長年憧れたが…「中古でも車は贅沢品」、借金は2倍以上に。「車を持つこと」の“思わぬ落とし穴”【米個人投資家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月31日 8時15分
画像:PIXTA
個人投資家ジェイエル・コリンズ氏が2016年に出版した『父が娘に伝える自由に生きるための投資の教え』は、シンプルで実践的な投資の哲学を伝え、多くの読者に影響を与えました。その教えは世界中で共感を呼び、実際にその原則を取り入れて人生を変えた人々の体験談が数多く寄せられています。書籍『投資家の父が子どもに教えたお金の増やし方 幸せに生きるためのシンプルな投資の教え』(著者:ジェイエル・コリンズ、訳者:伊藤晶子、出版社:KADOKAWA)は、そうした仲間たちのリアルな物語を交え、誰もが経済的自立を目指せる具体的な方法を示しています。本連載では、同書から一部を抜粋・編集し、経済的自立を目指すためのヒントや教訓をお届けします。
「車を持つ」ということ
車を持つという大きな過ち(トラヴィス・デイグル アメリカ)
車にまつわるエピソードなら山ほどあります。プロムの夜のプレッシャー、自動車の都デトロイトの大学へのあこがれ、デトロイトでの就職など、常に車と車が与えてくれる自由に夢中でした。でも気をつけないと、車はほかのものも運んできます。
私と車とのロマンスは、つまるところ、大きな過ちに至る物語です。
結果とは、長い時間をかけて下した小さな決断の積み重ねです。だから毎日の一瞬一瞬を意識的に過ごさなければなりません。長い間にしみついた思考パターンは、いちばん大事な意思決定に影響します。
いい車にはいつもあこがれていましたが、お金や車のことはほとんどわかっていませんでした。わかっていたのは、いい車がほしいということだけ。現実には、新車であろうとポンコツであろうと、車は贅沢品です。手に入れて乗り回すにはお金がかかります。価値はだんだん下がっていくし、故障します。そう、故障です。故障するんです。修理にはお金がかかります!
これが、車を持つとはどういうことかについて、私が理解できていなかった大きな穴でした。ステータスシンボルしか目に入らず、マイナス面が見えていなかったのです。車を持つことについて、実用性でなく貧弱なイメージだけをふくらませていました。ずっとこんな重大な問題を抱えたままだったのですが、ついにその弱点があらわになりました。
「記録的なハリケーン」がもたらした苦難
2005年の大西洋沿岸におけるハリケーン・シーズンの激しさは記録的でした。ハリケーン・カトリーナの影響で多くの人がルイジアナ州からテキサス州に避難しましたが、それから3週間後、今度はハリケーン・リタによって、ヒューストンの人たちは全員が強制避難をさせられました。大勢の人が車でダラスに向かいました。渋滞した高速道路は、まるで駐車場のように車がまったく動きませんでした。
私は車でバーミンガムのある東の方に向かうことにしました。ハリケーンの上陸予想地も同じく東でしたが、上陸前にそのエリアを通過する時間は十分にあると見ていました。ほかの人たちはみんな反対方向を目指していたので、高速道路は空いているだろうと思ったのです。
走行中、私のアキュラのパワーステアリングの調子がおかしくなりました。
ハリケーンから逃げたい一心で、あえてそれに向かっている私たちにとって、これは明らかにうれしくない状況でした。「私たち」というのは、私の当時の親友、妹、そして3歳の甥もいっしょだったからです。今は亡き妹は、信じられないほど頑固になることがありました。
服を買うから絶対にウォルマートに寄りたい、と言いました(慌てて出発したため、あまり服を持ってきていなかったのです)。私は車の調子がおかしいし、ハリケーンから逃げてるんだから、バーミンガムに着いてからにしようと妹に言いました。
ハリケーンと今後の動き、車の不調、どう見ても完全に理不尽としか思えない妹との口論どもえという状況が三つ巴になって、私はいら立ちを募らせました。
車の故障と修理費用が突きつけた“現実”
バーミンガムに着いてから車を見てもらったところ、かなりの修理が必要だとわかりました。私はエンジニアとして働き始めたばかりで、修理代を払うお金が十分になく、自分の車の頼りなさにうんざりしました。あれだけ長い年月を学校生活に費やして一生懸命勉強してきたのに、被災しそうな地域から避難するときの車が使いものにならないなんて。
「あーやってらんないわ! 新しい車を買ってやる!」。腹が立った私はヒューストンに戻ると、車を探し始め、2週間後には2005年式スバル・レガシィに乗っていました。5年間で2万8,000ドルのローンを組みました。
新しい車を手に入れてから数時間のうちに、私の借金は学生ローンの2万2,000ドルから、総額5万ドルに増えました。
エンジニアの仕事はもともと好きになれない気がしていましたが、ここまで嫌になるのは想定外でした。車のローンを組んでから3ヵ月後に、これほど耐えられない仕事を辞められないのは、自分が運転しているこの車のせいだということに気づきました。
仕事が憂うつになるにつれて、車への恨みが募りました。車のせいで移動の自由がなくなったのです。子ども時代の自由の象徴が、今や自由の抑圧者そのものになったのだから、皮肉なものです。でも選んだのは私です。
何年も続いた借金の返済……“教訓”
最終的にエンジニアの仕事を辞めたとき、私にはふたつの選択肢がありました。
1.うつ病が自然に治まるのを待ち、自殺したり心臓発作を起こしたりしないことを祈る。
2.車を任意売却して、信用が地に落ちるのを甘んじて受け入れる。
私は後者を選びました。
逆説的ですが、その後何年も続いた借金の返済体験を通して、真の自由とは何かを実感することができました。ここでいう自由とは、自分の時間とエネルギーの使い方を細かくコントロールできるという自由です。車のローンがあったため、私にはどうしても収入が必要でした。この問題に関しては、仕事や生活の中で実験する余地はありません。時間とエネルギーの使い方を車に操られました。車を手放したあともです。最悪! 衣食住の必需品のために働くことと、どうでもいいもののために働くことは違います。
さらに、その仕事が嫌いなものであれば、もっと悲惨です。私はものを所有したいですが、ものに所有されたくはありません。
「規律はすなわち自由である!」
エンジニアを辞めてから約半年間は、パーソナルトレーナーをやっていました。ほとんどお金にはなりませんでした。続けたかったものの、まずは借金という重荷を下ろす必要があったのです。パーソナルトレーナーの仕事を辞めてはっきりわかったのは、物質的な欲求をコントロールすることが、自分の選んだ仕事の働き方をコントロールできることと直接的に関係してくるということです。
最終的には、正確に予算を立てることで不安が軽減され、予算を立てないときよりもお金の緊急事態にはるかに対処しやすいと気づきました。規律を持って収入源を管理することで、過去8年間、仕事への取り組み方をいろいろと試すことができました。元海軍特殊部隊ジョッコ・ウィリンクが言うように、「規律はすなわち自由である!」。
借金を返済する過程で、お金、時間、エネルギーについての考え方が完全に変わりました。物質的なもので不要なものは、私にはほとんど何の意味も持ちません。ものに支配されるのはお断りです。いい車を買うお金があることと、いい車を維持するお金があることは別物です。今でも車は好きです。
ジェイエル・コリンズ
投資家
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