話が違うじゃない…20年間一緒に暮らしてきた亡き親友から「預金の全額を差し上げます」というメモを渡された73歳女性、相続発生後に“一銭”も受け取れなかったワケ【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月12日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
通常の場合、血縁関係者以外が「相続」に関与することはできません。では「遺言書」や「メモ」等によって生前に被相続人が意思表示をしていた場合は、どうなるのでしょうか。本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、生前のメモと遺言書の違いについて詳しく解説します。
知人同士で同居
敦子さん(73歳・女性)からお電話がありました。敦子さんと同居してきた薫さん(75歳・女性)が亡くなり、困っているといいます。
敦子さんは独身で、仕事をしながらひとりで生活してきましたが、趣味の関係で薫さんと知り合って二人暮らしをするようになって20年近いといいます。二人の関係は親友と言ってもいい関係でした。
薫さんは夫と離婚し、一人娘はいるのですがすでに独立していて、お互いに一人暮らしということから、一緒に住みましょうとなったようです。
薫さんの介護
薫さんはここ数年体調がすぐれず、検査すると手術が必要な病気だとわかりました。入退院を繰り返しながら、その間は、ずっと敦子さんが献身的に介護をしてきました。
薫さんの娘はかなり離れた地域に嫁ぎましたので、ほとんど来ることもなく、介護は敦子さんが一人でしてきたと言います。
そうしたこともあり、薫さんは実の娘よりも一緒に生活してきた敦子さんに頼り、感謝してきたといいます。
預金は敦子さんに
薫さんは亡くなる数か月前に娘を呼び寄せ、敦子さんがいる前で、「預金の全額を敦子さんに差し上げます」と書いたメモを見せたと言います。
ずっと身近なところで支えあってきた敦子さんにお礼をしたいということです。薫さんの娘は母親の遺志であればと了解してくれたのです。
敦子さんの預金は1,200万円ほどありました。普段の生活は二人の年金を出し合って、家賃や生活費を負担してきましたので、その預金を切り崩さなくてもやってこられたのです。入院や手術などで数年間は支出がかさみましたが、その残りで1,200万円でした。
遺言書にしていなかった
娘が快く賛成してくれたので、薫さんはそのメモでよしと思い、遺言書にはしていませんでした。
その後、薫さんが亡くなり、敦子さんはそれまで預かっていた預金通帳をいったん娘に渡したのです。そして、薫さんの遺志のとおり、1,200万円を渡してもらいたいと娘に言いましたが、娘は「預金は凍結されて下ろせない」などと言って、もう半年もそうした説明です。
困った敦子さんはいろいろと本を読んでみたところ、相続人が一人なのに預金を下ろせないのはおかしいと気が付いたようで、どうしたらいいかというご相談でした。
娘は払う気がない
薫さんのメモは日付や印鑑がないため、遺言書の形になっていません。そのため、相続人ではない敦子さんが、薫さんの財産をもらう術がないのです。
亡くなる前であれば、贈与をしてもらう方法がありましたが、敦子さんはこんなことになるとは思わなかったようで、贈与を受けたり、預金を引き出したり、まったくの対抗措置をしていなかったのです。
そうなると敦子さんに勝ち目はなく、相続人の娘に相続の権利があります。
例え預金は敦子さんにというメモがあり、口頭でも聞いていたとしても、「聞いていない」「知らない」「気が変わった」と言えば、それで済んでしまうのです。
方法はあるか?
なんとも理不尽な話ですが、敦子さんは薫さんの介護や身の回りの世話をしてきたという事実がありますので、弁護士を通じて、薫さんの遺志通りに預金を渡してもらうよう、また、介護の貢献があるので考慮してもらうよう、交渉してもらうようにとアドバイスしました。
法律的な要件では対抗できないため、心情的に訴えていくしか方法はありません。
生前のご相談であれば、薫さんに遺言書を作成してもらうことや、生前贈与してもらうなどいくつかの方法があったのにと残念に思うところです。
相続実務士のアドバイス
●できる対策
弁護士に依頼して財産を渡してもらうよう交渉する。
●注意ポイント
法律的な対抗要件がないため、相続人に突っぱねられる可能性もあります。
このような場合、生前に対策しておくことが必須だったと言えます。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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