の1~半額程度と言われています。香典返しの品物は、食べ物や飲み物、消耗品、カタログギフト、クオカードなどが好まれます。
伊藤さんは母の人脈の広さゆえ、個別に弔問客の対応をしたり香典を受け取ったりすることが想定以上に多かったのです。伊藤さんはしばらく休日になると実家に戻り、妻に手伝ってもらいながら対応に追われることになりました。
葬儀の形式や規模、費用はどう考える?
親の葬儀を迎えるにあたって、事前の準備はとても大切です。しかし、いざという時にどのような準備が必要なのか、普段から考えている方は少ないのではないでしょうか。特に、葬儀の形式や規模については、親自身の意思を生前にしっかりと確認しておくことが重要です。
「近親者のみに見送られたい」のであれば家族葬になりますし、「お世話になった方々に見送ってほしい」となれば、一般葬が妥当でしょう。故人の遺志を尊重した葬儀を執り行うことで、遺族の負担を大きく減らすことができます。
葬儀費用についても事前に考えておくべきポイントです。葬儀費用が準備不足だと、遺族の金銭面での負担が大きくなってしまいます。伊藤さんも、母が費用を用意しているとは知らなかったため、費用負担の少ない家族葬に惹かれたという側面がありました。
一般的には葬儀費用は喪主が払うものとされていますが、親が生前に生命保険で葬儀費用を準備しておくことで、遺族の負担を軽減することができます。死亡保険金の受取人を、喪主をお願いすることになる親族に指定しておくといいでしょう。死亡保険金の受取に要する時間も、提出書類に不備等なければ、1週間~10日程度で受取人の口座に入金されます。
また、生命保険以外にも、万一の時の受取人を指定しておくことができる相続型の信託商品※1もあります。生命保険同様にあらかじめ受取人を指定しておくことで、信託された金銭の支払い手続きをスピーディーに進めることが可能です。預貯金で葬儀費用を準備しておく方法もありますが、遺産分割協議等を経たのちに金融機関への手続きをする流れになりますので時間を要することは留意点となります。
また、葬儀費用には、公的補助制度があるのはご存じでしょうか。健康保険や国や自治体からの給付金があり、遺族の経済的負担を軽減することができます。
例えば、後期高齢者医療制度に故人が加入していれば、葬祭費として5万円支給されます※2。葬儀を行った日の翌日から2年を過ぎると支給対象とはなりませんので注意しましょう。これらの給付金は申請しなければ受け取ることができませんので、最寄りの市区町村担当窓口に問い合わせるようにしましょう。
後悔しないために、親が存命のうちに話し合いを
葬儀の後、伊藤さんは「普通の葬儀にしておけばよかった」と後悔を深めました。母に最期のお別れをしたいと言ってくれた多くの人々が一同に会して、華やかに見送ることができたらどんなによかったか。母はそんな葬儀を望んでいたのではないか。それに、こうして弔問客や香典返しの個別対応をする必要もなかったのに……。
伊藤さんは、妹と話し合った結果「故人を偲ぶ会」を四十九日の時に執り行うことに決めました。母の希望を叶えることができなかったという後悔がなくなるわけではありませんが、「今できる最善のことをしよう」と決めたのでした。
親の葬儀について話し合うことは決して簡単なことではありません。それが、親の生前であればなおさらかもしれません。しかし、大切な人を見送る場面で、事前に希望や費用をしっかりと準備しておくことは、遺された家族にとって心の負担を軽減する大きな助けになります。
もしも、今までできていなかったのであれば、後悔しないよう親が健在の間に、しっかりと話し合いの場を設けるようにしましょう。
大切な家族の最期を悔いなく見送るために、今できることを少しずつ進めていくことが大切です。
〈参照〉 ※1 遺言代用信託 | 個人のための信託 | 信託商品/活用方法 | 信託協会 https://www.shintaku-kyokai.or.jp/products/individual/assetsuccession/testament_substitution.html ※2 後期高齢者医療制度で受けられる給付|後期高齢者医療制度|大阪府後期高齢者医療広域連合 https://www.kouikirengo-osaka.jp/longlife/supply/sousaihi.htmlこの記事に関連するニュース
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