離婚時半分にわける必要がない「婚姻前の財産」だが…財産分与の対象になる「ひとつの例外」【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月27日 14時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
結婚生活で気になるのが、「結婚前に所有していた財産はどうなるの?」という問題です。結婚前に自分で貯めたお金や、結婚前に購入した不動産などは、結婚すると夫婦の共有財産になるのでしょうか。また、もし離婚することになった場合、夫婦それぞれの個人資産も財産分与の対象になるのでしょうか。本記事では、夫婦の共有財産についてAuthense法律事務所の白谷英恵弁護士が解説します。
結婚前に所有していた財産は「共有財産」になる?
原則として、夫婦それぞれが結婚前に所有していた財産は、あくまでも個人資産であり、夫婦の「共有財産」とはなりません。法律上、夫婦のどちらかが結婚前から形成した財産のことを「特有財産」と呼んで、共有財産とは区別しています。民法第762条1項においては、
「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。」
と定められています。具体的には、結婚する前に貯めた貯蓄や、購入した家財・不動産、結婚前から所有する会社の持ち分(株式など)等が、「夫婦の一方が婚姻前から有する」特有財産に当たります。もちろん、結婚前に双方の家族から相続したり、贈与を受けたりした財産についても、法律上は夫婦の共有財産に含まれません。この場合、婚姻前だけでなく、婚姻期間中に相続・贈与を受けた財産についても、個人の特有財産となりうる点に注意が必要です。
ただし民法762条2項に、
「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する」
とあるとおり、例外として自己の名義ではないなど、財産がどちらに帰属するのか不明確である場合は、夫婦どちらかの特有財産として認められないケースがあります。
また、結婚前に所有していた財産だけでなく、結婚前の負債も、いわば負の財産として当人のみが責任を負うことになっています。夫婦の一方が他方の保証人となっていなければ、法律上支払いの義務は存在しません。たとえば、結婚前に作った個人的な借金や、結婚前に購入した不動産の住宅ローンなどは、原則として夫婦共有の負債とはなりません。
ただし、結婚前に金融機関から借り入れを行って住宅を購入し、結婚後に夫婦の収入から住宅ローンを返済したなどの事情があった場合、夫婦共同で返済した部分については考慮される可能性があります。
結婚前に個人で形成した特有財産と、結婚後に夫婦で形成した共有財産は、法律的には別のものと定められています。しかし、新居を購入する必要があったり、子どもの進学にあたって学費がかかったりと、結婚生活ではお金が必要になる局面が多々あるものです。
その場合、夫婦どちらかの個人資産から拠出を求められることもあります。円滑な夫婦関係を築きたい方や、不要なトラブルを避けたい方は、弁護士に相談することも一案です。
離婚時の財産分与…原則として「共有財産」のみが対象
離婚時に夫婦の共有財産を分配することを「財産分与」と呼びます。夫婦が協力して貯蓄したお金や、夫婦共同で購入した資産がある場合、離婚時に財産分与を行うのが通例です。
民法768条1項において、
「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」
と財産分与の権利が定められています。一般的な意味での「慰謝料」とは異なるため、財産分与は離婚原因を作った有責配偶者の側からも申し出ることができます。
離婚後の財産分与の対象となるのは、婚姻中に形成した夫婦の共有財産のみです。結婚前に形成した個人資産や、婚姻前・婚姻中にかかわらず夫婦個人の名義で相続・贈与を受けた資産は、原則として財産分与の対象となりません。具体的には、婚姻中に取得した下記のような資産が財産分与の対象となります。
・結婚後にどちらかの名義で貯蓄した現金や預貯金
・投資信託や有価証券(株式や国債など)
・婚姻中に購入した不動産(土地や建物など)
・家具、家電、自動車などの電化製品
・宝石、美術品、骨董品など金銭的価値が高いもの
・掛け金を支払ってきた生命保険や自動車保険
・夫婦のどちらかが受け取る年金や退職金
・住宅ローンや教育ローンなどで借り入れた負債
注意が必要なのは、婚姻中にやりくりして貯蓄した「へそくり」も財産分与の対象となりうる点です。個人的な貯蓄は、原則として婚姻中の生活費から捻出されたとみなされるため、共有財産とみなされるケースがあります。
離婚後の財産分与の考え方
離婚後の財産分与の考え方には、下記の3種類があります。
・清算的財産分与
婚姻中に形成された夫婦の共有財産を清算する
・扶養的財産分与
相手方が経済力に乏しい場合に扶養を行う
・慰謝料的財産分与
離婚の際に慰謝料が発生する場合に請求を行う
離婚後の財産分与のうち、もっとも基本的なものが「清算的財産分与」です。婚姻中に夫婦で形成した共有財産について、公平に分配を行います。離婚原因を作った有責配偶者であっても、清算的財産分与は請求できます。
離婚後に夫婦の片方が経済的に困窮する恐れがある場合、経済的な支援の目的で「扶養的財産分与」を行うケースもあります。これは夫婦の片方が病気や高齢である場合や、経済力に乏しく就業していない場合に認められることがあります。
また、離婚原因によっては慰謝料が生じる場合があります。原則として、慰謝料は財産分与とは別個に考えますが、便宜上両者をまとめて請求することがあります。この場合、慰謝料も含むという意味で、「慰謝料的財産分与」と呼びます。
財産分与は、離婚と同時に請求を行うのが通例です。しかし、離婚時に取り決めを行っていなかった場合でも、あとから請求を行うこと自体は可能です。ただし、あとから財産分与を行う場合は、離婚成立から2年以内が請求期限である点に注意が必要です。離婚成立後に相手方と連絡がとれなくなったり、住所や職場が変わっていたりと、財産分与の請求に支障をきたした例があります。
話し合いが長引くこともあるため、まずは離婚を優先したいという方でも、できる限り財産分与の取り決めも併せて行うことをお勧めします。離婚に伴う財産分与は、なるべく早い段階で、相互に話し合いの場を持つことが重要です。
しかし、当事者間だけでは思わぬトラブルに発展する可能性もあります。財産分与をスムーズに行いたい方は、自己判断をするのではなく、財産分与の解決事例が豊富な弁護士などに相談することも検討するとよいでしょう。
結婚前に財産の取り決めをしておく
夫婦の資産についてのトラブルを避けるには、婚姻前に双方で話し合い、お金の問題について取り決めをしておくことが大切です。結婚後はどこからどこまでを夫婦の共有財産とするのか、家計の管理はどうするのかなど、なるべく結婚前にクリアにしておくことをおすすめします。
子どもの進学やマイホームの購入など、急な出費が発生した際、共有財産の線引きが明確であればトラブルに発展しにくくなります。また、お金の問題をクリアにしておかないと、そのこと自体が離婚やトラブルの原因となってしまうことも多々あります。
具体的には、下記のようなポイントをあらかじめ明確にしておくとよいでしょう。
・結婚前の個人資産がどのくらいあるかを事前に伝えるか
・共働きの場合は毎月の給与明細をお互いに見せ合うか
・夫婦のどちらが家計を管理するのか
・小遣い制にするか否か
・生活費の負担を折半にするか
・生活費はそれぞれの給料から出すようにするか
・結婚後の共有財産について婚前契約を取り交わすか
あらかじめ夫婦間でルールを決めておくことで、円満な夫婦生活を築くことができます。万が一離婚となっても、あらかじめ共有財産のラインを明確にしているため、離婚後の財産分与が原因のトラブルが発生しづらくなります。
また、あらかじめ夫婦で「婚前契約」を結ぶことで、結婚後の夫婦で財産を共有しないという選択肢も生まれます。婚前契約とは、結婚前に夫婦が同意して結ぶ契約のことです。夫婦の共有財産について、民法第755条では、
「夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる」
と定めています。「次款」とは民法第760条以降のことで、たとえば同条には、
「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」
とあります。つまり、夫婦間であらかじめ覚書や契約書を取り交わしておけば、結婚後も夫婦の財産をわけることが可能です。しかし、結婚前に財産に関する取り決めを行う場合や婚前契約を交わす場合は、思わぬ見落としがないか確認したり、法的に問題がないかのリーガルチェックを行ったりもできるため、豊富な知識のある弁護士などに任せたほうが安心かもしれません。
夫婦間のトラブルを避けるために
結婚前の貯蓄や、結婚前に購入した家財・不動産、相続した資産などは、法律的には夫婦どちらかに帰する「特有財産」です。また、婚姻前に作った借金や、婚姻前に借り入れた住宅ローンの返済分といった負の財産についても、夫婦の共有財産とはなりません。
そのため、万が一離婚した場合でも、夫婦どちらかの個人資産は原則的に財産分与の対象になりません。夫婦間のトラブルを避けるためには、結婚前に共有財産の取り決めをすることが大切です。
白谷 英恵
Authense法律事務所
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